あたたかいクリスマス

マイペース七瀬

第1話

 2024年12月になっている。

 今年は、変な一年だった。

 今年の夏は、沸騰していたんじゃないか、とカズユキは、思った。もう、カズユキは、40代後半になっている。

 勿論、カズユキは、東京で知り合った彼女とも別れた。

 東京でずっと、音楽関係の仕事をしていたが、社長と喧嘩になって九州に戻ってきた。

 それが、2024年11月の初めだった。

 ここは、福岡県北九州市である。

 東京からは、新幹線で、6時間はかかれば着くのだろうか?

 または、小倉駅から少し日豊本線で行ったところに、北九州空港がある。そして、カズユキは、仕事が失敗して、それで、地元の九州に戻ってきた。

 大陸からの風が、冷たいと思った。

 小倉駅からJR日豊本線で、下曽根駅があって、そこで、カズユキは、年を取った両親と暮らしている。

 そして、10代の時、よく門司駅前まで行って、チーズカレーを食べたなぁと思った。

 毎日、カズユキは、かつて自分が作詞した歌を歌いながら、ギターも弾いている。

 父親は、ニワトリの飼育をしている。

 そして、カズユキは、ニワトリの飼育を手伝っている。

 そんなある日、父親は、カズユキにこう言った。

「お前さ」

 父親は、真剣な顔つきで言った。

「うん」

「YouTubeで、歌とか配信しているのだろう」

 まるで、重大な任務を言うかのような口調だった。

「うん」

 カズユキは、軽く答えた。

「別にさ、今の時代、音楽の配信をしながら、ニワトリの飼育をして、この家の後を継いでも良いよ」

「やった」

 ただ、珍しいことを言ったなと感じた。

「たださ、父さんからも頼みがあるんだ」

「何が?」

「そこの角川町民会館でさ、いつも<みんなで歌う会>が、あるじゃない」

「そこでさ、お前、いきものがかりでも良いし、AKB48でも良いから、毎月、一回、何か歌ってくれないかな?」

 父親は、町民会館では、出し物担当になっているが、音楽ができる人間がいないと悩んでいたらしい。

 最近では、この地域では、若者は、大阪か東京。

 または、博多へ行く若者が多くて、バンドマンがいない。

 2024年12月24日。

 角川町民会館にて、コンサートがあった。

<みんなで歌う会ーあたたあかいクリスマスー>

 が、開催された。

 地域で、仕事をしている年配の人が、客として多く来ていた。

 クリスマスに因んだ歌を歌った。

 勿論、カズユキは、稲垣潤一『クリスマスキャロルの頃には』を歌った。

 ああ、オレは、今年は、彼女もいないで、一人になったのかと思った。

 その時、一人の女性が、カズユキにこう訊いた。

「歌が上手だったのですが、お名前は何て言いますか?」

 と言った。

 それで

「今日さ」

「うん」

「二人で、これから門司まで行かない?」

「え」

「門司のチーズカレーを食べに行こうよ。クルマは、オレが運転するし」

 と言った。

 それは、カズユキと彼女の二人だけのあたたかいクリスマスになったようだった。

 

 

 

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あたたかいクリスマス マイペース七瀬 @simichi0505

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