月見雨
隣に眠る彼女の毛布をそっと直し、
スヤスヤと眠る君の横顔を
指で優しく撫でた。
カーテンの隙間から漏れる月明かり。
今日は綺麗に晴れたようだ――
そして、僕は静かに部屋を出る。
今宵は
夏の濡れた空気が
夜露の草原を、僕は駆け出す。
ただ静かにそれを待った。
明るい月に何人もの人が集まった。みんなの顔が、月明かりに映し出される。
嗚呼、あの恋人たちも雫が欲しいのか。
嗚呼、あれは結婚を控えた人たちだ。
大切な人に月の雫を捧げるために、今日は誰も眠ることなく、明るい月を見ている。
月はもう中天にかかり、雫が降り出す頃。
リン――
シン――
それは雪のように落ちてくる
誰もが見惚れる雫たち。
皆の口から感嘆の吐息が漏れる。
でも、彼らは駆け出す。男たちは走る。地に落ちれば消える輝きを、落ちる前に掴もうとする。だから、走る。走った。
いくつも、いくつも、天から降る雨のように降ってきた雫を僕は――終ぞ掴むことはできなかった。諦めて帰るしかない。帰るしかなかった。
掴んだ人の、喜びの声を聞きながら。
惨めに、トボトボと。
君は家の前で、起きだして月を見ていた。雫を取れなかった僕を、君はきっと叱るのだろうと思っていたのだけれど
ただ一言だけ――
「ねえ、一緒に見よう」
君の優しい声に、僕は笑顔になる。
そうだね。
今夜は一緒に月を見ようか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます