第2話初めてのデート

 華がデートと言い出したのはどうやら本気だったらしく、俺達は付き合う事になったそのままの勢いで、本当にデートへ向かうことになった。


「それでデートってどこへ行くんだ?

 」


「え? 亮太がエスコートしてくれないの?」


「さっきデートに行くことになったのに、エスコートなんてできるわけないだろ?」


「そこは何とかアドリブで頑張りなさいよ」


「アドリブってお前な......」


 こっちは完全ノープランだというのに、アドリブもへったくれもない。


「私......亮太と一緒ならどこに行ってもいいよ?」


 けど華は俺の腕を組んで、少し上目遣いでそんな台詞を言ってくるものだから、こっちも男として決めなければならない気持ちにさせてくる。


(これは卑怯だろ)


 いくら長年の付き合いと言えど、普段とのギャップを見せつけられたら俺もその気になってしまう。


「そこまで言うなら、本当に任されていいんだな?」


「任せたって言っているんだから、素直に受け取りなさいよ。私だってこれでも勇気を出しているんだから」


 偽装カップルのためとはいえ、華も相当勇気出しているのは腕に感じる彼女の鼓動から嫌でも伝わってくる。


(こっちは別の意味で緊張しているの、伝わっていないよな)


 チラッと横目で華を見るが、特に俺を気にしている様子はない。


「どうしたの、亮太」


「いや、なんでも。とにかくベタだけどまずは映画でも見に行ってみないか?」


「賛成。丁度見たい映画があったから、早く行きましょう」


 エスコートしてと言った本人が俺の腕を引っ張る。やっぱり意識しているのは俺だけなのかもしれない。


(こっちの気も知らないで、本当無茶苦茶だよな)


 2

 映画館は祝日なだけあってお客さんの数も多かった。しかもその大半がカップルが多く、その中に自分達もいるって考えると少し気恥ずかしい。


「それで何を見るんだ?」


「これよ、これ」


 と華が指を指したのは、今流行っているアクション映画だった。学校での彼女しか知らない人達はこれを見たら信じないだろうが、華は昔から恋愛映画とかよりもこういうアクション系の映画の方が好きだ。


「この前見に行ったっ話していなかったか? この映画」


「今日で観るのは三回目ね。初日舞台挨拶も当然行っているわ」


「相変わらずアクション映画への熱量だけはすごいな」


 この熱量を普段の学校生活に注げば、少しは印象が変わるのにとつくづく思うのだが、この彼女を観られるのは自分だけだという特別感が無くなるのが嫌なので黙っている。


「チケットは私が買ってくるから、亮太はポップコーンと飲み物を買ってきて。私オレンジジュースね」


「了解」


 俺と華はそれぞれ買い物に向かうために、一旦別れる。


(はぁ、緊張した。まさか偽物とはいえ付き合うことになるとはな)


 売店の列に並びながら、俺はこの僅か数時間の間に起きたことを振り返る。


(ストーカーか。まさか華がそんな目に合っていたなんて、想像できないよな)


 もっと早く気づいてあげられれば、良かったって後悔の気持ちも湧き上がってくる。何も起きなかったことが不幸中の幸いとはいえ、この先も絶対に安全とは言えない。

 むしろ俺という彼氏が出来たことで、逆上する可能性だって大いにある。高校生同士だから安全だなんて今の世の中では絶対に言い切れないから、何か対策も取らなければいけない。


(俺が絶対に護ってやる。もう二度と悲しませないからな)


 遠くでチケットを買っている彼女を眺めながら、俺は心に強く誓った。


 3

 ーまだ心臓の鼓動が早い


 これ以上亮太に気づかれないために、一旦別れたけど身体中が熱かった。自分で取った行動とはいえ、恥ずかしさの方が勝っている。


(亮太はドキドキしてくれたかな)


 私の無茶振りに少し戸惑ってはいたけれど、それでも亮太は文句一つ言わずに私に付いてきてくれた。

 ストーカーの件は本当のことだけど、本当はそんなの建前で、本当の目的があるって亮太が知ったら怒るかな。


(いつも通りの私でいれば大丈夫。いつも通りの私でいれば)


 私は二人分のチケットを買って、亮太と合流する。


「お待たせ亮太」


 私はまた彼の腕に抱きつく。こんなことしたらまた緊張することくらい分かっているのに、結局同じ事を繰り返している。


「お前ってそんなに大胆なことするやつだったか?」


 けど亮太のこんな反応を見させられたら、何度でもやってみようなんて思っていた私だったけど、


「元から私はこういう女よ」


「そうだったのか。まあ、その、そっちの方が可愛いからいいんだけどさ」


 思わぬカウンターが亮太から返ってきて、身体が沸騰しそうになってしまう。


「か、可愛い? 私が? 冗談とかで言っているんじゃなくて?」


「演技とかそう言うのじゃなくて、俺は本心から言っているよ」


「そ、そうなんだ」


 思わぬ不意打ちを食らった私は、この後みた映画の事なんて覚えているわけがなかった。


 4

 映画を見終わった後は、二人で近くの喫茶店に向かい、そこで映画の感想を語りあった。


「最後のシーンもよかったよな。全員集合してさ」


「う、うん。よかったわよね」


 しかし何があったか分からないが、華は映画が始まる前からどこか熱に浮かれたようにボーッとしていた。


「どうしたんだ華。顔が赤いけど熱でもあるのか?」


「き、気にしないで。ちょっと、その、頭がボーッとするだけだから」


「それを熱があるって言うんだけどな」


 もうすぐ12月ということもあって最近気温の寒暖差も激しい。熱が出てもおかしくない。


「今日のデートはもう終わりにした方が」


「それだけはやめて!」


 静な喫茶店に響く華の声。こういうときの彼女は本気で言っているので、俺の方が引き下がるしかないのだが、それでも心配なのは心配だ。


「わ、分かったよ。でも無茶だけはするなよ」


「ごめんなさい......」


 そんなつもりはなかったのだが、変な空気が喫茶店に流れてしまったので、俺達は仕方なく喫茶店を出る


(せめて次は人目が気にならない場所を選ぶか)


 隣を歩く華を見ながら、俺は次の目的地をどうするか考える。だけど喫茶店を出てすぐのところで、華の足がふと止まった。


 「どうした、華」


 「やっぱり今日は帰ろう亮太」


 「は? どうしたんだよいきなり」


 「いいから、帰る」


 態度が急変した華に俺は何か言おうとしたが、彼女の顔を見て俺はそれ以上何も言えなかった。


 ー華の顔がさっきまでと違って、外の顔に変わっていた

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