えんぴつ削りのやっほい太郎

月とロケット

第1話 えんぴつ削りのやっほい太郎

えんぴつ削りの太郎は今日も腕をブンブン回してみんなを削る。掛け声はやっほい!


 ぼくのともだちBえんぴつくんは色がこくてやわらかい。赤えんぴつちゃんはやさしく削らないとすぐに折れちゃう。だから大事なところだけに使われるんだ。知ってた?


 みんなはいつもまさとくんの学校でのできごとを教えてくれる。

「この前の漢字のテストで間違った(体)って字。線が一本足りなくて惜しかったな。でも今日はしっかり書けてたよ。ぼくがあと一本、あと一本ってずっと祈ってたもん」とBえんびつくん。

 赤えんぴつちゃんは「こたえ合わせで〇って描くときのまさとくんはうれしそう。×はくやしそうでわたしも悲しくなっちゃう。今日(体)に〇をつけたときはやったーって思った」

 そうぼくらは使う人の気持がわかるんだ。また明日もみんながんばろうね。やっほい!


 ある日いつも学校から帰ってすぐに削っていたひとりのえんぴつくんがやってこなくなった。ぼくのとなりの空き缶からそのすらりと伸びた背が見えていたのに、今は見えない。

「どうしたんだろう」ぼくは心配になった。

 そのとき机に座ったまさとくんの後ろからパパさんが言った。

「えんぴつみじかくなったね。もう使えないのかな」

「うん。もううまくにぎれないんだ。つかれちゃう」

 パパさんはえんぴつを取り出してじっとみつめた。「そっか。しかたないよね」


「ああ、捨てないで。まだ、まだつかえるよ」ぼくは聞こえるはずがない声で叫んだ。そして思った。ぼくらが使う人の気持をわかるってことはぼくらの気持ちも伝わるんじゃない?

 

 太郎はブンブンと腕を振った。

「そのえんぴつ削らしてぇ。お願い。お願い!」

 するとパパさんはチラッとぼくのほうを見た。

「この使い込んだえんぴつはまだまさとと一緒にいたいんじゃないかな。大切にしなきゃね」そう言ってなにやらごそごそとポケットから赤やみどりのキャップを取り出した。

「これをうしろにつけると使いやすいよ」

「ほんとだ。パパありがとう」


 まさとくんにわたされたえんぴつは僕の中へ。やっほい!

えんぴつくんもやっほい! みんなやっほい! 

太郎は腕をブンブン回して空に飛んだ。

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