スミレ「小さな幸せを見つける場所」

 スミレは、町の片隅にある古いカフェでアルバイトをしている高校生だった。カフェの名前は「花の庭」。古い木製の椅子や、アンティークのランプが並ぶその空間は、どこか懐かしく心が落ち着く場所だった。

 店名の由来は、店主の加藤さんが庭で育てている花々が庭に咲き誇ることからだ。四季折々の花が店の入り口に咲き誇り、それぞれ可憐な姿で通りがかった人々を迎える。

 花壇に綺麗に咲き誇る花たちに水をやりながら、スミレは自分の名前の由来を思い出していた。


「あなたが生まれたとき、小さなすみれの花のように可愛らしくてね。控えめだけど、誠実で誰かを癒せるような人に育ってほしいと思ったのよ」


 その話を聞くたび、スミレはどこか照れくさくなったが、自分の名前が好きだった。

 ある冬の日、カフェに一人の常連客が訪れた。古びたスーツを着た中年の男性で、名前は森川さん。スミレが働き始めたころから、ほぼ毎日同じ時間にコーヒーを1杯頼み、窓際の席で静かに読書をしている人だった。彼は多くを語らないが、スミレは彼の柔らかい笑顔に安心感を覚えていた。

 しかし、その日は少し様子が違った。いつもの席に座った森川さんは、カウンター越しのスミレにぽつりと話しかけた。


「この店に来るとね、ほっとするんだよ。君のように明るく誠実な店員さんがいるからかもしれないね」


 突然の言葉に、スミレは驚きながらも微笑んだ。


「そんなふうに思ってくださるなんて、嬉しいです。でも、私は普通ですよ。ただコーヒーを出してるだけで……」

「謙遜しないで。実は、最近仕事でいろいろあってね。この店が、そして君が、私にとって小さな救いになっているんだ」


 スミレはその言葉に戸惑いながらも、心が温かくなるのを感じた。自分が誰かの支えになっているかもしれない。そんなふうに思ったのは初めてだった。

 それからしばらくして、森川さんは「お世話になったお礼」として、店の前庭にすみれの苗の贈り物をくれた。まだ蕾だが、春になるときっと前庭の花たちと一緒に綺麗に咲き誇るに違いない。


「私の名前も、花も、小さいけれど、誰かにとっての幸せになれるんだな」


 控えめで小さな花だからこそ、人の心にそっと寄り添える。スミレはそう信じながら、カフェでの日々をこれからも大切にしていこうと思った。


「スミレ」花言葉

・謙虚・誠実・小さな幸せ

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