シヌカイとアンジュ

@mugimugi_sakai

シヌカイとパッセ

 童話集「周辺で紡がれる物語と口伝」より



 白と青で彩られた小さな港、そこで姉のアンジュと妹のパッセは2人仲良く暮らしていた。姉は漁猟、妹は狩猟を生業にしており、お互い助け合っていた。


 そんなある日、パッセは山々を駆けていたエンガバンプを採れたことが嬉しくて、近隣で話題になっている陽気なステップを踏みながらアンジュの帰りを待っていた。


 しかし、幾ら舞踏してもアンジュの姿を現わすことはなく、遂に太陽は家に帰ってしまった。


 心配したパッセは、外へ駆け出し姉を探すために黒く、黒く覆われた空の下を何時までも走り続けた。


 息を切らしたパッセは海のそばで『シヌカイ』を見つけ、アンジュのことを想いながら祈った。


「シヌカイさま、シヌカイさま。どうか、わたしのだいすきなあねをみつけてください。わたしのあしはもう、いしのようにうごきません。どうか、どうか、おねがいします」


 パッセはかつて姉が、『シヌカイ』のことを海の守貝と呼び、姉が漁猟するときを助けてくれると言っていたこと、を思い出して最後の希望をこの一つの貝殻に託した。


 すると、一筋の光がパッセを包むように『シヌカイ』目掛けて降りてきた気がして何故か、パッセは心穏やかな表情になった。


 途端に周囲の状況を確認できるようになったパッセは、後方に砂を蹴る音が聞こえ振り向くとそこには、姉のアンジュの姿があった。


「パッセ、あなたのこえがきこえたから、ここにもどってこれたわ」


 姉の声を聞いたパッセは安堵したからか、溜め込んでいた瞼の堰を切って一生懸命に声を捻りだした。


「お、ねえちゃん……おかえりなさい……!」

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