転生ゴーレム職人、魔法が使えないので代わりに自律兵器で無双します

昼から山猫

第1話:異世界の下級平民に転生した俺

 まぶたを開くと、俺は薄暗い藁葺き屋根の家の中にいた。

 かすかな埃っぽい匂いと、木製の簡素な家具が視界に入る。

 記憶が混乱するが、どうやら俺は異世界に来てしまったらしい。

 名前は天羽ジュン、前世は日本でゲーム開発をしていた社会人だった。

 だが今は、田舎の下級平民の息子という立場らしい。

 何度か目をこすって状況を確認するが、ここはどう見てもファンタジー世界。

 問題は、魔力を持つことが常識のこの世界で、俺には魔力がほとんど無いらしいという噂を何度も聞かされていたことだ。


 


「おい、ジュン、起きたのか?」


 


 父さんの声だ。

 父は鍛えた身体の農夫で、背が高く、無精ひげを生やしている。

 かなり荒っぽいが、家族への愛情はある人だ。


 


「……ああ、父さん、起きたよ」


 


 俺の声は少し高い。

 まだこの身体は少年らしい声帯だ。

 父さんは隙間から差し込む朝日を背に、田畑へ行くための支度をしている。


 


「今日も麦畑を耕すぞ。魔力が無い分、お前には手足で働いてもらわんとな」


 


 父さんは口を曲げて笑う。

 俺は少しだけ胸が痛む。

 魔法が使えないだけで、こんなにも下に見られるものなのか。

 前世でエンジニアだった俺には、この世界の価値観は少し重い。



 家を出ると、周囲はのどかな村だ。

 木造の家々、土の道、遠くで羊が鳴く声。

 人々は比較的素朴で、人付き合いは悪くない。

 だが魔力の有無で社会的序列が決まるという点が、俺にはいまだに受け入れられない。


 


「おはよう、ジュン君!」


 


 隣家の娘、リーゼが笑顔で手を振る。

 彼女は薄茶色の髪を首元でまとめ、シンプルな麻の服を着ている。

 村でも評判の美人で、よく俺に声をかけてくれる。

 なぜか分からないが、彼女は俺の魔力の無さを気にしていないようだ。


 


「おはよう、リーゼ」


 


 彼女は輝くような笑顔を浮かべて近づいてくる。

 頬はほんのり赤い。


 


「今日も農作業? 大変だね。魔法でやれたら簡単なのに……」


 


 リーゼは申し訳なさそうに視線を落とす。

 彼女自身はそこそこ魔力があるらしく、簡単な水魔法で畑に水をやることもできるとか。

 俺には羨ましい才能だが、悲嘆しても仕方ない。


 


「まあ、俺には俺なりのやり方があるさ。気にしないでくれ」


 


 俺は軽く笑って答える。

 リーゼは少し安心したように微笑んだ。



 畑に出ると、父さんと母さん、そして村人たちが作業を始めている。

 母さんは小柄で優しい目をしているが、今は無言で畑の雑草を抜いている。

 同年代の少年たちもいて、彼らは魔力がほんのりあるらしく、微弱な風魔法で余計な枯れ草を吹き飛ばしたりしている。

 俺だけが手で耕すしかないのは、やはり少し悔しい。


 


「おいおい、ジュン、まだ素手で土いじりか? 魔力ゼロはつらいな!」


 


 隣でひやかすのは、村の若者ケルンだ。

 彼は黒髪短髪、筋骨隆々で、風魔法が得意。

 いつも俺を見下した態度だが、ここでは俺は立場が弱いから黙るしかない。


 


「ケルン、あんまり言うなよ」


 


 別の青年ルカスが止める。

 ルカスは魔力が中程度あるが、性格は穏やか。

 淡い金髪をなびかせて、微笑みながらケルンを宥める。


 


「ま、いいじゃないか。ジュンはジュンで頑張ってるし、リーゼちゃんも気に入ってるみたいだしな」


 


 ルカスが茶化すと、ケルンが鼻を鳴らす。

 俺は複雑な思いだが、リーゼのことを話題にされると悪い気はしない。


 


「俺には魔法が無い分、別の手を考えるさ」


 


 俺は土を掘り返しながら小さくつぶやく。

 前世で学んだプログラミング知識やAIの発想を、ここで使えないか。

 この世界には、ゴーレムという魔力で動く人形が存在するらしい。

 しかし、その制御には強力な魔力が必要で、弱い者には扱えないと聞く。

 けど、もし俺の前世知識を応用できたら?

 魔力に頼らず、自律的に動く仕組みが作れれば、俺でも「魔法使い」みたいなことができるかもしれない。



 日が暮れる頃、俺は今日の作業を終え、小屋で一息ついていた。

 汗でシャツが張り付き、身体は疲れたが、頭の中は前世の記憶でいっぱいだった。

 人形、ゴーレム、命令ルーチン、簡易AI……。

 この世界の魔術理論と前世の思考を組み合わせれば、何かできるかもしれない。


 


「ジュン、明日は手伝いに来られる? もし疲れているなら無理しなくてもいいんだけど……」


 


 小屋の入口からひょこっと顔を出したのは、同い年くらいの少女メリッサだ。

 彼女は可愛らしい丸顔で、緑色の瞳が印象的。

 普段はあまり話さないが、今日は何か気にかけてくれているようだ。


 


「もちろん行くよ。俺は俺なりに頑張る」


 


 俺が笑うと、メリッサは頷いて去っていく。

 彼女は村でもあまり目立たない存在だが、気遣いができる子だ。

 こうして見ると、俺は結構女の子と話せている気がする。

 リーゼやメリッサ、他にも顔見知りの少女が何人か。

 魔法が無いにしては悪くない状況かもしれない。



 家に戻る途中、古びた納屋の扉が開いているのに気づく。

 そこは昔、父さんが使っていた農具が積まれている場所だ。

 埃っぽい空間だが、工具や木材がある。

 俺は中へ入り、使えそうな材料を探す。

 この世界で自分が生き残る手段を探しているうちに、ふと頭に浮かんだのは「ゴーレムを自動的に動かす」技術のこと。

 前世で作ったゲームのNPC制御を思い出す。

 あれを活かせれば、魔力ゼロでもゴーレムを動かせるかもしれない。

 人が働く代わりにゴーレムが農地を耕し、橋を補修し、モンスターを狩る……。

 そんな理想が実現できたらどうなる?

 おそらく、この世界の常識を揺るがすだろう。

 だが同時に、魔力至上主義の貴族たちに目を付けられる可能性もある。


 


「……まずは小さな実験から始めよう。あの木材で簡単な人形でも削ってみるか」


 


 俺は納屋の中で、木材や金属片を見回す。

 使えるものは限られているが、前世の知恵を応用すれば何とかなるはずだ。



 夜になり、ランプの明かりだけが頼りとなる部屋で、俺は一人で微細な刻印を考えていた。

 魔法陣のようなものを作り、その上に俺なりの命令式を書き込めないか。

 この世界の文字と、俺の知るプログラム的な思考を混ぜ合わせて、ゴーレムの「行動ルーチン」を作る。

 上手くいくかは分からないが、やってみる価値はある。


 


「ふふ……魔法が無い? それならゴーレムを動かせばいいじゃないか」


 


 俺はそう小さく呟く。

 まだ何も成功していないのに、胸が高鳴る。

 この世界で俺が頂点に立つ方法は、魔力じゃなくて「自動制御ゴーレム」。

 もしこれが実現したら、俺はもう「無能」じゃない。

 むしろ、誰よりも便利な戦力を生み出せる存在になれるかもしれない。


 


 ドキドキしながら、納屋の隙間から外を覗くと、月明かりの下、村の静かな景色が広がっている。

 遠くには貴族が支配する領地があるとか聞くが、そこへ行けば俺の技術も注目されるだろう。

 だけど、警戒もされる。

 まあ、今はそんな先のことを考えても仕方ない。

 まずは小さなゴーレムを作って、動かしてみよう。

 その成功が、俺の未来を拓く第一歩になるはずだ。


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