第5話

 コンサンターという銃がある。

 単発式のシングルアクションの銃であり、何より特徴的なのは小口径のライフル銃で扱うようなサイズの弾丸を撃ち出す事が可能であるという点だろう。

 当たり前だが、ライフル銃で扱うような弾丸にはそれを前方へと押し出すための火薬が大量に詰め込まれていて、だからこそ反動はとてつもなく大きい。

 そうでなくてもその造形上かなり扱いが難しい銃であり、だからコンサンターをただ強力な弾丸を撃ち出す事が可能な銃として実戦で扱うのはほぼ不可能である。


 それを大前提として――向風学園『プライド』学科所属の少女、迎田茜が扱う銃は大口径の銃だった。

 巨大な銃身にそれを支える持ち手とぶっちゃけこれ普通に鈍器としても使えるんじゃねって感じのオーダーメイドバレル。

 彼女はその愛銃の事を『ブラスト』と呼んでいる。

 それに関しては本人が付けたのではなく、作った人間がそう呼称していたのでそのままそれを利用しているだけだが。

 一撃撃つだけで肩が持っていかれそうなほどの反動が発生する銃を、彼女は難なく扱える。

 それは恐らく――彼女が人工的に作り出された天性の戦士であるが故だろう。

『アーカーシャ』プロジェクトでは薬物を用いたり、物理的な施術で人間の肉体を改造し、あるいは内側に『モノ』を埋め込む事もある。

 とはいえ迎田茜は極めてナチュラルな肉体で、成人男性を大きく超える身体能力を誇っている。

 それはもしかしたら怪物と扱われるかもしれないものだった。

 だから戦士としておおよそ年頃の女の子とは比較にならないような身体能力を持っている『プライド』学科の中でも、特に彼女は浮いている。

 いや、本人が望んで浮いているのだろうか?

 彼女は自身の特徴に対して自覚的であり、だからこそそんな自分がこの場所にいても良いのかと懐疑的であった。

 だけど、だけどだ。


「……」


 彼女の素は、あくまで年頃の女の子であり。

 笑顔を浮かべて笑い合いたいと思っている事は、間違いないのだ。

 だけど、出来ない。

 笑えない。

 笑ったら、人間との距離が縮まってしまうから。

 そうしたら、自分がその人を傷つけてしまうかもしれないから。

 だから、笑わない。


 ……そう言う意味で、何故自分はこの場所喫茶店『猫の夢』では笑えているのかについては、


(どうしてだろう……?)


 分からなかった。

 安心する場所である事は変わりない。

 ここでは自分が力を振るう必要がなく、だから自然と笑えるのだろうか?

 いやでも、無理に笑ったりはしない。

 店長――岸波さんがいる時、必要最低限笑っている。

 我ながら省エネな奴だなと思ったけど。


「うーん……」


 学園の寮で悩む。

 ……悩んでも答えは出てくる事は、ない。

 だからしばし悩んだのち、彼女は気分転換に寮の外に出る事にする。

 散歩の時間だ。

 気配を消して誰とも出会わないように足音を消し、こっそりと。

 そして外に出て初めて「んー」と気を抜く。

 さて、どこに行こうか。

 と言っても、行くところは1か所しかないかもしれない。


「猫の夢」へだ。


 そんな訳で行き先は決まり、そこへ向かって歩き出す彼女だったが。



 ………………



「……」


 彼女の鋭い嗅覚が、どこからか火薬の匂いが漂ってくるのを感じる。

 一体、なんだ?

 もしかして向風学園の戦士――通称ヘイローが戦っているのだろうか?

 いやでも、そういった情報は伝わってきていない……


 茜は上着に隠してある銃『ブラスト』を確認し、再び気配を消して匂いの元を探す。

 幸い、匂いの元は近くにあったのか、そちらに進めば進むほど匂いは強くなる――


 そしてそれは、近くにある小型の公園にあった。



「――!!!!」


 一人の少女が、『アンノウン』に襲われていた。

 覆い被さるように『アンノウン』が黒髪の少女の上に乗っかっている。

 それに対し少女は藻掻いてそれから脱しようとするような仕草を取っていた。


「……っ!」


 茜は素早く銃を取り出して『アンノウン』を攻撃する。


 ターン、ターン、ターン。


 サイレンサーで消音されているが、それでも結構な銃声音が響き渡る。

 元々弱い奴だったのか、はたまた弱っている奴だったのか、装填されている弾丸をすべて吐き出すころには『アンノウン』は実体を保っていられなくなり、消滅する。

 茜は急いで少女の元へと急ぐ。

 

「……」


 意識は、ない。

 ただ、それよりも気になるところがあった。


「これ……」


 彼女のネクタイに付けられたバッジ。

 それは学校の授業で習った『プレデター』のマークが記されていて――






























 からん、ころん。


「店長、ちょっと理由を聞かないで、兎に角この子を匿ってくれない!?」

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