第5話

「最近、夢でさあ」

 隣でビールの空のケースに座る松本さんが唐突に言った。

「やたら、ピンクスパイダーの話をする爺さんに声をかけられるんだけど、なんかの予兆かな?」

「それは僕の講義を担当してくださっている周防教授ですね。僕の夢にもよく出てきます。でも、実際はピンクスパイダーの話は愚か、生徒と話してる所も見たことはありませんよ」

「夢って怖いねえ」

 松本さんが震える真似をする。

「ねえ、君ってこの後時間ある?」

 現在、午後九時。

「ええ、ありますよ。まあ、一人暮らしなもんで」

 さりげなくアピールすると、松本さんは乗ってきた。

「じゃあ、君のうちに行こうかな」


「ああ、またやっちゃったよ」

 夢から目覚めると、下着がぐっしょりと濡れていた。私はパンツを洗濯する事にした。洗濯を待っている間、ぼーっと本棚を眺めていると、買った覚えのない本が並んでいた。

「『夢の名残りを』? こんな本買ったっけ?」

 とりあえず中身を読んでみる。


 ※


 これは夢である。だから何をしていいという訳ではないのだが、この空間が私の頭の中で起きていることであることは理解して頂きたい。

 どんな奇想天外なことが起きても、それは夢という名のもとに直ちに許されるものである。


 さて。


 私はいま高いマンションの屋上から飛び降りている最中だ。飛び降りようとしているのではない。もうすでに飛び降りているのだ。

 心配しなくても良い。これは夢なのだから。今から記憶を辿ることになるのだが、どうしても記憶というものは上手く整理できないもので、時系列というのは割と曖昧になりやすい。それを踏まえて、これを読んで欲しい。


 では、旅を始めよう。


 ※

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