村を追放された少年と蛇たちの冒険譚~加護は幸せへの道しるべ~
月光壁虎
第1話 授かった加護と追放
「ミ・ライカよ、お主の加護は【蛇使い】だ」
苦虫を噛み潰したような顔の神官の言葉に、村人全員が驚愕し、嫌悪の表情を露わにする。
たった今洗礼を受けた少年ライカは事態を理解しきれずに立ち尽くしていたが、周囲の反応から事の深刻さを察する。
「嘘だ! もう一度洗礼を頼む!」
ライカの父親が頭を下げて必死に訴える。
しかし神官は首を重々しく横に振るだけだった。
「残念ながら、これが神様の意志なのですじゃ」
「そんな……!」
父親は膝からガックリと崩れ落ち、母親は口許を押さえて涙をこぼす。
その姿を目の当たりにしても、ライカは何も言えず呆然と立ち尽くしていた。
「父さん、母さん……」
その場に取り残されたような彼は、ふと過去の記憶を思い返す。
昔から不思議と彼の周りには蛇が集まってきていた。
家の周囲はもちろん、外に出れば必ず蛇と遭遇してきた。
それでも彼は蛇に咬まれたことがなく、むしろ蛇たちを友達のように感じていた。
家族もそれを気に留めることはなかった。
だが、その特性が【蛇使い】の加護だと判明した今、村人たちは彼を忌み嫌うようになった。
蛇――邪悪の象徴とされる存在を従える者など、村に受け入れられるはずもない。
「――ライカよ、明日の朝には村を出ていってくれ。それがカガミ村の意志だ」
村長の冷淡な宣告に、ライカは黙って家に駆け込んだ。
ライカは自室に閉じこもり、布団の中で声を殺して泣いていた。
「加護のせいでボクは……!」
声を震わせる彼の上から、屋根裏に住み着く蛇たちがひょっこりと顔を出す。
しかし何をすべきか分からないのか、彼に近づくことはできずにいた。
その時、部屋の扉が静かに開き、入ってきたのは母親のミ・ズキだった。
「母さん……?」
涙でぐしゃぐしゃの顔を上げるライカに、ズキはそっと寄り添い、優しく抱きしめる。
「ごめんね……、加護一つでライカを見捨てるようなことになってしまって」
「母さん……」
ズキの涙がライカの緑がかった黒髪に落ちる。
「ねえライカ」
母の声は静かだが、その奥には確かな意志が感じられた。
「どんな加護にも、神様の意志が込められているの。だからあなたの【蛇使い】だって、きっとどこかで役立つ日が来るはずよ」
「母さん……!」
その言葉は、深く傷ついたライカの心にじんわりとしみこんでいく。
彼は力強く母を抱き返し、涙を拭った。
「うふふ、それだけ力が強ければ村の外でもきっとやっていけるわ」
ズキの優しい微笑みを見たライカは、少し驚いた顔で反論する。
「でも、ボクはまだ10歳だよ?」
その幼い言葉にズキは少し微笑みを深め、ただ彼を静かに抱きしめ続けた。
そんな二人を陰ながら見つめていたのは、妹のミ・レイナだった。
彼女はいてもたってもいられず、部屋の外から様子をうかがっていたのだ。
「……レイナ?」
気づいたライカが声をかけると、レイナは目を泳がせ、何も言わずにその場を去ってしまう。
「レイナ……」
妹の反応に不安を覚えつつも、ライカは少しだけ心の重荷が軽くなったように感じた。
翌朝、ライカは村を去る準備を整えた。
着ているのは緑の貫頭衣とベージュのハーフパンツ。
荷物らしい荷物もなく、ただ手ぶらで家を後にする。
「誰も見送りになんて来るわけないよね……」
そう自嘲気味に呟きながら村を出ようとした、その時だった。
「お兄ちゃーーーーん!!」
振り返ると、村の出口近くまで栗色の髪を振り乱して走ってくるレイナの姿が見えた。
「ダメだよレイナ!」
慌てて声をかけるライカ。
「ボクは追放されたんだ、そんなのと一緒にいるところを見られたら……!」
息を切らしながらも、レイナはまっすぐライカを見つめる。
「はあはあ……お兄ちゃん! レイナ、決めたの!」
その瞳に涙が浮かんでいたが、意志の強さが光っている。
「レイナ、再来年に加護を授かったら、お兄ちゃんを迎えにいくから! レイナが絶対お兄ちゃんを幸せにしてあげるから!!」
「レイナ……」
妹のひたむきな思いに胸を打たれたライカは、彼女をそっと抱きしめた。
「ありがとう、レイナ。ボクなんかのために」
「だってレイナ、お兄ちゃんが大好きなんだもん!!」
「そっか。じゃあ再来年までお兄ちゃん、頑張って生きるよ。また会おうね」
「うん! またね、お兄ちゃん!」
振り返って手を振るレイナの姿に見送られながら、ライカは力強く一歩を踏み出した。
しばらくして、村を出たライカは深い森の中で途方に暮れていた。
「――とは言ったものの、これからどうすればいいんだろう……」
行く宛もなく、仕事につくつてもない。
追放された身である彼にとって、どこへ行っても厳しい現実が待っているだろう。
「冒険者になるしかないのかな……」
冒険者――どんな境遇の人間でもなれる職業だが、その分保証もなく、危険が伴う仕事だ。
「【蛇使い】の加護が何かの役に立てばいいんだけど……」
呟くライカの足元に、小さな蛇たちが次々と集まってくる。
「君たちが力になってくれるの?」
一匹の蛇を掴み上げ、問いかけるように見つめる。
蛇はただ無言で彼の手から滑り降りた。
「そうだよね……、君たちがボクなんかのために力を貸してくれる義理なんて、ないよね……」
その時だった――。
『そうでもないぜ?』
どこからか頭の中に直接響くように、声が聞こえてきた。
「誰!?」
『俺だよ俺っ』
驚いて振り向くと、木の枝からするすると滑り降りる純白の蛇が目の前に現れる。
「白い蛇! しかもしゃべったぁ!?」
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