第22話 固有魔法

 奥に微かに見える扉は、もう開けそうもない。

 開かれた扉の先は、見覚えのある洋式便所……。

 リネルがバタンと扉を閉じる。


 イメージしながら指をさし示した場所に扉が出てきた、ってことはこれがオレの固有魔法??? しょぼくないか……。


(ご主人さま、それがあなたの固有魔法増設です)


 しかし、元の世界にあった町の数々はどうなったことやら……。

 もしかすると他の人らはこぢんまりとした空間に閉じ込められてて、そのまま死ぬのを待つような状況なのかも。

 どんどん魔法使ってくべきか?

 しっかし、変なとこに扉付けちまった……付け直したい……。


(その心配はご無用です。世界は崩壊しております。ご主人さまは行き来できる扉の先に空間を取り戻しさらに、そこに惹かれた死を経験していない魂たちに実体を与えることができます。それと、扉を出し直すことはできません)


 さっきから何だよこの声……へ? 声のする方にはいつの間にやら、オレ似の人形が浮かんでいた。

 何だこりゃ、イケメンだが。


(はい。イケメンです)

「オレの思考にいちいち反応すんなっ」

(分かりました。オレはあなたの固有魔法について詳しく知っておりますので、知りたいことがあればいつでも仰ってください)


 ……コイツ、オレが想い描いていた理想の妖精像まんまだ。

 都合よくて、すげー助かる。


「かわいいお人形だね」

「おっ、セラートにもこの浮かんでんのが見えるのかってちょい! 吐いた唾液舐めとらなくていいっての!」


 ……まあ、このタオルで拭くか。

 とりあえず、セラートから独り言言ってるおかしなヤツと思われてなくてよかったわ。


「セラート。どうやらオレはこの世界の神とも呼べる存在になっちまったらしい。何か欲しい空間はあるか? 作り出してやろう」

「欲しい……空間……」


 そうポカンとしちまうのも分かる。

 オレなんて何も思い浮かんでないしな!


「私のいた、養殖場近くの森を取り戻したい」

「森……ねえ」


(ご主人さま、セラートさまの思う森のイメージをそのままに、空間を増設しますか?)

「頼む。あとさっきみたいに手でパッと扉作れるのは事故起きそうだし、変えられね?」

(では、空間を作る際は、今回のようにオレからお尋ね致します。扉はどの辺りにいたしましょう?)

「テレビんとこの壁」

(承知いたしました)


 おおっ、なんかそれっぽい緑の扉が出てきた。

 しっかし、このまま入っても大丈夫だろうか? 森に惹かれた存在たちって、もし敵が大量にいたらセラートを守りきれる自信ないぞ……。


「おい、パダス。ついて来ないか? セラートの護衛を増やしたい」

「行くわけがない。勇者には服従するが、お前は別だ。それに固有魔法はお前以外にも使える。勇者は世界を分断する固有魔法、シヘタは空間を作る固有魔法。さて、他にはどんな固有魔法があるのか……?」


 ううっ!? ピッと、パダスから指を差されてつい狼狽える。

 あっ、体が熱いような……いいや。


「何ともないけど。オマエ、実は固有魔法を使えないとかじゃね?」

(申しますと、パダスさまの固有魔法は《再生》です。体が傷付いても、死んでも、魔族と同じように自身の体を再生し、元の姿へ戻ります)


 不死身ってことか!? スゴイけど、オレや勇者のと比べてショボいというか……。

 本人もなんかガッカリしてる。


「魔族と同じように……。下位互換……」

「そう落ち込むなよ、正直羨ましいぞ。死なないんだから。そうだ、人形。他のみんなの固有魔法は分かるか?」

(はい。セラートさまとアクェさまの固有魔法はありません。リネルさまの固有魔法は《繁殖》。いっぱい子供を生み出せます。シエラさまの固有魔法は《光源》。灯りを自由に出して設置できます)


 え……? なんだそりゃ?

 固有魔法ってそんなに格差あんの?


「ほら、パダスの当たりじゃんか。しかしどうして、こう、何というか……」

(固有魔法はいわば最後に習得できる魔法であり、その方の最も望んでいたチカラです。ご主人さまのものは、お忘れかも知れませんが。世界に対する深い絶望から成すものです。相応の生贄さえ揃えれば、より望んでいた形で使えるようになりますよ)

「そ、そうか」

(では、また。オレの知っていることが必要な頃を見計らいます)

「おう。ありがとよ」


 生贄……ねぇ。

 オレ似の人形はボワンと煙を出し、煙と共に消えてしまった。

 パダスは部屋の隅でいじけてやがるし……森へ行くなら勇者が起きるのを待ちたい。

 しかしだ、セラートはドアノブを握り、キラキラした目でこちらを見つめてる……。


「危ないかもしんねーけど、いいのか?」

「この先にみんなが、私の夢がある。一人でも行く」

「いやいや、ついてくよ。危なそうだし」

「とにかく開ける」


 ──ガチャリと開かれた扉の先は、森というよりも、空に月と星の煌めく草原だった。

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