拙い私
文乃 かぼす
第1話
深夜テンションでこんなものを世に上げてしまうくらいには私は焦っていた。
小説などという大層なものを世に上げたことはないし漠然とした憧れを持つだけであった。幼い頃は小説家になりたかった。がしかし、凡人というものは実行に起こせずこのまま夢を見続け流されるままに生きていく者のだ。否、流される先は自分で決めた道よりも高く激しく厳しいものかもしれぬ。だが示された道を行くのは楽なものだ。私は自分の決断は自分の支配下にあるものだと思い込んでおり、いずれは歴史に残るようなビックスターになれると思っていたのである。しかしこのまま行くとビックスターはおろか周囲の目を気にする社畜まっしぐらであり、残りが良ければ1000年後に一般人の白骨遺体として教科書に載るのみかもしれぬ。現在は火葬であるため白骨遺体すら残らず私の生きた痕跡はこの世から消えるのだ。
そんなものはごめんだと思い、こうやって慣れないキーボードを打っている。物は試しだ。出さないよりも出したほうが良い。なら日記帳ではなくここに書き記そう。
私の人生はエンタメ性があるとともに少しに重い。だがネットニュースになるほどには話題性は無く、けなげに生きていれば同情を貰える程度なのではないかと思う。
お金に困る人生ではないが愛に関して歪んだ認知を持っているといえよう。小学生の私は明るいクラスのムードメーカーであった。しかし学校後に行く学童では5年生の時から転校してきた同級の男子生徒から殴られていた。先生方はそれを見て見ぬふりをした。また学童の子供とは折り合いが悪く仲はあまり良くなかった。習い事は週6でしており、学校→学童→習い事→家の毎日だった。住んでいたのが田舎なので、習い事先はバスを乗り継いでいき、ついた先は知り合いはおらず窮屈だった。しかしその頃、母に逆らうという発想はなかった。少しでも辞めたいと言うととても怖い顔をするからだ。だから6年間、週6で通い続けた。家に帰ったら母の仕事が終わる8時まで一人テレビを見ながら母の帰りを待った。私の家にはゲームがなかった。母は帰ってくるといつもおいしいご飯を作ってくれた。私はとてもうれしかったけどそれは母親という義務からのようにも思えた。
中学生になり、単身赴任で私が小学校に上がる前から海外に行っていた父と家族三人で暮らすようになる。父は私にパソコンをくれた。父は気に入らないことがあると話して分からない奴には暴力しかないという野蛮な考え方から暴力をふるった。その拳がどこに当たるか気にすることもなく、あるいは意図的に…だろうか。父は母より帰りが遅くいつも湯気で曇ったサランラップのされた夕飯が机に置かれていた。父が遅いのは母より父の方が忙しいからだと思っていた。
学童以外では関わりが無かったのでその男子生徒とは疎遠になった。部活にも入部し中々充実した学校生活を送り高校は地元で有名な少し離れた私立の進学校に合格した。
高校を上がると同時に前々から母の希望であった、母の職場の通いやすさと私の通学時間の観点から少し都市の方へ引っ越した。それと同時にだんだん父がいない日が増え、高校1年の冬には帰ってこなくなった。他に女を作っており、家が近くなった為、入れ込んでしまったのだ。
それと共に母が鬱になった。私に、男の子が欲しかったと言ってみたり、私も海外に赴任したかったと言ったりした。もっと夫が子供を見てくれるような人だったらと言った。父は歪んだ父親像を持っていたように思う。暴力、女遊びが許されるのが昭和の亭主だが家族を守るのが昭和の亭主だ。それが出来ないのはブレブレである。最後に父は言い訳のように自分の父よりはましだと言った。母は鬱を治すためフラット何週間か旅行に行くことが増えた。そして帰ってきて少し経つと布団に閉じこもり1日中出てこなかったりした。下校後、私は寝室に行き母の話を聞いた。母がそう求めたからだ。母が母の母の前で話しているときのようにしてと。私は身の回りのことを自分でするようになった。料理も上手くなった。私はお金に困ったことがない。それは母の稼ぎのおかげでありありがたいことだ。
高校は家庭のごたごたと友人関係がうまくいかずふさぎ込んでいた。成績もいつもびり穴で、今までの充実していた学校生活ともあいまり、劣等感で穿った見方が染みついた高校時代だった。そんな時、隣のクラスの男の子と合同授業で隣の席になり知り合う。喋り方や雰囲気からおんなじ所が欠けている気がして痛々しくて好きになった。すれ違うだけで幸せで目が合ったらもっと幸せで、ラインで一晩中話せたときには有頂天だった。しかし彼は私の告白の返事に首を縦に振ってはくれなかった。
そんな時、中学時代の男友達に会う。一緒に帰っていると懐かしくて話が弾んだ。互いの家の最寄り駅に着き、電車から降り、商店街を歩く。商店街から外れ、人気のない住宅街に入る。中学卒業して色々あって辛いという話をしたら、じゃあ楽にしてあげようかといわれた。瞬間、私の首に彼の指が巻き付いた。指はどんどん締まっていき、呼吸が苦しくなる。このまま殺されれば楽だと思う。しかし心とは反対に体はじたばたと抵抗していた。彼は手を離した。彼は、俺、君のことが好きだったんだと言う。私は今日はありがとう、と笑顔を作りその場を後にした。混乱していてどうすればよいか分からなかった。
隣のクラスの男の子とはもうすぐ3年になる。一度、学校で孤立する私に関わらないほうがいいんじゃないと言ったら、そんな事関係ないよと言ってくれた。私はその時、彼にもう一度好きだと言った。彼は首を横に振った。
振り向いてくれない男の子はどうして私と深夜までラインするのだろう。どうして二人きりでカラオケに行ったりするのだろう。
私には正しい愛が分からない。愛してくれない人間を愛する時間は無駄かもしれない。けど、愛してくれるから愛するより、誰かを盲目的に愛するほうが打算的ではない。父の愛し方も母の愛し方も、不器用で普通じゃない。だから、私は自分の為においしい料理を作る。そしてビックスターになり多くの人に愛され、愛し方を知るのだ。
拙い私 文乃 かぼす @Humino_Kabosu
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