ぐにゃりと足元が波打った気がした。この世界は何もかもが狂っている。思わず目を閉じた瞬間、脳内に男の声が響いた。


「なぁ、姉ちゃん」


 はっとして目を開けると、目の前にクズリが立っていた。


「あんたのおかげでタイガは死んだ。俺は感謝してるんだ。お返しにコイツを殺すの手伝ってやるよ」


 私は自身のジャケットに目をり、震える手でポケットの中のそれを取り出した。


 手の中にある拳銃はずしりと重く、その銃口は深い闇をたたえていた。先ほどクズリの死体から拾い上げたものだった。


「グロックには安全装置は無い。そのまま撃てるぜ」


 顔を上げると、クズリの姿はかき消えていた。目の前には秋雨の降りしきる路面と、曇り空と、黒づくめのシャチの後ろ姿があった。


 私は銃口をシャチの背中へ向けた。

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