ゴミスキル《過去視》、廃品回収で掘り出した力が無双への第一歩だった
@sunao_eiji
第一話「いじめられっ子と役立たずのスキル」
冷たい冬の風がグラウンドを吹き抜ける。広大なグラウンドには無数の標的が整然と並び、あちこちに魔法で焦げた黒い跡が散らばっていた。生徒たちの熱気と歓声に包まれたこの空間は、冒険者養成学校であるこの学園で、最も注目される授業の一つ――魔法実技演習の場だった。
毎週行われるこの授業では、学生たちが自分のスキルや魔法の腕前を競い合い、教師たちから評価を得る。誰もが熱心に取り組み、次のランクアップやギルド推薦を目指している。この日も例外ではなく、グラウンドには生徒たちの真剣な表情と、放たれる魔法の閃光が飛び交っていた。
だが――俺にとっては、できるだけ避けたい時間だった。
「次、城戸正也!」
教師の野島が鋭い声で名前を呼ぶ。低い冬の日差しの中で、クラスの中でも一際目立つ存在がゆっくりと前に進み出る。その名は城戸正也。校内でもトップクラスのスキルを誇るAランク冒険者候補で、クラスの中心人物だった。
「見てろよ、これがBランク冒険者の力だ」
城戸は自信満々の声で宣言すると、片手を高く掲げ、もう片手で指先を宙に走らせる。彼の動きは堂々としていて、その場の空気すらも支配するようだった。低い声で呪文を唱えるたび、周囲の空気が震え、彼の掌に赤々と輝く炎が宿るのがわかる。
「焔よ、我が手に集い、敵を焼き尽くせ――《フレイム・ボルト》!」
瞬間、轟音とともに炎の矢が彼の掌から放たれた。その光景はまるで、目の前の空間そのものが焼き尽くされるようだった。一直線に標的を貫いた矢は、それだけでは終わらない。矢が衝撃で弾けると、その爆風が周囲にあった他の標的をも巻き込み、粉々に吹き飛ばした。
「うおおおっ!」
グラウンド全体が沸き立った。歓声が上がり、拍手が巻き起こる。取り巻きたちが口々に「さっすが城戸!」と褒めそやし、女子たちの間からも歓声が上がっているのが見えた。
「まあ、俺にかかればこんなもんだよ」
余裕たっぷりの声でそう言いながら、城戸は肩をすくめ、手を振り上げる。その仕草一つ一つに、自信があふれ出していた。彼は周囲の注目を全て吸い寄せるように立っていて、その姿はまるで舞台の主役のようだった。
そんな様子を見ながら、俺は視線を落とし、靴の先を見つめた。どうせ俺には、こんな華やかな場面に立つ資格なんてない。
(……見せつけられてどうしろってんだよ)
心の中でそう呟き、息を吐いた冷たい空気がすぐに白く凍る。それでも俺は、周囲の盛り上がりをただ静かに眺めるしかなかった。
グラウンドの片隅に立つ俺は、できるだけ気配を殺していた。天城蓮――それが俺の名前だ。だが、クラスの誰も俺の名前を呼ぶことはない。いや、もし呼ばれるとしても、それは「役立たず」として嘲笑の対象にされる時だけだ。
魔法実技の授業では、ランクの高い生徒が称賛を浴び、スキルを持たない者や、俺のような「使えないスキル持ち」は自然と隅に追いやられる。このルールを破る者は誰もいない。それが、この学校での暗黙の了解だった。
俺の立っている場所は、グラウンドの端。足元は、さっきまでの演習で削られた土が荒れていて、ところどころ小さな穴が開いている。そんな場所を、まるで自分の居場所だと諦めるように選んでいる自分が情けない。だけど、これが俺の「立ち位置」だ。
「おい、天城!」
案の定、城戸の声が飛んできた。彼の大声はグラウンド全体に響き渡り、取り巻きたちがそれに続くようにこちらを振り返る。笑いを含んだ視線が次々と俺に向けられた。
「お前もやってみせろよ! 見てるだけじゃ意味ねえだろ?」
その言葉に、周囲の注目が一気に俺に集中するのがわかる。好奇の目、嘲笑の目、何も言わずに冷ややかに見ているだけの目――その全てが俺に刺さるようだった。
「……いや、僕は……」
俺は声を絞り出すように答えた。声が小さすぎて届かなかったのか、わざと聞こえないフリをしたのか、城戸は更に声を大きくして言葉を投げかけてくる。
「はあ? お前、このままだと成績ランクF確定だぞ? ……あ、もうFだったわ!」
ギャハハハ! 周囲の生徒たちが一斉に笑い声を上げる。
「そりゃそうだよなあ。《過去視》なんて役に立たないスキルじゃ、当然か。ていうか、まだ授業受けてるだけマシだよな? 俺なら恥ずかしくて休むわ!」
彼らの笑い声は止まらない。それどころか、まるでその場にいる全員が俺を笑いものにするために団結しているように感じた。
「お前のスキル……くっ、くくくっ」
城戸が改めて言葉を続ける。取り巻きたちの笑い声が少し落ち着いたところで、彼の声がより鮮明に響く。
「今から1秒だけ過去が見えるとかマジで笑えるわ。いや、逆にどうやってそれで生き残るんだよ?」
彼の言葉に、取り巻きたちは再び爆笑した。きっとクラスの半数以上が同じ気持ちなのだろう。「スキルを持っていながらも何もできない」という俺を嘲ることで、自分たちの優位性を再確認している。
俺は顔を上げず、視線を足元に向けたまま静かに息を吐く。これ以上、何か言っても意味がない。むしろ、反論すればするほど笑い声が大きくなることは目に見えていた。
(……ほっとけよ)
心の中でそう呟きながら、拳を握りしめた。だけど、この悔しさをどう処理すればいいのか、それすらわからなかった。
「天城、聞いてるのか?」
再び城戸の声が響く。俺はそれに答えないまま、顔を伏せ続けた。黙っていれば、いつか諦めるだろう――そう思っていたのに、奴は執拗に追い打ちをかけてきた。
「おいおい、本当にスルーかよ。なんだ、その態度は。そんなに俺に敵わないって分かってるからか?」
取り巻きたちがヒューヒューと口笛を吹く。俺の背中に笑い声が突き刺さる。さっさと次のターゲットにでも向かえばいいものを、彼らは完全に俺を「遊び道具」にしている。
「なあ、試しにスキル使ってみろよ!」
城戸がふざけた声でけしかける。
「ほら、1秒前が見えるんだろ? この俺が何をしたか、ピッタリ当ててみろって!」
取り巻きたちがまた笑い出した。俺はそれを無視して視線を下げたままだ。だけど、その静けさが逆に彼らを煽ったのか、城戸は一歩、俺の方へ近づいてきた。
「お前、そんなに大事にスキル隠してるなら、見せてみろよな。まあ、どうせ『1秒前』見るだけなんだろうけどさ!」
城戸の手が俺の肩を叩く。軽い一撃だったが、その仕草には見下しと挑発が込められていた。
俺は唇を噛みしめる。振り返りたくても、そんなことをしても事態は悪化するだけだと分かっている。ここで反撃したところで、何も変わらない。いや、むしろ、奴らにとっては「もっと面白い遊び」が増えるだけだ。
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