とりとめなし
山野 終太郎
第1話 なんじゃそりゃ
2024.11.18
2か月ぐらい前に人間ドッグに行ったところ、C判定の付く項目がいくつかあり、現在、部位順に精密検査をして、それらに対応しているところです。私は前立腺がんあり~の、糖尿あり~の、骨粗しょう症あり~ので、病院通いが多いのですが、その上に精密検査を受け、順にC判定をしらみつぶししていく内、もし、これで本当に問題があったりすると、毎週病院行かないといけなくなり、困ったものです。本人至って元気で、高齢性遊び盛りなだけに、「一病息災ではなく多病息災ですねん」とでも嘯きながら、病院の待合室で笑っているしかない。
とにかく一番危なそうで、早く対応した方が良いと言われたのが、心電図の異常から診断された『虚血性心筋症』の疑いです。主治医の先生も「早く行った方がよろしいですよ」なんて言うものだから、まったく自覚症状が無いけれども、再度、循環器専門の別の病院で心電図をとった。おそらく計測ミスなのではと思っていましたが、また同じ結果になり、「疑いはある」と言われてしまいました。いやいやこれは困ったことになって来たぞ。これから年末、年始にかけて、たくさんコンサートや観劇の予約をしているのに、キャンセルしなきゃならないなんてことになったら嫌だなぁ。いっそ、精密検査するの止めようかと思った。それでも、心臓周りの血管の問題なので、急に心筋梗塞とか冠状動脈破裂なんてことになると家族にも迷惑かけるし、良くないと思い、覚悟して造影剤による心筋シンチグラフィーや冠動脈CTをやることになりました。
そして、先日のことでありますが、その診断結果が出ました。医者は心筋症の専門家です。診察室に入ると、じっとPCのディスプレイに写る画像を深刻そうな顔をして覗き込んで黙っています。あまりに沈黙が長かったので、せっかちな私は思わず聞いてしまった。「どこか詰まってますか」。そうすると、先生は即座に応えてきた。
『いや、切れそうです』
一瞬ドキッとした。血の気が引いた。指先が震えた。漫画で言うところの額から頬にかけてザーザーと線が入った感じだ。言葉が出ない。詰まっているぐらいなら薬で溶かす方法もあるのではと思い、こちらとしては軽めの症状であってほしいという思いでした質問だったのに、そんな「切れそうだ」なんて、よくも心を打ち砕くような言葉を発っせられたもんだ。優秀な先生なのかもしれませんが、あたまに「あまり良くないですね・・・」とか「少し問題かもしれませんね・・・」とか、オブラートに包むような言い方があるんじゃないのと思いながら、「入院ですか?」、「手術ですか?」と立て続けに聞くと、先生、ようやくそこで私の勘違いを理解したのでしょう。笑いながら、「いやいや、綺麗ですよ。あなたの歳だともう少し危ない状態もいくつか見つかるものなんですが、結構、綺麗ですよ。いや、これはゆうしゅう~優秀、綺麗ですよ」
『なんじゃそりゃあ』と松田優作のジーパン刑事の「なんじゃこりゃあ」のトーン張りで叫びたいほどに今度は安堵の波が押し返して来た。「切れそう」ではなく「綺麗そう」だった訳です。先生が「い」を抜いた言葉を使ったのか、私が爺耳で「い」が聞き取れなかっのかは分からないが、とにかく30秒程度の会話の中で、心はどん底から天国まで上り詰めた訳で、これが一番心臓に悪いんじゃないかなと思った程です。心電図の結果は何だったのかは分からないままだが、まぁ、とりあえず良かった良かった。また遊び捲くれそうです。
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