羊の詩集
亜夷舞モコ/えず
とりあえずの手紙
拝啓
春が咲きました。
夏が輝き、
秋が色付きました。
冬は解けて、また春がやってきたのですね。
わたしは特に何があったわけでもないのですが、なんとなく、ただの惰性で、筆を執った次第であります。
はっきり言って、この数行で筆を置こうと思っているわたしです。それどころか筆を折ってしまおうかと思っているのです。いや、そもそも毛筆を持っていないので、折ることは難しいでしょう。
なにぶんわたしは不器用ですから、この手紙であっても、私は近くにいた孔雀から、羽根をお借りして書いているのです。その代わり――わたしは、彼の羽根に小さな風車を差してお礼を申し上げました。
しかし、大切な風車を差し上げてしまったので、わたしの家にはあと七本の風車と一本の鯉のぼりしかないのです。それはあまりに悲しいので、わたしはこれから鯉のぼりを買いに行こうと思っています。近くの鮮魚店には、美味しそうな鯉のぼりが生簀で泳いでいます。彼らは水の中では、同じ方向に泳ごうとしないらしいので、いつもバラバラになると、八百屋のご主人は怒っていました。
出来れば、鮮魚店には、あなたにも付いてきてほしいと思っているのですが、よく考えるとこの手紙が届くには二十六年かかることに気付いたので、止めておくことにしました。ですから、残った鯉のぼりは焼いてしまって、たぶん今晩のおかずになると思います。
大きな鯉は私ので、その下は三毛猫のクロへ、その下の一番小さな鯉を恋人へとおくります。恋人はその小さい鯉を、醤油と砂糖で煮るのだと言いました。
吹き流しは食べられないので孔雀に押しつけます。
孔雀は頭がイイふりをしながら、「これは流行の服装なのでしたね」などと言って颯爽とムーンウォークで帰ります。わたしが借りた自分の羽は知らんぷりで。
ところで、あなたは誰なのでしょうか。
たぶんわたしの友達ですね。友達です。友達でしょ?
だから、わたしは大好きな友達のために、残り過ぎた、有り余る惰性で手紙をしたためています。とりあえずわたしとあなたは友達らしいので、アナタの猫の手を貸して下さい。猫であれば二日で運搬できるらしいので、とりあえずあなたの猫で我慢いたします。
それでは善き返事を期待して、これにて筆を折らせていただきます。
折ったクジャクの羽ペンは同封させていただきます。それでは、二十六年後の友達へ。
敬具
友達さま
アナタの愛すべき友人より
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