第4話 まずは身だしなみ!
「ごめんね。エリシア……こうするしか方法は無いの……」
「やだよ……お母さん! ねぇ一緒にいたいよ!」
「大丈夫だ。エリシア。お前ならきっとどこでだって生きていける……」
「お父さんまで……やだ……行かないでよ!」
「お母さん!」
そうして遠ざかっていく両親へ手を伸ばそうとしたところで一気に現実へ引き戻された。
「今の……夢……」
目が覚めた時には予想以上に、全身が汗でびっしょりでこの布切れもピッタリ張り付いていて、正直脱ぎ捨てたいぐらいだ。
「けど……代わりの服なんか無いし……」
服は無くてもとりあえず、川さえあれば水浴びをして少しは体に纏わりつく気持ち悪い感覚を無くせるかもしれない。
「っていうか。アリーゼがいない……」
起きるまで気づかなったが、ふと横を見ると一緒に寝ていたであろう彼女の毛布だけが置かれていた。
「……ん? 書き置きがある」
『少し周囲の地形を把握のため離れます。朝ごはんまでには戻ります。アリーゼ』
「周囲の地形を把握……か。私ばっかりゆっくりしてていいのかな……何か出来ることは……あれ」
朝ごはんまでには戻るとは書かれているが、その肝心の朝ごはんと思えるものは一つも見当たらない。
「ひょっとして……現地調達⁉ てっきり昨日みたいに事前に用意したものを使っているとばかり……そうだ!」
そこでエリシアはある事を閃き、それを実行するために必要なモノを彼女の荷物が入ったバッグを調べだす。
「これは……弓矢か。ちょうどいい」
やけに年季の入ったボロい弓矢だったが、あるだけマシである。これを使って……
「アリーゼが戻ってくるまでに獲物をしとめて私が、朝ごはんを用意する!」
* * *
最初は少なくとも朝ごはんの分のお肉だけでもを手に入れようと、森の中で息を殺し、獲物を狙い続けるものの……
「あ……また外した」
里にいた頃は良く両親から、弓の弾き方を教えてもらったが、あの頃よりもう10年以上経っている。その長い年月によブランクは相当なものだ。
そうなっては当てようと意気込んでも、あらぬ方向に矢が飛んで行ってしまうばかりで苦戦していた。
「このままだと何の成果も出せず、野営地に戻ることになる……」
何よりこの状況の何が嫌かと言うと、誰かにではなく、自分自身で決めたことを急に放り出し、相手に甘えようとしている自分自身が許せないでいた。
「一匹……! せめて一匹だけは意地でも持って帰る!」
私は小さな闘志を再び心の中に燃やし、私は残り少ない矢束を背負い森の奥へと足を踏み込んだ。
* * *
「うーん……こんな感じかな」
エリシアが目を覚ますよりずっと前、ボクはこれ以上、道に迷わず次なるダンジョンを探すために野営した場所を中心に何があるのかの地形把握をしにこの森で一番高い木のてっぺんで立っていた。
「こうして見てみるとほとんどが木だけど、近くには川があるな……」
まだここは森林の中心部なのか、全面的に葉っぱの緑に覆われていて、把握も何もなかった。だけど収穫が無い訳でもなかった。
「とりあえず川と、そこを下った先に小さな村っぽい集落を見つけたから、行ってみますか……」
ここ最近野営ばっかりで、そろそろふかふかのベッドと美味しいご飯が恋しい……オヨヨ……
「あ、そうだ。朝ごはんのこと考えてなかったや……」
地形把握も済ませたことで、目的は達成されたことで、ボクはまんま来た道を戻って野営地に帰っていた。
そんな途中で書き置きには『朝ごはん』の事も書いたにも関わらず、途中からその事を完全に忘れてしまっていた。
「……流石に今から狩りは難しいから、朝だけは携帯食にしとこうかな。エリシアにもそれで我慢してもらって……ん?」
なにやらものすごく香ばしい匂いが……!
「あ、アリーゼ。お帰り。ご飯の準備は出来てるから食べよう?」
茂みをかき分けて戻ったそこにはまだ眠っていた、彼女が焚火の日を利用してここら辺に生息しているシカの肉を串に刺し、こんがり焼いているという予想もつかなかった景色が広がっていた。
* * *
「え……っていうかどうしたの? このお肉」
「どうしたのって狩ったの。なんとか一匹だけ」
という感じにサラッと彼女はそう答えるが、狩り以前に弓が苦手な私からすれば驚愕、尊敬の気持ちが今出てきている。っていうかエリシアって弓使えたんだ……
「すっごいよ! エリシア! 君は弓が得意だったのかい?」
「得意……というより両親から使い方を一通り教えてもらっていたので……」
「それでも凄いよ! 本当にありがとう! 危うく朝ごはんがカピカピの携帯食になる所だったよ……」
「いえい……え? カピカピの携帯食? 今なんて?」
「さぁ! そんなことを置いといて。 とりあえず腹ごしらえと行こう! こっちも話したい事があるからね」
「あ、それを言うなら私もいくつかあります」
「オッケー。それじゃあお肉が冷める前に……」
『いただきます』
「川とその下に村が?」
「そう。唯一森以外で確認できたのがそれくらいだったから逆に迷わなくて済むでしょ?」
「そうですね……これならさすがのアリーゼも迷う事はなさそうですね」
「……」
エリシアが用意してシカ肉の串焼きに、昨日の余ったシチューでボクたちは朝から豪華な朝食を楽しみつつ、お互いの情報共有と言いたい事を伝えあっていた。
「それで? 君の方からの言いたい事って?」
「はい……とりあえず単刀直入に言うと、何か羽織るものがあれば欲しいです」
「羽織るもの……あ、そっか。今の君って……」
「はい……昨日は疲れていて気にしなかったんですが、これ布面積がだいぶ小さいんです。なので……」
「オッケー! 確かまだ来てないのが何着かあったから、あとで一緒に着てみようね!」
「ありがとうございます……」
「それともう一つあって……」
「その前にさ、いっこ聞いて良い?」
「は、はい……?」
「なんだかエリシア、汗臭いような気がし──むぐっ!」
普通に思った事を伝えようとしたのに、突然両手でこの口を塞がれた。
「……ないでください」
「……へ?」
「臭いって言わないでください!」
そう言いながらエリシアは恥ずがしがっているのもあり、顔全体がリンゴのように真っ赤になっていた。
「ご、ごめん……」
言ってあげるべきだと思ったけど……もしかして言わないほうがよかった……?
「と、とりあえず……川の方で水浴びしてきたらどうかな? ほら、代わりの着替え……」
「ありがとうございます……」
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