まとりょーしか

もちだるま

第一章 月の光

ドビュッシーの『月の光』が流れる月曜日。潔いほどの雨がまっすぐに地面を叩いている。

 十月に入ったこの時期、朝の六時はまだ少し明るみに欠けていた。

 窓を伝う雫がほかの雫と合わさって大きな雫を作り、スピードを上げる。空には薄いグレーの膜が張り、窓から見える景色には細かく降りしきる霧のような雨がモザイクをかけた。


小中高一貫の名門お嬢様学校と名高い、私立緑風学園の高等部。のどかな街の小高い丘の上に所在する、今では珍しい全寮制の女子校である。

 日本を代表する企業や政治関係者の令嬢が初等部から多く通うこの学園は、奨学生制度が充実しており、高等部の半数は外部入学生。

昔は校則が厳しい学校で有名だったが、今では《個性を育む》という理念の元、髪色や装飾などは、常識の範囲内であれば特に咎められることもなく、無断で学外に出ることと電子機器の持ち込みが禁止されていること以外は、一般的な学校よりも自由。寮舎も校舎も定期的な改築を行っており、老朽化とは無縁だ。

 一クラスに十六人、高等部全体で計二百人弱。全生徒が寮生活をしているが、部屋・談話室などはオートロックのブースにあるため、 自分のクラス以外のブースには入れない仕様になっている。

 カードキーはプリペイドカードの役割を兼ね備えており、学園内の食堂やカフェテリア、購買部などでの支払いも行える仕組みだ。

 由緒正しいお嬢様学校という堅苦しい肩書でも、毎年入学志願者が多いのはそのような近代的なシステムを取り入れているところが大きく関わっているだろう。


 寮舎内に木琴の音が流れ始めた。

『ごきげんよう』

 窓のサッシに雫が吸い込まれたと同時に、寮の廊下に挨拶が散らばる。

クラスブース入口の扉から正面に談話室、左右に四部屋ずつの計八部屋が並んでいる。各部屋から少女たちが顔を出し始めた。

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