第3話 授けの儀式
飛び出す勢いで、大神官の前に向かったオグル。
その待ち切れない様子に、ナインとティントは苦笑する。
そういう2人も興奮度はどっこいどっこいなのだけども。
「よろしくお願いします!」
「元気がよろしいですね。では、両手を神の手にどうぞ」
大神官の促しに、オグルが神の両手の親指をガッと握りしめる。
太すぎて指は回らないが、渾身の力を込めているのは見てとれた。
がに股で押し込めようとでもするその姿に、周りの大人たちが微笑ましい視線を送っている。
「あんなに力いっぱい握らなくてもいいような……」
「神様の指、折れないかな~」
「そうなったら恐いなぁ」
顔を真赤にしたオグルがはっと開眼したタイミングで、大神官が声をかけた。
「『スキル』は授けられましたか?」
「ろ、『ろくろ回し』デス!」
「『ろくろ回し』───陶芸の才ですね。どなたか教えてくれそうな人がまわりにいらっしゃいますか?」
「とーげー?」
「土で食器など器を作ることですね」
「あ、オジさんがそんなのをやってる!」
「それは良かったですね。仕事を選ぶ時は、そのおじさんに相談にのってもらうと良いでしょう」
「ハイ!ありがとうございました!!」
喜色満面でこちらに戻って来るオグルは、鍛冶屋ではなかったものの、物を創る『スキル』を得られて大満足のようだ。
ナインも我がことのように嬉しく思う。
良かったねと肩を叩きあったティントだが、自分の番だと気づくと、両手両足を同じ側で出す変な歩き方で前へと向かった。
緊張が過ぎて混乱しているらしい。
大神官に言われて、神の手の人差し指にちょこんと震える両手をのせたティント。
しばらくしてビクッと体を震わせたので、見ていたナインも思わずビクッとなる。
ティントはゆっくり目を開けると、きょとんとした顔で首をひねった。
「なにかありましたか?『スキル』がわからなかったとか?」
「い、いえ、聞こえたんですけど~、『楽師』っていうのは~?」
「『楽師』は、楽器を弾く才です。なにか音楽に関するお仕事をされている人はいらっしゃいますか?」
「い、いいえ~。全然いないです~。どうしよう~」
「そうですか。それでしたら、帰りにあちらにいる神官に声をかけてください。神殿では使っていない楽器もありますし、楽師もいるので楽器の演奏を教えることもできますよ」
「ああ、そうですか~。ありがとうございます~!」
なんだかわけがわからないままの顔で戻ってきたティントに、ナインとオグルはなんと声をかけて良いのかわからず困惑するしかない。
耳馴染みのない『スキル』は想像力がうまく働かないのだからして。
「楽師ってアレか?祭りの時とかに、楽器で盛り上げるヤツだよな?」
「そうだね。あんまり知り合いにはいないかな? いや、全然いないかな?」
「そうだよね~、ボクにそんな才能があるなんて信じられないよ~。どうしよう~」
「ま、なるようになるさ! だって『スキル』だからな! だいじょうぶだぜ!」
「うん、そうだね、ダイジョウブダヨ」
「なんか、全然だいじょうぶじゃない気がするんだけどな~」
「ダイジョウブ、ダイジョウブ」
本当に『スキル』はなにがやってくるのか予想できない。
その事実を目の当たりにして、期待より不安がずんずん押し寄せてくるナイン。
だがしかし、前に進むしかないのである。
『スキル』は万人に与えられるものだが、稼げる『スキル』がなにがなんでも欲しい。
ゴクリとツバを飲み込んで足を前に進めるが、さっきのティントと同じ歩き方になっているのは気づいていないようだ。
「どうぞ、神の手に手を触れてください」
「……はい」
ナインは大きく深呼吸をすると、神の手の平の真ん中に手を伸ばしかけて断念した。
前かがみになって両腕を目いっぱい広げるが、どう頑張っても神の手が巨大すぎて届かないのだ。
それでも精いっぱい腕を伸ばして目を閉じる。
そして、心の中で神に語りかけた。
(神様。稼げる『スキル』をください!母さんの仕事を減らしても食べていけるように。クイナが美味しいものをいっぱい食べられるように。仕事をいっぱいするので、どうか、稼げる『スキル』をお願いします!」
強く強く念じていると、目を閉じているのに額のあたりから光が差し込んできて、眩しさが全身を覆うような感覚が広がってきた。
全身が光に包まれたと思った瞬間、男女の優しい声が降ってきて、まぶたの裏に光の文字が現れる。
『あなたのスキルは───』
「……はい?」
ナインの口から尻上がりの声が漏れた。
よくわからない『スキル』で豊かなスローライフを目指します! 天波由々 @amanamiyuyu
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