第3話 次なる目的地へ

「へぇ……果ての森からここに……けっこう遠くない?」

「ええ。だけど『来た』というよりは『連れてこられた』という言い方が正しいですね。言ってませんでしたが、私、捨て子なんです」

 ここのダンジョン主であるミホノから命を救ってもらった私は、彼女の馬に乗せてもらいながら、土地勘が無い中、大きな町を見かけたのでそこへ向かう道中、お互いの身の上話に花を咲かせていた。



 それからも馬に揺られながらも、私たちの談議は長期にわたって続いた。

「捨て子って……一体いつから?」

「私が今みたいに言葉をしっかり話せる頃、まぁ物心ついたころに突然。目が覚めたら他の子と同じように馬車で運ばれていました」

「……そう。それはなんていうか大変だったね」

「はい……ところでアリーゼさんは」

「アリーゼで良いよ。敬称で呼ばれるとむずかゆい!」

「……アリーゼはずっと一人で旅を?」

 正直、私の身の上話をするより、疑問に思っていたことがあった。

アリーゼの口から言っていたダンジョンオタクとは……そもそも『ダンジョン』という建造物自体今まで耳にしたことが無い。

「うん。幼い頃に父が聞かせてくれたダンジョンの話を聞いてから、もうダンジョンの虜になっちゃってね~」




 そう言って彼女は懐から一枚の古い紙切れを取り出す。それはかなり昔のものなのか所々破けていた。

「これは……?」

「これはダンジョンのありかを記した地図……らしい」

「らしいって……」

「父いわく、実際にこれのおかげで父は二つのダンジョンを見つけたらしくてね」

「はぁ……それで今もこうして残りのダンジョンを探していると……」

「その通り!」

 そう言って改めてその紙切れに視線を落とすと、そこに描かれているダンジョンと思われる建物の絵は全部で10個書かれており、その内の4つはバッテンマークで塗りつぶされていた。



「それで……ボクが思うにここから西に向かった先に新たなダンジョンがあるという事が分かったんだよ!」

「あの……アリーゼ。その前に一つ聞いても?」

「ん? どうぞ?」

「そのダンジョンってなんなんですか?」

「え……」

 その質問を聞いたアリーゼは言葉を失ったように、手に持っていた紙切れを滑り落とした。

「わっ……危ない。落としまし──」

 がしかしそれを間一髪、キャッチして地面に落とさずに済んだ。

「マジか……まさかダンジョンを全く知らない人と出会うなんて……」

「一応、里にいた頃は本は読んだりしましたが、外の世界の事は全く知らなくて……」

「そう……だったらこのボクが一からダンジョンについて説明してあげよう! よく聞いてね!」

「はい。お願いします」



* * *

「まず簡潔に話すとダンジョンっていうのは、それぞれの大陸地中に魔素が地表に蓄積することで生成される建造物なの」

「魔素……魔力に近いものですか?」

「ちょっと違うかな。空気中に漂うのが魔力で、地中に漂うのが魔素。まぁどっちも同じようなものだけど、呼び方が違うってだけね」

「そんな違いがあったとは……」

 幼いころから、魔法を行使する時に、『足に力を込めろ』だなんて言うものだから、意味が分からなかったけど、魔素をしっかり取り込む為に言っていたのか……

「それで話を戻すと……そのダンジョンは言ってしまえば、魔素が地表にまで出た不純物の塊。その残りカスで出てくるのが魔物ってわけ」

「なるほど……とりあえずダンジョンの事はある程度は分かりました。重ね重ねで質問良いですか? あと二つほど」

「二つも? あ、もうそろ日が暮れるね……この明日にでもこの森を抜けられそうだし、一旦野宿の準備しようか」

「はい……」

 そこで日がかなり暮れていることにアリーゼが気づいたことで、一度は会話は中断。すぐに馬を近くの木に括り付けて、野宿の準備を始めた。



* * *

「ふぅ……美味しかった」

「ごちそうさまでした」

 野宿の準備において私がやれることは、ほとんどなかった。彼女の手馴れた手際の良さもあったが、それ以上に野宿なんてやったことも無い私からしたら右も左も分からずでただ突っ立っているだけだった。

 それでも彼女が用意してくれた、夜ご飯のシチューは今まで食べてきたご飯の中があまりにも美味しく2回もおかわりしてしまった。



「さてとお腹も膨れたことだし、さっきの話の続きでもしようか。何か質問があるんだよね?」

「はい。まずあなたが一人で旅を続けているのってそのダンジョンが生み出す魔物による被害を減らすためですか?」

「え? そんな殊勝なものじゃないよ。私が旅をする理由なんて……」

「じゃあ……一体何のために」

「それはね……この地図に記されたダンジョンを全て! 網羅したいんだよ!」

 アリーゼはやや興奮した様子でそう高々に声を上げた。

「ダンジョンの……網羅……? それって何かご褒美があったりするんですか?」

「ご褒美……? 無いよ? そんなもの」

「え……それじゃあ、あなたがダンジョンを探し回っている理由って言ってしまば……」

「うん。好きだからこそダンジョンを探してるってだけ!」

「……」

 浅い……私が思っていたよりもこのアリーゼ・ビューラはけっこう変人なのかもしれない。自分でオタクと言い張るのも納得した気がする。

「聞きたい事はまだある?」

「いえ……ありがとうございました」

「さてと……それじゃあ寝よっか」

「ですね。お休みなさい。アリーゼ」

「うん……お休み。エリシア……」

 そうしてその日はお互いに眠りについた。




 

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