最後の異世界物語ー剣の姫と雷の英雄ー

天沢壱成

第1話 最後の異世界物語

その昔、世界に災厄をもたらした〈魔神〉と呼ばれる■■■がおりました。

 

 その昔、〈魔神〉を倒した〈光是アラ・の六柱セスタ〉と呼ばれる神様たちがおりました。


 その昔、その戦いを『薨魔こうまの祭礼さいれい』と言いました。


 その昔、神様たちは人間に『魔法』という力を与えました。


 きっと、今これを読んでいる『あなた』たちは笑いながら「そんなことあるわけない」と思っていることでしょう。


 多分、いいえきっとそれが正しい感性というものです。

 

 でも、この『物語』は嘘でも夢でもありません。

 

 あの時、あの瞬間に、この『物語』は確かにあって、「あたし」はみんなと一緒に生きたんです。


 だから、どうか信じてください。

 

 これからお話するのは、「あたし」の『異世界物語』。


 「あたし」の……「あたしたち」の。


 

 ––––最後の異世界物語です。



♦︎♢♦︎♢♦︎♢


 

 ーー恐怖はなかった。

 

 それがプラットホームから突き飛ばされた、一六才の少女、紗空さくらあか音が抱いた感情だった。


 いつも通り、行きたくない学校に行こうとして。

 電車を待っていたら、途端に背中に軽い衝撃があって、時間が遅くなる感覚の中、首だけ動かし後ろを見てみれば、ボロボロのローブに、深くフードを被ったヒトが、両手を突き出したまま立っていた。


 ーーあぁ、この人が、あたしを。


 不思議と、恐怖もなければ怒りもなくて、ただ純粋な感謝があった。

 やっとこんな世界から抜け出せると。

 やっと楽になれると。


 時間が元に戻る気配がした。 

 ローブのヒトから目を離せば、すぐ近くに鉄の塊がーー電車が迫っていて、もうすぐ死ねると思う。


 けれど、何故か少女の『魂』はこの時焦燥感と虚しさに支配されて、なんでもいいからこのヒトに何かを言わなくちゃいけない使命感が胸を焦がした。


 そして、永遠の刹那に。

 時間が戻るその前に。


 「ーー大丈夫」


 それしかないと思ったから。

 まるで宣戦布告のように、その言葉を残して。


 ーー紗空さくらあか音は目を瞑り。


 ーー時計の針が一つ動いて、鉄の塊が役目を思い出して少女を呑み込んだ。

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