第9話 寝起きの巻き付きと蛇の杖
翌朝、ライカが目を覚ますと、枕元でピートがとぐろを巻いて鎮座していたのだが。
「ピート、大丈夫なの?」
まぶたを持たない蛇である彼だが、目が妙な方向を向いてるのを見てライカは軽く動揺してしまう。
そんなライカの声で気づいたのか、ピートが目線を戻して頭をもたげた。
「おう、ライカ。昨日は良く眠れたか?」
「うん。それよりもさっきは変な方向向いてたけど、どうしたの?」
「ん、何のことだ? 寝てたからよくわかんねえや」
あっけらかんと言うピートに、ライカはほっと胸を撫で下ろす。
どうやらピートは寝ていただけだったらしい。
そんなピートは口を大きく広げてあくびをする。
「昨日の夜にデカいネズミを呑み込んだばかりだからな、まだ眠いや」
「そう、なんだ」
ピートの言葉でライカは、ネズミを丸呑みにする白蛇を想像して、ちょっとだけ背筋をゾクッとさせた。
「それじゃあルミアを呼びに行こっか」
「そうだな、ライカ」
ピートを首に提げて部屋を出たライカは、ルミアのいる隣の部屋の扉を叩く。
「ルミア~、起きてる?」
ライカが声をかけるも、部屋からは返事がない。
「入るよ」
一言言ってライカが部屋に入ると、寝床で蛇のような自分の身体を器用に巻き付けて寝るルミアの姿があった。
「すぴぃ~」
まだ寝言を漏らしているルミアの肩を、ライカは優しく揺する。
「ルミア、起きて。もう朝だよ」
「ん~?」
それに反応したのか、背を向けてたルミアは寝返りを打つなりライカに抱きついた。
「ちょっと、ルミア!?」
「むにゃむにゃ、お母さ~ん」
頬を染めて驚くライカに、ルミアは寝言を呟きつつ蛇の尾でぎゅっと締め付けてくる。
「ルミア! 苦しい、やめて!」
結構な力で締め付けてくるルミアに、ライカは苦悶の表情を浮かべながら激しく彼女の身体を叩いた。
「ん~っ? ……あれ、ライカくん?」
「おはよう、やっと起きたんだね」
寝ぼけ眼を開けたルミアが気づくなり、慌ててライカを突き飛ばす。
「はわわっ、ライカくんがどうしてここに~!?」
「あたっ!?」
「あっ、ごめんなさい! ビックリしてつい……!」
オロオロとして取り乱すルミアに、ピートが淡々と説明をした。
「ルミアがなかなか起きないから、ライカが起こしに来たんだよ。で、寝ぼけたお前がライカを締め付けたってわけ」
「そうだったんですか!? 朝っぱらから失礼しました~!!」
ペコペコと頭を下げて謝罪するルミアを、ライカは苦笑して許す。
「ううん、ボクは平気だよ。……でも寝ぼけて巻き付くのだけはやめてほしかったかな~」
「はう~、申し訳ないです~!」
顔を真っ赤にして戸惑うルミア。
そんなこんなで三人は宿屋の食事場に下りることにした。
早速声をかけてきたのは、恰幅のいい女将である。
「あら、おはようお二人さん! 昨日は良く眠れたかい?」
「はい、おかげさまでぐっすりです」
「そ、そうですね」
ニッコリ笑うライカと恥ずかしそうに赤く染まった頬を押さえるルミアに、女将はニヤニヤとした表情を見せた。
「おや~? まだ小さいのにお楽しみだったのかい?」
「お楽しみ?」
「はわわっ、そんなんじゃないですよ女将さ~ん!!」
女将さんの言葉のあやにキョトンと首をかしげるライカと、羞恥で大袈裟に手を振り乱すルミア。
「それはそうと、食事はできてるよ」
女将の言うとおり、小さな円卓には素朴な食事が並べられている。
「それでは頂きますね。……ほら、ルミアも一緒に食べよっ」
「は、はいっ」
ライカが席に着くよう促すと、ルミアもややぎこちなく椅子に腰を下ろした。
二人の目の前には、ほかほかに炊けた玄米と焼いた川魚がある。
早速スプーンで玄米を口に運んだライカは、その香ばしさに舌鼓を打った。
「んんっ、このご飯おいしい! ルミアも食べてみなよ!」
「はいっ。……本当です、とってもおいしいです!」
続いて二人が川魚の身を箸で摘まむと、今度はふわふわとした食感と川魚特有の風味が口いっぱいに広がる。
「お魚もおいしい!」
「はい! とってもおいしいです!」
『うまい飯が食えて良かったな、二人とも』
ライカに語りかけるピートは、その首に巻き付いてまったりとしていた。
腹ごしらえを済ませたライカたちは、続いて冒険者としての必需品を揃えるため、町の市場へ足を運ぶことに。
「これが町の市場か~!」
活気あふれる市場を目にしたライカは、目を輝かせて周囲を見渡した。
『おいおい、はしゃぐのはいいが目的を忘れるなよ?』
「分かってるよピート」
そうしてライカたちは必要な品を順番に買い揃えていくことに。
それは素材を入れる鞄だったり非常食だったり。
傷薬も買い揃えたところで、ライカたちは続いて町の鍛冶屋の扉を叩いた。
「ごめんくださーい!」
一言言ってライカが店に入ると、奥で筋骨粒々なひげ面の男が赤熱した鉄を打ってるところだった。
「おう、子供が何の用だ?」
厳つい職人の男の言葉に一瞬たじろぐも、ライカは背筋をピンと伸ばして告げる。
「あのっ、ボクたち新しく冒険者になったんですけど。武器が欲しくてここに来ました!」
勇気を出して発したライカの言葉で、職人の男は腰をおもむろに上げた。
「そうか。どんな武器がいいか?」
「えーっと~」
辺りを見渡すライカだが、立て掛けられた武器の数々の値段に目が泳いでしまう。
銀貨数枚でもギリギリ買えるかどうかなのだ。
「武器ってこんなに高いんだ……!」
『当たり前だ、武器は職人の技と時間が詰まってるからな』
ピートの補足にライカはうなづかざるを得ない。
そんな彼らを見ていた職人が、眉を上げてこんな提案をする。
「お前さんにこれはどうだろうか?」
そう言って職人が軽く投げ渡した杖を、ライカが慌てて受け取った。
「はわっ! ……これは?」
見てみるとそれは先端に翼が施された杖に蛇のような装飾が巻き付いたような形をしている。
「そいつは昔とある魔法使いに依頼されて作った物なんだがな、気味が悪いってんで買い取ってもらえなかったものだ。銅貨三十枚くらいで売ってやるぞ」
「え、いいんですか!?」
職人からの思わぬ提案に、ライカは目を丸くした。
安さもさることながら、その杖は不思議と彼の手に馴染むものだったからである。
「今はもう買い手が満足につかない代物だからな」
「ありがとうございます!」
銅貨三十枚を支払ったところで、ライカは新しく買った杖を手に店を出た。
『本当にそんな売れ残りの杖で良かったのか?』
「いいんだよ、ピート。ボクはこれが気に入ったんだ」
「わたしもライカくんに良く似合ってると思います!」
「でしょ~!?」
和気あいあいとしながら、ライカたちは買い揃えた物を宿屋に持ち帰ったのである。
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