第30話 それぞれの部屋

「そんじゃま、アクェ。部屋作ってやるからどんな部屋か、この城のどこに扉付けるかイメージしろ。付け直しとかできないから慎重に……」


 バボン、と開かずの扉の向かい壁に扉が現れる。

 早……しかもここでええんかい。

 アクェが開いた扉の先は、あの暗い小屋の中だった。

 明かりは床にある蝋燭だけだ。

 部屋に関してはまあ、思い入れでもあるんだろーな。


「そんじゃ、疲れたろ。おやすみ。起きたらオレの部屋に集合な、オマエがオレを矢で射った場所。そしたら食堂作って朝飯にすっから」


 アクェはこちらに背を向けたまま頷くと、静かに扉を閉じた。

 さて次はっと。


「シエラもほら、部屋作ってやるよ」

「あっ。ありがとうございます」


 一階にある食堂を下に、左右へと斜めに分かれる渡り廊下。

 その曲がり角にある場所の柱をシエラは指指す。

 そこにバボンと扉ができる。


「人形。そういや、トントみたいなのとかってのは部屋にも出てくんのか?」

(いいえ。対義型ペナルティでお話したカギが落ちていることもありません。部屋は魂を寄せ付けずに増設できます。空間は増設する際、共に魂へ実体を……与えてしまう、と言った方が適切でしょう)

「そうか。回答ありがとう」


 似たようなとこに住んでたヤツらも空間の一部、ってとこなんだろう。

 部屋に他のヤツが出てこねェんなら、それでよし!


「セラートさんも連れて行きますね。よいせっと」

「ちょ、オマエに任せられるかよ。セラートにはあとで部屋を用意しとくからやめろ」

「イヤです。この子の強くなりたいという夢を、私は王家の過ちを償うために叶えなくてはなりません。私のお下がりですが、服もしっかりイメージしておきましたし、セラートさんにはしっかりご奉仕させていただきます。それとシヘタさんにはお礼がありまして」


 シエラは部屋に入るとすぐ出てきた。

 手には、表面のギザギザした平らな鉄の棒を握ってる。


「これ! 爪研ぎです。爪が尖っていると日常生活では何かと不便でしょう? シヘタさんが作ったものではありますが、さあどうぞ」

「……使い方知らんけど、貰っとくわ」

「使い方でしたら、このヤスリ面で爪の先を擦るのです」


 ふむ、お礼をくれるとは気の利くヤツだ。

 開いてる扉の先には、豪華そうなクソデカいベッドが見えた。

 同じベッドで寝る気かよ、くっ。

 なんか悔しいぞッ。

 ……お次はパダスの部屋でも作るか。



「おい、パダス。パダスッ!」


 なんか暗いな。

 部屋の隅で蹲っているパダスの肩を叩くと、パチンと手を弾かれた。

 いた……くはないが、すげー勢い。


「触るな……」

「オマエが呼んでも反応しねーからだろ。ほら、そんなとこじゃ眠れねェよな? 理想の部屋をイメージしてみな、作ってやるよ」


 バボン。とパダスの前に扉が出て、パダスは倒れ込むように扉を押し開ける。

 中は……コンクリート? 硬そうなベッドと安っぽい水洗式トイレだけがある。

 これって牢屋なんじゃ。


「パダス、いいのか? こんなんで。作っちまったもんは作り直せねーけど、今ならもう一個作ってやってもいいぞ」

「ここがいい。無意味な殺戮を行なった犯罪者には相応しい場だ」


 落ち込んでやがるが、全然同情できねェ。

 パダスは床に倒れ込んだまま這いずり、足で扉を閉じた。

 ……あとはセラートとリネルだけか。

 起きるまで時間かかるだろーし、食堂作っとくかな!


「シヘタ」

「おっ、寝てなくていいのか?」


 開いた扉の隙間から顔を出すセラートは、とても思い詰めた様子で下を向いている。


「大丈夫。今、話しておきたいことがある」

「どうしたよ、改まって」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る