えっ、私の役目って魔力タンクなんですか??
朝食付き
1.えっ、私の役目って魔力タンクなんですか??
"君は、ちょっとウチではやっていけないと思う。"
そうやんわりとクビを告げられたのはまだナナツムギの葉が青い頃だった。私はいわゆる魔術師としてこの街にやってきた。そして冒険者としてこのパーティに貢献してきた。そのはずだった。
冷たく突き付けられた言葉に私の頭は真っ白になって、分かりました、そう呟くので精いっぱいだった。
それが、私の初めてのパーティでの、最後の言葉だった。
***
「うおぉおん、私は、役立たずだッ!!」
馴染みの酒場で酔いに巻かれてそんなやけっぱちな言葉を吐いている。酒精で気分が上がったり下がったり。一人ぶつぶつと呟く私に近づく者はいない。だからますます口が回るという酷い循環の中に私はいる。分かっているけどやめられないんだよなぁ……。
冒険者という人種からすれば、一度パーティから見放された人間を見る目は厳しい。基本的に荒事にかかわる依頼を受けてなんぼだから、信用できるかできないか、実力があるかないか、そういう人の評価を重視するからだ。
そんな中で衆人環視の中追放された私は、”駄目な奴”というレッテルが貼られた粗悪品である。仕方ないからうちに入りなよなんて優しい言葉がかけられるはずもない。
リーダーもせめて、誰が聞いているか分からないような酒場ではなく、もっと他の場所で言ってくれれば良かったのに。優しいは優しいんだけど、そういうところは全然気の回らない人だった。みんなもゴメンなんて、これから追放しようって人間に優しくするんじゃないよ。おかげで余計に惨めになる。きっと今も、楽しく依頼をこなしているんだろうな。私抜きで。
私が育った村は麦畑ばかりで、ほとんどの村人は麦を育てて暮らしてた。そんな中で、偶然旅の魔術師に見初められたことがきっかけで魔術師を志した。
ただで魔術を教わることができた私は運が良かった。ただ、旅の魔術師だったから、あまり多くのことは学ぶことができなかった。魔術師がいる村ってのはかなり贅沢なのだ。
少しは魔術を使えるようになって、一念発起した私は街までやってきて、冒険者ギルドのあるパーティに入った。冒険の中でなら、魔術師として更なる研鑽を積むことができる。そう期待してのことだった。
まあ、結局このざまなんだけどね。
***
初めこそ同情してくれていた仲のいいウェイトレスも、今じゃ態度を変えてさっさと働けと説教をしてくるようになった。ああ、昼から開いている酒場は他にないから、その説教を大人しく聞くしかないのだ。だってソロの魔術師なんて格好がつかない。やはり屈強な騎士とか戦士に守られながら一発お見舞いしてなんぼだろう。
今はそりゃ冷や飯食らいだけど、そのうちすごいパーティからお誘いが来るのだ。そう、まさに今!
アルコールでぼやけて俯いていた顔を一気に上げる。こうすると酔いがいい感じに回るので気持ちいいのだ。別に本気ですごいパーティから誘いが来るなんて思ってなかった。ただの想像、妄想遊びだった。だから、目の前に誰かがいることに驚いてしまった。
ぎょぇぇえー!とか弱い女性にあってはならない悲鳴をあげてしまった。目の前の人もドン引きだ。酒屋の後ろでは魔物が出たのかとひどい笑い声が上がっている。くそ、覚えてろよあのハゲ!
慌てて取り繕って用を尋ねる。少しでも失点を取り返さねばと丁寧な口調を心掛けるが、焼け石に水な気もしてる。
「なんの御用かしら? まさか私に依頼でもしたいの?」
「……お前が今フリーなのは知っている。だから、これは勧誘だ。単刀直入に言うぞ。お前、俺の魔力タンクとして働くつもりはないか?」
おっとぉ……、スカウトが来るとは思ってなかったけど、そのお誘いはもっと考えてなかった。魔力タンク、それはちょっと私でも二の足を踏むぞ……。
いわゆる魔力タンクというのは、魔力はあるが術式を展開する能力のないものの蔑称でもある。前衛職なら術式はいらないから肉体強化に使える。が、魔術師と名乗るものが魔力タンクと言われたのなら、術式をろくに使えない役立たずと言われているに等しい。
ちょっと腹が立つ。実際術式は得意ではないから反論できないのも辛い。せめて睨むことで機嫌を伝えてみる。
私の反応も予想済みだったのだろう。その黒いローブの男は、人差し指を立てて、蝋燭のような火を灯してみせた。
ちょうど指一本分の太さの火だ。ゆらめくことなく、形を乱すことなく、流線型を保ったまま、橙色に輝く。
魔術というのは、どのような現象をひき起こすのであれ、術式というものが不可欠だ。いい魔術師というのは、十分な魔力、精緻な術式、そして魔力出力調整能力、この3つが優れていると言われる。
まるで揺らぐことのないこの火は、安定的な熱を生み出す術式と完全にコントロールされた魔力であることを示すものだ。
流石の私もそのくらいはわかる。もし私が同じことをやろうとしたらボヤ騒ぎを覚悟する必要がある。
「実力は分かったようだな。答えを聞かせてくれ」
村ではただ一人の魔術師として割とチヤホヤされてきた。クビにはなったけど、前のパーティでも初めのうちは魔力すごいねと褒めてもらったこともある。すぐにガッカリされてしまったけど。
それなりの、見栄っ張りなプライドが、私にもあるのだ。それに、負けん気だってそれなりにある。完全に下に見られたまま使われるだけってのは願い下げだ。精一杯の虚勢を張って、少しでもやり込められないか頑張ってみる。
「なんで、魔力タンクが必要か、当てましょうか?」
黒いのが眉を顰める。いいから答えろと言いたげだが、好奇心も読み取れる。魔術師は好奇心で死ぬのだ。ことわざにもそう書いてある。
「普通の魔術師なら、この街で受けられるような依頼で魔力切れに困ることなんてそうそうないわ。森の魔獣討伐にしたって四六時中魔術を使うことなんてないし、ダンジョンアタックにしたって休みの時間は取るもの」
話しながら必死に答えを探す。口から思考を始めるのは本当に良くないんだけど、どうにも治らないから仕方ない。黒いのは黙ったままだから、まだ間違いってわけではなさそうだ。なるように成れと口を動かし続ける。
「魔力切れが想定されるっていうなら、圧倒的な数の魔物だとか、常時魔力が必要な環境、例えば水の中とかね、そういう状況かなってまずは考えたの。でも、そんなこと──ないでしょう?」
この街は確かに魔術師だとか戦士なんていう冒険者を山ほど必要にしている物騒な立地だが、すでに20年以上街としてあり続けているのだ。近隣の魔物は他ならぬ冒険者が適度に間引きしている。だから狂乱の月みたいな例外でもなければ、そんな膨大な量の魔物とやり合うことはない。ついでに言えば海も湖も雪山も、特殊な環境だってない。
「なら答えは一つよね。──あなた、魔力が全然ないんでしょ? 外付けの魔力タンクなんてものを必要にするくらいにね」
口から出たデタラメにしてはまともな推察だ。我ながら声に出た後に納得するのはどうかなと思う。でも、黒いのは見事に図星を突かれた顔をしている。攻めどきかも。いけ、私の口!
「別に魔力タンクをやってもいいわ」
いいの?! 黒いのは驚いているが、私はそれ以上に驚いている。私の人格と私の口って実は独立してるんじゃないかしら? しかも口の方が頭良さそうなのが腹立つね!
「代わりに、あなたの技術を教えてもらえるならね。私だって魔力タンクのままで終わりたくはないもの」
「……そうやって俺の技を吸い上げるつもりか? それとも俺に成り代わろうって魂胆でもあるのか?」
「あなたの術式構成とコントロールを真似できるとは思ってないわ。それに成り代わろうにもどういう立場なのかも知らないし」
少なくとも今の私よりは上等なことは確かだけど。
それにしてもさっきの灯。一瞬だけ見えた構成は、指先程の大きさのくせにみっちりと中まで詰まっていた。普通だったらもっとスカスカでも火を灯すのに困ることはない。それをしなければならないのは、術式に高い機能を持たせたいから。
効率的な魔術を行使するためにそこまで精緻な構成を組んだということ。それは多分、この人は魔力の少なさを、できないことの理由にしてこなかったということだろう。術式の構成の、あの細やかで読み切れないほどの密度は努力と工夫の結晶だ。術式を見れば魔術師の実力が分かる。この人は私とは格が違う魔術師だ。でも、だからこそプライドが邪魔をする。魔力タンクと呼ばれるのが不名誉なように、魔力タンクを必要とするのも名誉があることとは言えないのだ。今回私を、というか魔力タンクを使うってことにもまだ踏み切れてはいないのだろう。だからそこを突く。
「あなたは私の魔力を使いたい。私は魔力の使い方を学びたい。そうね、魔力タンクなんて言い方はやめましょう。私は魔力と引き換えに技術を学ぶ。師弟関係ってことでどうかしら? あなたに私が弟子入り。知識の代わりに魔力を使ってもらう。私を介してもらう分、勉強になるから」
黒いのが黙る。視線は机の上、私が食べ散らかしたナッツだとか、エールだとかの上を泳ぐ。ちょっと食べすぎたかな? まだそんなに太ったりしてないから大丈夫だと思うんだけど。
それはともかく、こんなふうにご飯を食べてお酒を飲むためにも、仕事が必要。パーティをクビというのは冒険者に押される烙印としては重い。冒険者として、魔術師を続けたいならこの機会を逃すわけには行かない。私だって出来ることなら仕事は選びたい。このぴちぴちな体を春としてお店に並べたくはないのだ。そのためにも、あと一押し、何かないかな。頑張れ私、なんか理由をひねり出すのだ!
「あのね、私はもう嫌なの。魔力があるからって期待されて、それで一回魔術を使うでしょ? そしたら、みんな微妙な顔をするの。魔力の割にショボいなって、顔に書いてあるの! 私そのくらいなら読めるんだからね! でも頑張って見返したくっても、村じゃ私しか魔術使えるのはいなかったから、どうすればいいのか分からないのよ……」
一押しにと私の事情を少しだけいうつもりが、そのまま愚痴が流れ出てしまった。泣き落としとか、そういうのじゃなくて、これは本音。しまっておくつもりだったのになぁ。
「お前……」
「私は、みんなにチヤホヤして欲しいの! 魔術すごいねって、褒めてもらいたいだけなのに!」
「お前…………」
しまった、出してはいけない本音まで出た。明らかに黒いのが引いている。でもここまで出たのなら最後まで恥を晒したって構うまい。
「ね、だから私たち、結構いいコンビになれると思うの! 初めは魔力タンクとしてでいいから、私のことも連れてって? ……実は懐の寒さもそろそろまずくって、働かないとならないの」
「……とんだポンコツを掴まされたな」
思いっきり黒いのがため息をつく。深く、長い。でもこれは完全に契約ルート! 私を選ばざるを得ないからこそのため息だ!
それにしてもこの人、黒ずくめの見た目の割には人が良さそう。これは全力で頼っていきたい所存!
「わかった。契約だ。お前は俺のために魔力を差し出す。俺はお前に魔術師の何たるかを教える。それでいいな?」
「オールオッケー!」
「なんだそれは。まあいい。一応言っておくが、互いに魔力と知識を交換し合うんだから、魔力タンクとしての報酬は引かせてもらう。あるだけ嬉しいと思ってくれ」
「え!そりゃないんですけどぉ……」
「お前弟子にとまで言ったろう。なら師匠の言うことは聞くんだな。まあ、今は俺のオマケだが、パーティ内で役に立てることを示せばメンバーとして認められる。そうすれば報酬も別途入るだろうさ。せいぜい身を粉にして働くんだな」
***
新たなパーティでの初めての依頼はバジリスク退治でした。黒い人のパーティ、さてはかなり上位だな? 私は割と下位の上の方という新進気鋭のパーティにいたから、バジリスクなんて影を見ただけでも撤退確定のヤバい相手にしか思えない。だが、このパーティは、師匠たちは全然そんなことを思わないみたい。
「退呪の術式を掛ける! そのまま突っ込め!」
黒い私の師匠が、パーティの三人へ向けて石化防止の術式をかけている。同時に三人へ高度な退呪をかける。一つの術式で一気にかけるとかできるんです? 出来るんだぁ……。すご。
しかも合間合間に火球を放ち、前衛たちの援護すらして見せる。一つの魔術をえっちらおっちら組み立てる私とは文字通り次元が違う。しかも高度な魔術を連発する割には魔力の消費が少ない。いや、少なすぎる。
さっきからずっと魔力タンクとして師匠のそばに控えている私から、魔術の行使のたびに魔力が吸い出されている。感覚的にどのくらいの魔力を使用しているかってことが分かる。私でもすごいって思うとんでも魔術なのに、全然魔力が出て行かないのだ。効率が良すぎる。たぶん術式を工夫しまくって、てこのように小さな力で大きな効果を出しているんだと思う。けど、ここまで消費量を下げられるってのは尋常じゃない。
もし同じことを私がやろうとすれば、一発目の退呪の時点で一人になんとか半分以下の効果が得られるくらいだろう。しかも効率が悪すぎてあっというまに魔力もスカンピンになるだろうな。
力量の違いがあるにせよ、こんな風にほいほいと魔術を構築できるってのは普通じゃない。改めて考えてみると、私という魔力タンクが装備された師匠は割とヤバめの魔術師なのではなかろうか。
パーティの人たちに引き合わされた時、みんながやたら嬉しそうにしているのが謎だったが、これは確かに嬉しくなっちゃうね。
バジリスクは石化だけでも厄介なのに、強靭な鱗と毒の牙をもつ巨大な蛇だ。石化を受ければ徐々に体が鈍く、動かなくなってしまう。だから視線を受けないように(石化をかけるためには見つめられ続けることが条件らしい)バラバラになって立ち回るか、どうにか初めに目を潰すかしか対策がない。
それが私の知っている知識。本を読むのは好きだから、ギルドの資料室で呼んだのだ。当時の私のパーティでは遭遇したら死んじゃうなって思った相手だ。だいたいのパーティではそうだろう。
だが、優秀な魔術師がいれば話は別だ。石化の呪いを正面から打ち砕き、前衛が慣れた形でのコンビネーションを発揮させられる。そして、魔術による一撃は巨大な魔物を一撃で打倒しうる。
これほどの魔術師が、魔力不足に泣かされてきたのだ。それを解決できる私の存在は、そりゃ大歓迎だろうな。わたしとしては、私の実力自体は特に求められてないってのがいい。過度な期待がないってのは気楽だ。
なんやかんやでバジリスク討伐は順調に進む。私は前衛ではないし、冒険者としては下位もいいところなので、みんながどんなふうに戦っているのかは上手く解説できない。仕方ないね。
でも、幾重にも付けられた傷から、バジリスクの緑色の血が流れているのはわかる。血は魔術にとっては魔力を伝達しやすくする媒体でもある。要は、血まみれの魔物への魔術は効果が倍になる、みたいなものだ。
前衛の三人が一気にバジリスクから離れる。何かが起きる。私の背後で、黒い師匠が長大な術式を組んでいる。思考とスペルが複雑怪奇な術式を編み上げる。そこに流れ込むのは私の魔力。師匠によって流れを整えられ、最も抵抗なく、過不足なく魔力が術式へと流し込まれる。
魔術の発露。それは一瞬だ。師匠が最後にバジリスクへ指を向け、魔術発動のキーを唱える。
「爆ぜろ」
そのしなやかで長い指先から、莫大な光が溢れる。轟音と共に解放されたそれは雷、破壊の光だ。私はうっかりその光を直視してしまったため、ひたすら悶える羽目になったが、無事にバジリスクを倒したらしい。
ジタバタと目を押さえながら、ようやく元に戻った目で確認する。そこには、爆ぜろと言われた通りにしましたと、そんな感じに多くの肉片になったバジリスクの亡骸があった。熱で肉が焼かれたせいかちょっといい匂いでもある。
「バジリスクの肉は食えば腹を下すぞ」
「えっ、いや、そんな、食べたいなんて言ってないじゃないですか」
「お前の目がな、そう言ってる」
伊達に私の師匠ではないと言うわけか。まだ弟子入りしてから三日目だけど、すでに把握されている。え、ちょっと怖くない?
人知れず身の危険を感じたところで、パーティメンバーが戻ってくる。手にはバジリスクの牙を持っている。討伐証明は牙なんだな。こんなにでかいのは相手にしたことないから知らなかった。
「相変わらずの火力で頼もしいね。退呪も三人同時にできるのは本当に助かるな。それで、あとどのくらい使えそうだい?」
「こいつを見て分かる通り、まだまだ余裕がある。バジリスク2、3体でも同じことをやれる」
「それは…すごいな。これだけの魔力持ちが飲んだくれてたとは、いい拾い物をしたね」
ん? これは褒められているのか? でもなんかいいこと言われている気がするからニコニコしておく。
「ちょっとアホっぽいのが気になるけど……。まああんたが躾ければいい話よね」
「酒に強いってのが俺としては嬉しいがな。お前らどいつもこいつも下戸だからなぁ」
頬のこけた痩せ形のリーダー。言い方はきついけど、胸もパンパンに服がきつそうな赤毛のお姉さん。そして馬鹿でかい斧を振る太っちょ戦士。最後に全身黒ずくめの我が師匠。
これが師匠の所属するパーティ"静かなる狼"だ。そのうち私も入る予定。その時は、可憐な金髪が艶やかな美貌の魔術師とでも紹介されることになるだろう。その時が楽しみだ。ぐふふ。
そんな風に明るい未来予想をしていると、ぐいと首元が引っ張られる。ああ、回復ですね。がんばります。すぐに魔力が私から流れ出し始める。
この黒い師匠は攻撃から守護、回復まで術式の範囲がアホほど広い。おかげで私という魔力タンクがやたらと要求されるのだ。大人しくタンクとして慎ましい胸を張っていると、ぽこんと頭をはたかれる。
「あれ? 魔力足りてないですか?」
「魔力は足りてる。十分にな。そうじゃなくて、お前、魔術師として他の人間の術式を見る機会を逃すんじゃない。自分の術式に応用できそうな部分があれば、いくらでも取り入れられるように見て記憶しろ」
「人の術式パクってもいいんですか?」
「ダイレクトに言うな。参考にすると言え。あと、俺はいいけど、他のパーティの魔術師のを見る時は横目程度にしろよ。ジロジロ見るのは顰蹙買うことになる」
なるほど。でも言ってはなんだが、師匠の術式を見たところで真似できるようには見えない。一応マナーとして眺めてみるが、どこがどこにどう効いているのかはさっぱりだ。
「あんたの術式見ても何も分かんなくない? 細かく詰めすぎてて模様にしか見えないわよ、フツー。それとも見えてるの?」
赤毛のお姉さんから私へと水を向けられる。師匠に対しての適切なツッコミと私に対しての質問。言葉こそきついが、その目は心遣いというものがある。多分。なお、師匠の目にはそんなものはない。
「いえ、正直全然分かんないですね……。そもそも私術式をまともに習ったこともないので」
「そうなの? あなたがギルドに来た時、有望な魔術師だって話題になったんだけど」
「そいつは魔力だけはあるからな。しかも垂れ流しだ。俺たち上位の魔術師から見れば教育されてないことは丸わかりだったぞ」
ほら、すぐに腐す。でもいいのだ。私がそういう厄介な弟子だということをわかってくれているだけ、過度な期待をかけられることがないから。だんだん失望される時のいたたまれなさと比べれば、ここはぬるま湯だ。
「それと、こいつはすぐに調子に乗る。見ろ、なんかすでに満足した顔してるだろ」
「あらほんと。……特に褒めてなかったんだけど」
「いいじゃないか。君たちはちょっときついところがあるからね。勧誘した新しいメンバーに逃げ出されたのは一度や二度じゃないってことも忘れないように。ま、彼女については、リーダーとして、戦力拡大に繋がったことは歓迎するよ。ムードメーカーになってくれそうなのもいいことだよ」
「たまにお前らが話してる時、喧嘩してんのかって思うことあるものなぁ。酔いも覚めるから、これを機会として改めて欲しいもんだ」
うんうん。言葉は柔らかくした方がいいよね。それにお酒も美味しい方がいい。とりあえず頷いておく。
「……気をつける。ただ、こいつは一応俺の弟子だからな。優しい教育をするつもりはないぞ。それだけは言っておく」
「そんなこと言わずに、お手柔らかにしましょうよ。私、褒められた方が伸びるタイプなので!」
「この子の教育、厳し目にお願いね。野放しにしちゃダメよ。魔力タンクとしては十分以上だけど、弟子としての教育だけはしっかりやって」
なぜか雲行きが怪しい。え、お姉さん、私悪い子じゃないよ? 甘やかしてもいいのよ??
***
ひょんなことからパーティをクビになったけど、意外と上手くやっていけそう。
今日の冒険が終わり宿に帰ってきて、家族への手紙を書いている。流石に飲んだくれていたことはかけないから、新しい仲間と師匠ができたってことを中心に書く。
いつか村に帰る時が来たら、魔術師ですよーと胸を張って自慢できるように、みんなの困りごとをぱぱっと解決するようなそんな魔術師になりたいものだ。
最後に私と分かるように印を書いて、封筒を閉じる。
ああ、明日も冒険が待っている。今は魔力タンクだけど、受け入れてくれたパーティのみんなのため、魔術についてを頑張って学ぶのだ。いつかは師匠にすごいと言わせて見せる。遠い目標だが、夢を持つことは自由ですのでね! 寝台に入って、それが叶った夢を見るとしよう。自慢ではないが、見たい夢を見るのも得意なのだ。
***
次の日遅刻して師匠に盛大に怒られたのは秘密だ。光を飲み込む真っ黒な目が怖かった……。宿もみんなと同じところに移れって。今の部屋気に入ってたのに。くすん。
ま、こんな風にして、わたしの新しい生活が始まったのだった。
続く
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