第7話 初恋の人が住む街

 ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン


 俺は志保さんと一緒に電車に乗っている。


 そして志保さんは少しテンションが高くなっている感じで一人しゃべっている。

 一応、俺に向かってしゃべってはいるのだが……


 しかしこの人は『現実世界』も『今の世界』も本当によくしゃべる人だ……


 大人しくしていたら凄く清楚に見えて美人さんなんだけどなぁ……


――――――――――――――――――――――


 俺の自宅の最寄駅から3つ目が目的の駅である。


 だから時間にして約15分程度だが、俺は少し緊張していたので時間は長く感じていた。勿論、志保さんの話も右から左だ……


 『青葉北~青葉北に到着致しました~』


 遂に『つねちゃん』が住んでいる街の最寄り駅に着いた。


『青葉北駅』……この駅の近くには『青葉大学』という大学も有り、沢山の学生が乗り降りしている。しかし今日は日曜日という事でどちらかといえば家族連れの乗客が目立っていた。


「私、この大学に通っているのよ」


「えっ? そうなの!? 志保姉ちゃん、頭凄く良いんだね?」


 俺は志保さんが通っていた大学がレベルの高い『青葉大学』だというのを『現実世界』でも知らなかったので本当に驚いてしまった。


「隆君、小学1年生なのに、うちの大学のレベル知ってるの? 凄いわねぇ……」


 しまった!!


 俺は余計な事につい反応してしまった自分を反省した。


 そして、あまり志保さんと話をし過ぎると『ぼろが出る』と思い、極力話さない様にしようと思うのだった。


―――――――――――――――――――――――――――――――


 『現実世界』の話だが、この街には俺が高校生の頃によく通っていた。


 友人がこの街に住んでいたって事もあったが、駅周辺は学生街という事で『カラオケボックス』『ファーストフード』『レンタルビデオ屋』『喫茶店』『ゲームセンター』『ビリヤード場』『ボーリング場』など、学生が好む店が沢山あったからだ。


 しかし何かおかしい……俺の知っている街並みとなんだか違う。

 街にあまり派手さが無いのだ。


 そっ…そうだった。この世界は俺が高校生の頃よりも更に前の時代だった。

 恐らく『インベーダーゲーム』ですら、来年くらいに流行り出すんじゃなかったか?


「はぁぁぁ……」


 俺はなんだか複雑な心境になり、思わずため息をついた……


「どうしたの隆君? ため息なんかついて。もしかして緊張してるのかな?」


「えっ? まぁ、そんな感じかな……」



――――――――――――――――――――――


 2週間ぐらい前に母さんがいつも大事なものをしまっているタンスの引き出しから、前に『つねちゃん』が自宅の住所を書いた紙を『どうか母さんにバレませんように』とお祈りをしながら俺は持ち出していた。


 そして今、その住所が書かれている紙を見ながら俺と志保さんは『つねちゃん』の住んでいるアパートに向かっている。


「あっ!! ここじゃないかしら!? そうよ、きっとこのアパートだわ!!」


「あっ!?」


 俺は『つねちゃん』が住んでいると思われるアパートを見て驚いた。

 なんと、そのアパートは俺の高校時代の友人が住んでいたアパートだったのだ……


 まさか俺は当時、知らず知らずのうちに、何度も何度も『つねちゃん』が住んでいた街に通い、そして『つねちゃん』が住んでいたアパートにも何度も何度も足を踏み入れてたのかよ……


 うっ、何だこの胸の苦しみは……?


「ふぅぅぅ……」


「フフフ。隆君、緊張が最高潮に達したのかな? 今度は深呼吸なんかしちゃってさ……さあ、グズグズしないで早く行くわよ!! 『常谷先生』のお部屋は3階の『303号室』よ!!」



 ピンポーン ピンポーン


 志保さんがインターホンを押す。


 ドキドキ……ドキドキ……ドキドキ……


 緊張のあまり俺の心臓の鼓動が早くなっているのが分かる。そして……


「はーい、どちらさまですかぁぁ?」


 いた!! 家にいてくれた!!

 そして相変わらず、なんて優しい声なんだ!!



 『つねちゃん』と離れ離れになって、まだ数ヶ月しか経っていないのだが、俺には『つねちゃん』の優しいその声がとても懐かしく思えるのであった……

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