妖怪探偵ぼろぼろ

ベニテングダケ

第1話 ぼろぼろ

妖怪。日本を超え、中国等の国で広く親しめられてきた古来の伝承。それぞれ人知の及ばない現象を起こす不可思議な彼等は、歴史の闇に葬られ今は人間の影に隠れているのだ。

「今日も投稿と…」

暗い部屋に怪しく光る携帯電話と重い煙の影が目を虐める。

彼女の名前は「ぼろぼろ」。夢を見れない悲しき妖怪。そしてこれはそんな彼女の夢の様な現実の話。

東京都表裏市、彼女「御上真女」は、困っていた。友人である「遊佐木亮二」「伊坂空」と携帯電話を睨んでいた。

彼等は表裏市にある古橋大学に通っており、三人しかメンバーがいない和菓子サークルの三人である。彼女達の好物は、もちろん和菓子であり、御上は特に苺大福を愛している。

そんな和菓子好きの彼女達は、今日は和菓子よりも携帯電話に夢中になっていた。いや正しくは携帯電話にある一つのSNSアプリのツイートに夢中になっていた。

「おい…これが本当に心霊写真だってのか?何も感じないんだけど」

「わかる。真女は、昔から虚言癖だし」

遊佐木と伊坂は、御上を睨む、だが御上は真剣に画面に映る写真を見る。

「本当だってば!女の人の後ろに影が!」

私は、多少怒りを含んだ言い方で、二人の友人に言葉を返す。

「でも証明できないじゃないか。俺達に心霊写真だって証明のしようはないだろ?」

「そうだよ。それがないと信じれないのは真女にも分かるだろ」

理論的な彼等は私に問い詰める。

「証明って言ったって…」

「ほらな?証明できないなら心の中に閉まっとけ。それが人生の楽な生き方」

遊佐木が、私にそう諭すと、伊坂と一緒に、「昼飯買ってくるからー」と言って出ていってしまった。一人残った部屋で真女はスマホに向けて「本当なのに…」と言った。

「本当なのにね…お嬢さん?」

「え?」

誰かの声が響く。だが扉を開けた音もないし、そもそもここに入ってきて私の事をお嬢さんと古風な言い方で呼ぶ人間もいない。

「ここだよ。お嬢さん」

では、どこから私を呼ぶのか、わかってはいたが、わからないふりをし、諦めて前を見る。スマホは何も押していないのに、通話状態に変わっている。

「…誰ですか?」

私は恐れながら非通知の誰かに名を聞く。

「自己紹介したい所だけど、誰かに聞かれたら私のポリシーに響く、招待しよう」

淡々と訳の分からない事を喋り続ける彼女の声は、怪しく妖しく語りかける。

「招待って…」

「その携帯に手を置いて」

「え?」

「いいから手を置くんだ」

意味がわからない。携帯に手を置く、取るのではなく?というか見ず知らずの者に招待されて行く程私は馬鹿ではない。

「置きましたよ」

私はスマホの右側にずらして手を置く。

「携帯の画面に置くんだ。そんな事も出来ない程君は馬鹿なのかな?」

「は?」

挑発されて怒る程、私は気が短くはなかったが、その時の私は何故かすぐに怒ってしまった。

「やってやるわよぉお!!」

私はスマホに右手を叩きつける。

「いらっしゃいませ。依頼者さま」

スマホの中の誰かは、私に妖しく笑いかける。私の右手は、スマホの中身に引き込まれる。いや、正しくは何かに掴まれ引っ張られる。

次に見えた空間は、二人程座れるソファー、横長の机、その二つが置かれた個室に、私と一人?一体…わからない何かがいた。

「いらっしゃいませ依頼者様。いやー先程はすまなかったね。だが君も悪いんだぜ?私を騙そうとするなんて。ま、依頼者様に悪態を取るつもりはないからね。さぁ依頼者様。どうぞこの私めに依頼を」

「依頼って…てか状況が掴めません!貴方誰!?」

スマホに飲み込まれた!?てかこの人誰!?てか絶対人間じゃない!ニキビの一つ無い白い肌に美しい黒髪と青のブリーチ、日本人形ともアンティークドールの様とも言える彼女は誰だ!

「あぁ…自己紹介が遅れたね。」

彼女は妖しく微笑んで左手に持つ煙草の灰を落とす。

「私の名前は、ぼろぼろ。探偵だ」

「ぼろぼろ…?」

「そう、ぼろぼろ」

アフリカの隅とかの人なのだろうか。そんな珍しい名前、異国ではないと聞けないし。

「…出身は?」

「日本だよ。依頼者様のお名前を聞いても?」

「御上真女です。てか依頼って…というかスマホの中に入りましたよ私!」

そうだ依頼とか名前よりも私スマホの中に入った。未来の技術はここまで進歩したのか!?

「まぁまぁ良いじゃないか。依頼者様の依頼さえ聞いたらとっとと帰してあげるからさ」

「いやだから依頼なんてありませ」

「嘘だね」

空気が変わった。彼女の黒目が黒より黒い何かに変わる。

「失礼。だが嘘をつく依頼者様が悪いんだぜ?私の出した心霊写真に気づいた時点で君は依頼者様だ」

「え?じゃああの写真やっぱり…」

「あぁ。まぁあの霊は私だがね、写真はフリー画像、つまりフリー画像に私という加工を施した訳だ」

「え…?じゃあぼろぼろさんは幽霊なんですか?」

いや気づいてはいた。人間ではないという事には。だが本人から直接肯定されると案外驚く物だ。

「幽霊…まぁ近い物だけどね。妖怪と呼んで頂こう。妖怪ぼろぼろだ」

「妖怪…妖怪○○ッ○?」

「レベル○に怒られちゃうかもね。で、依頼者様の依頼を聞きたいんだけど」

「依頼…」

「そ。あの心霊写真は、悩みが無い人には見えない物なんだ。何かあるんじゃない?例えば…父親とか」

「⁉︎…帰ります」

「おいおい…依頼を聞かないと帰れ」

「帰ります!!」

「…お帰りは左手の扉から」

私は足を動かし左にあった赤い扉を開けすぐさま部屋を出ていった。

「…あの扉は私が開けないと開かないはずなんだけど…帰れてしまったねぇ…」

ぼろぼろは笑みを溢す。

「面白い事になりそうだ」

彼女は夢を見れない悲しき妖怪。ぼろぼろ。夢を忘れた悲しき妖怪。ぼろぼろ、

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