第7話 役目
「にしても、ここはどこなんだか」
そうだ、そういやオレ携帯持ってるんだった。
ポケットからスマホを取り出し、画面に触れると、うん。
重罪人になったからか、この辺りの電波が悪いのか知らんけど、電波のマークは赤くなっていた。
どこにも繋がりそうにはない。
そもそも電話を掛けるような知り合いなんて、勇者くらいしかいねえ。
繋がっても意味ないか。
「そういや、妖精は? 見てないか?」
「見ていません」
「はあ、アイツ。肝心な時にどこ行きやがったんだか……」
「このお方が妖精さんの真の姿だと思っていましたが。違うんですね。……心配です」
「真の姿って。妖精は妖精だ、変身だとかはできねーよ」
「そうでしたか」
真の姿、ねえ。妙なコト言う子だ。
おっ、セラートが立った。
そして弓使いの向かいへと行って座り、その肩を揉み始める。
じいちゃんと孫みたいだが。
あの死んでた二人にも、こう接していたのだろうか。
──トントン
その扉を叩く音に、弓使いが反応して扉を開いた。
扉の先には、淡い水色と桃色で波模様の浴衣を着た赤い長髪の青年、勇者がいる。
格好がダサいし嫌いな相手だが、こういう時に知り合いと会うと安心しちまう。
「勇者じゃんか」
「あれェ? 弓使いが負けたと思えば……シヘタ何してんの? うわ、なんか獣人もいるし」
「弓使いが負けたってなんだ? オレたちを助けに来てくれたんじゃないのか?」
「ああ、オレ様も重罪人を始末するのに協力してんのよ」
「何でだよ」
「世の中のルールには逆らえなくてね」
コイツ……。
つまりは今、勇者はオレの敵って訳か。
「それよりシヘタ、急に獣人なんか連れてどしたん? 脳がチンコに乗っ取られたんか……?」
「よく分かんねー例えやめろよ。オレはこの子に死なれると、悲しくなる気がしただけだ」
「ふーん。人間と姿形は変わらないから愛着も湧くだろうが、中身は全然別物だぜ?」
勇者はセラートの腕を掴むと、抱き寄せて服を破き、その体を触り始める。
「目先の快楽以外に楽しみのない、哀れな奴らさ。ほれ、こんな具合に」
「やめてっ」
「やめろ!」
オレが汚らしい勇者の腕を掴み上げると、セラートは弓使いの側まで逃げてった。
……。
オレの側には隠れないみたいだ。
まあ、弓使いの方が勇者から離れてるし。
好感度は関係ないはず。
「おい、セラートへの謝罪をしろ。それと肌着の弁償もしろ、ヘンタイ野郎」
「……ん。獣人は一人残らず品種改良されたし、知能はない。それに人間と獣人とじゃ子供はできない。とすると、改良後でも知能を持った個体はそもそも産まれてて、その子に教育したのがいるってとこかな。獣人ちゃん、乱暴してすまんかった」
謝らねえよ! とか言ってきて戦いになると思ってたのに、謝ってきた。
セラートは弓使いの後ろに隠れながら、勇者の方を覗き見ている。
「……名前は獣人じゃなくてセラート。謝っても許さない」
「そか。言葉は誰から教わった? 名前はその人から付けてもらったのかな? ほら、質問されたら答えるんだよ。セラート」
うんうん、そのまま黙ってていいぞ。
コイツはすぐ手をあげるクズだから。
と、勇者がセラートの方へ指を差し、パチンと鳴らす。
「分からない。名前も……。小さい頃から夢の中で、誰かが私をそう呼んでいた」
「はあ、そうか。ナンギナンギ……」
勇者はセラートが言い終わる直後にもう一度指を鳴らし、気怠そうに呟く。
えっ、名前ってのは親が決めるもんじゃねーのか? つーか、セラートは何で喋り出して……。
いいや、口を手で覆いながら驚いてるのを見るに、魔法で言わされたのか。
勇者は何か納得したかのように頷くと、オレに短剣の刃を向け──くるりと柄のほうを向け直した。
「シヘタ。そこにいる弓使いと一緒に……重罪を犯した勇者の仲間を殺処分するって役目、やってみない? 本来ならこの場でキミとセラートちゃんを処分するんだけどさ、この役目をやり続けてくれる間はやめとく」
「やってみない? って、他に選択肢ねーじゃんか。やるよ」
殺処分って……やりたくねェけど、逆らえばオレも親父みたく殺されるんだろうな。
勇者はその浴衣に手を突っ込んで地図を取り出すとこちらへ広げ、現在地と印の書かれた場所からすぐ南、山の向こうで海に囲まれた辺鄙な町を指差す。
「じゃあ早速。期限はそうだな、今日から一週間。相手は格闘家で女、武器は拳と棒だな。どんな罪かは町を見りゃ分かる」
「ちょっと待て。オレらの命掛かってんのに雑過ぎんだろ!?」
「短い洞窟を抜けた先、その小さな町に格闘家がいる。じゃな、遠くから見てるからな。もっと強くなれよ」
コイツぅ……。
熱い手がオレの肩を叩く。
勇者はボボンと奇妙な音を立てて消える。
「あの、つまりコレって。私も勇者の仲間になれたんでしょうか?」
「なれてないよ」
勇者の仲間になると体が光るからな。
セラートは弓使いの後ろから身を乗り出しウキウキしていたが、それを聞いてシュンと耳をショゲさせた。
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