好き から ギフト
dede
第1話 お願い マドレーヌ
「お誕生日、おめでとう!」
私の部屋に入るとすぐにみーくんはそう言って隠し持っていた小さな紙包みを私に手渡した。私は感激で目が潤む。付き合ってから初めての私の誕生日で、みーくんから貰う初めてのプレゼント。嬉しくない筈がない。それはもちろん、まったく期待してなかった訳じゃないけど、だからって実際にこうやって貰うともう、なんというか。感激で上手く言葉が出てこなかった。口をパクパクしながらようやく声を絞り出す。
「……開けていい?」
「もちろん。その……あんまり大したものじゃないけど」
もどかしく思いながらも、それでも初めて貰ったプレゼントだから包装紙も丁寧に剥いでいく。この包装紙もみーくんが選んだはず。だからこれも大事に取っておくんだ。破れないように慎重に、慎重に開封した結果ようやく出てきたシンプルな紙箱。蓋を開けると、可愛らしいマドレーヌがモチーフのバレッタが入っていた。みーくんのだと一目で分かるデザインだ。
「マドレーヌ!!可愛い!!新作!?」
彼はコクリと頷く。
「もちろん。その、どうかな?」
「こんなの、私が気に入らない訳ないよ! 一生大事にするね! もぉーみーくん、めちゃ大好き大好き大好き大好き大好き、超超超超ちょー愛してるっ」
「わ。わ。ちょ、ちょっと嬉しいのは分かったから! ねえ、一旦離れて! ……その、つけたとこみせてよ?」
みーくんが、真っ赤な顔でそう懇願した。フフフ、口ではそう言っても引き剝がそうとはしないんだね、みーくん? でも確かに。私ももう少しこうしていたかったけど、このプレゼントもつけてみたい。私はみーくんの身体から離れる。
「そうだよね。うん、折角だし、早速付けよう!」
「うんうん」
「じゃ、お着替えしよっか?」
私はみーくんの衣服に手を掛けた。その私の腕を必死な形相のみーくんが両手でガシッと掴む。
「??みーくん、手が邪魔。お着替えできない」
「ボクにはフーカのその行動の意味が分からないんだけど?」
「ほら、このバレッタが似合う格好をしないと」
私は部屋のクローゼットに目を向ける。釣られてみーくんも顔を向ける。あの中には私のロリータな服がたくさん入っている事を、私もみーくんも知っている。なんだったらその中の一着を既に私は着ている。誕生日なのでお姫様チックな格好だ。そんな今の私にみーくんのバレッタを付けたらさぞ映えるだろう。でもまずみーくんに付けたい。
「えっ、ボクがつけるの!?いや、フーカがつけてよ! ボクはフーカがつけてるところが見たいんだよ!」
「でも私はコレをつけてる可愛いみーくんが見てみたいんだよー?」
「なんで!?できればすごい断りたいんだけど!」
「でも私今日、お誕生日なんだけどなー?」
と、上目遣いでお願いしてみたらしばらくしてみーくんの手から力が抜け落ちた。えへへ、みーくん大好き。
それから30分後。ドア越しに聞こえるノックの音と妹の声。
「お楽しみ中にごめんね? 今入ってもいい?」
「んー? もーいーよー」
妹は部屋に入ってくるなり周囲を見渡した。
肌ツヤの良くなった私。ぐったりと床に伏せているみーくん。そこら中に散らばっている衣服。それだけでこの場で何が起こったのか、何となく察したらしい。そんなみーくんは黒白ツートンカラーのロングスカートメイド服姿である。王道はいついかなる時でも素晴らしいからこそ王道なのだと思うの。
「お姉ちゃん、甘えるのもいいけどあんまりみーくんに迷惑掛けちゃダメだよ?」
「……加減してるもん」
「……甘えてるお姉ちゃん見てると、今でも急に吹き出しそうになるよ」
「いいじゃん、迷惑かけてないんだから」
「みーくん以外はね? お疲れ様、みーくん」
「……いや、なんてことないです」
みーくんは床に伏したまま腕を上げるとヒラヒラと手を振る。
「いやいや、お姉ちゃんのこのノリに付き合えてるのかなり凄いよ。まだ若いのに君は大した男だよ」
「どうもです」
「あげないよ?」
私はスマホのみーくんの写真を整理してた手を止める。そして顔を上げて妹に釘を刺す。
「お姉ちゃんからお義兄ちゃん取らないって。むしろ私はお姉ちゃんにあげに来たんだよ? ほら、お姉ちゃんが気になってたあの店のちょっとお高め新作ケーキ、買ってきたけど今食べる?」
「食べるー!!」
「みーくんも、どお? 甘いの平気?」
「え、いいんですか?ありがとうございます」
「いいって。じゃあ、ココで食べようか? 持ってくるからそれまでにお姉ちゃん、服片づけててよね」
「はーい」
妹はケーキを取りに行った。私は脱ぎ散らかした服を一つ一つハンガーに掛けていく。形が崩れないように気を付けないと、シルエットが命なのだから。おっとフリルが少し潰れてるところがある。私は急ぎ形を整える。
「ねえ、脱いでいい?」
みーくんはよろよろ上半身を起こすと、そう尋ねた。私は胸の前で大きくバッテンを作る。
「だーめー。今日ココにいる間はそのままでいて欲しいなー?」
「あーもー。分かった分かった、分かりましたよ。誕生日だもんね」
頭にバレッタを乗せたまま、苦い表情で自分の体を見回す。手をグーパーさせているけど袖から指先しか見えない。私のサイズだからみーくんにはだいぶブカブカ。それもみーくんが不機嫌な理由の一つみたい。
「ごめんね。ブカブカで」
「春から10cm伸びたんだ。すぐに着れなくなるよ」
「うん。それまでたくさん一緒に着ようね」
「それは、できれば断りたいかな? ボクは……」
みーくんは立ち上がると、軽くスカートを払って、皺を伸ばした。そして私に近づくと自分の髪からバレッタを外す。
そして背伸びして私の髪にバレッタをつけると、何度か頷いて満足げに笑った。
「うん、やっぱり。ボクよりフーカの方が断然似合う。可愛いよ」
私は冬が好きだ。私の誕生日があるから。
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