辺境の村に住む少年、類稀なる「氣」の力で剣聖に成り上がってしまう

甲賀流

第1話 少年アルベール、お嬢様と出会う



 アルベール・ハイヤー。


 ザッタ村に住む8歳の男の子。

 ごく普通の子供だ。

 

 こんな田畑ばっかの村のわりに子供はたくさんいる。

 俺もその1人なのだが、どういうわけか全く趣味が合わない。

 根本の遊び方が違うのだ。


 彼らはごっこ遊びだ、とか言って鬼ごっこやかけっこ、探検ごっこをしているのだけれど、俺にはその楽しさが全くもって理解できない。


 じゃあ君は何をして遊んでいるのかって?


 自分の体で遊んでいるのさ。

 こうやって地面に座り込んで目を瞑る。

 そうすると体の中のエネルギー、みたいなものが全身を巡っているのが分かるんだ。

 これを毎日していると、日に日にその巡る量もどんどん増えていく。

 それがもう気持ちよくて……今ではちょっと癖になっていたり。


 でも俺が床に座って体で遊んでいると、親はいつも嫌な顔をする。


「あなたも他の子と外で遊んできなさい!」


 とか言って。


 だから俺は外でするのだ。

 少し高い丘の上で『体遊び』を。


 5歳の頃にこれを覚えて、早3年。

 俺が命名したこの『体遊び』、実は色んな応用ができる。


 例えばこのエネルギーを足に集中すると速く走れるし、腕全体に集中させると重いものも軽く持ち上げられる。

 だからこの力、実はすっごく便利なものなのかもしれない。


 ……かと言って、今の活用方法はせいぜい速く走って家に帰るくらいだ。

 そのうち何かに使えればいいけど。


 そんなことを胸に秘めながら、今日も今日とて俺はいつもの丘で『体遊び』に一生懸命励んでいる。


「くそ、一体どこ行っちまったんだよあのお嬢様は!」

「さぁな。全く少しも目を離せねぇぜ」


 すると丘のふもとから聞き慣れない男の声がする。

 俺は一度『体遊び』を終え、チラリと下を覗いた。


「ちっ、元はといえばお前が目ぇ離すのがいけねんだ」

「それを言うなら、お前が小便さえ行かなけりゃこんなことには……ってここで言い合っても仕方ねぇ。早く探すぞ」


 こんな小さな村にお嬢様?

 そんな人はいないけど。

 それにあの2人の大人、この村の人じゃなさそうだ。


 さてどうするか。


 ……ま、俺には関係ない。

 そろそろ日も暮れるし、家に帰るか。


 と、俺は今の光景を見なかったことにして、家路を目指した。




「やっと見つけましたわ。アルベール・ハイヤー!」


 帰り道、突然背後から声をかけられた。

 ……もうすぐ家着くのにめんどくさいな。


 振り向くと、そこには同い年くらいの女の子。

 金の長い髪はくるくると縦にロールがかかっている。

 子供ってのはこの村では珍しくないけれど、この子は間違いなく外の子だ。

 だって、こんな豪華な水色のドレスを着てる人なんていないから。


「……なんで、名前知っているの?」


 まぁ彼女の素性などどうでもいい。

 問題はなぜ俺の名を知っているかだ。

 するとその女の子は両手を腰に当てて、威張るように言った。


「ふん、ワタクシの夢に出てきましたからっ!」


 夢?

 やばい、変な人かもしれない。


 俺は見ぬふりをして元の道を歩き始めた。


「ああん、待って! 待ってくださいぃっ!」


 そう言って彼女はドレスの裾をたくし上げながら困り顔で、俺の前に回り込んできた。


「えっと、何か用で?」


 俺は自然とため息が溢れる。

 早く帰らないと母さんに怒られるのに。


「ようやく話を聞く気になったのね。アルベール! あなた、ワタクシの護衛になりなさいっ!」


「……はい?」


 やっぱり変な女の子。

 なんで俺が護衛なんてしなきゃいけないんだよ。


「ワタクシの夢は一種のお告げみたいなものですの。神様がこうすればいいよと導いてくれる。これはワタクシの生まれ持った【予知能力】ですのよ」


「イタい組織の勧誘ですか? そういうの間に合ってるので」


 やっぱり変だ。

 特殊能力とかそんなの人に備わってるわけがないし。


「……ではワタクシがあなたの名前を言い当てたのはどうして?」


「そ、それは誰かに聞いたりとかで……」


「アルベール・ハイヤー、8歳。ザッタ村にて生まれ両親と3人暮らし。年の近い子供とは趣味も合わず、いつも1人で遊んでいる」


 女の子はペラペラとあらかじめ準備していたかのように、俺の情報を並べていく。


「……母さんか父さんにでも聞いたのか?」


 ここまで知っているのは俺の両親しかいない。

 2人を疑うのは、ごく自然のことだ。


「体遊び」


 その後彼女がボソッと呟いた。

 それは俺のみが知る言葉。

 言うと嫌がられると思い、親にすらその語句を伝えたことがない。


「これはアルベール、あなたしか知らないですのよね? これで信じられるかしら?」


 自慢気にニタッと笑む女の子。

 可愛い顔してるわりにむかつく表情をしている。


 しかし、これで信じる他なくなった。


「……分かった。信じるとして、俺はどうやったら解放される?」


 彼女は顎に手を当てながら、目線を上に上げる。

 

「そうね、できれば大人しくワタクシの護衛になって欲しいのだけれど……」


「やっと見つけた!」

「よし、早くこのお嬢様を連れ帰るぞ!」


 あ、さっき丘の下にいた男2人だ。

 近くで見ると、人相悪いな。


「……ア、アルベール! お助け下さいっ!」


 突然の命令。

 女の子は俺の後ろに颯爽と隠れる。


「いや、どうやってよ」


「『体遊び』で培った力……あれは『氣』といって、攻撃にも使えますのよ!」


 そう言われてもなぁ……いや、まぁ速く走れたり重い物を持てたりするんだから、攻撃に使えるのはたしかだろう。


「ガキ、退かねぇと痛い目見るぞ!」

「ほら、早くお嬢様をよこせ!」


 2人は腰にかけてきた剣を抜いた。


 うわ、剣だ。

 こんなの家にあった漫画でしか見たことない。


 果たして子供の俺が剣持ちの大人に勝てるのだろうか。


「……アルベールッ!」


 彼女の叫び声。

 気づけば男1人が迫り来ていた。


「退かねぇなら死ねっ!」


 ヤバい、死ぬ――



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2話構成の短編です。

これは『かつて最強だったおっさん剣聖、魔法に敗れて異世界転生〜剣術だけじゃ生き残れなかったので、今世は魔法も極めます〜』の転生前のアルベールが少年だった頃の話です。

⬇️


https://kakuyomu.jp/works/16818093089091411204


どうぞ、ご興味あれば長編もお楽しみください🙇

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