勇者パーティを追放された地味職【錬金術師】、実は伝説級チートだったので、辺境で最強国家を築いて世界を牛耳る!
赤緑下坂青
第1話 追放の始まり
リュミナ王国の王都は、白亜の城壁に護られ、広場には光が満ちていた。そこに集まる人々は皆、笑顔を称え、世界の平和を背負う“勇者リオネル”とその仲間たちを讃えている。彼らの凱旋を待ち望む観衆が日の出から集まり、華やかな衣装と声援で賑わう。その中央には、王城から続く大理石の大階段があり、これから勇者一行の報告式典が行われるところだった。
だが、そこで行われていた光景は、思い描く祝賀とは似ても似つかない。
群衆が微妙な沈黙に包まれる中、大階段の上で、アレンは膝を突かせられていた。勇者リオネルが彼の襟元を掴み、冷酷な眼差しを突き刺している。周囲には高位の貴族、兵士、そしてアレンと行動を共にしてきた勇者パーティーの仲間たちが並んでいた。
「この役立たずがっ!」
リオネルの声は、城壁に反響するほどの怒気を孕んでいる。ひと際豪奢なマントを揺らしながら、彼はアレンを睨みつけた。
「貴様が用意したポーションは粗悪品だ! おかげで我々は魔王軍との交戦で危うく命を落とすところだった!」
アレンは泥まみれのローブを掴まれながら、必死に言い返そうと唇を動かす。
「お、俺は限られた材料で最善を――」
「黙れ!」
リオネルはアレンの言葉を力ずくで断ち切った。その横では聖女エリスが鼻先で笑う。透き通るような白い手で黄金の髪を掻き上げながら、傲慢な声で言い放つ。
「あなたみたいな錬金術師、いなくても同じよ。私たちにはもっと優秀な職人が必要だわ。ポーションが弱いせいで回復も間に合わなかったのよ?」
さらに剣士ガロードは、鋭い眼光でアレンを見下ろし、硬い皮靴の先でアレンの肩口を軽く蹴った。
「そうだ、貴様の不出来な薬で剣は鈍り、盾は砕かれた。仲間が血を流している横で、お前は何をしていた? 下らない調合に手間取っていたのか?」
魔法使いミレーユは髪先を弄びながら、嘲るような微笑を浮かべる。
「どんなに頑張ったと言い張っても、結果がこれじゃ意味ないのよ。まるでハズレの道具箱ね」
このやりとりを興味深そうに見つめているのは、周囲に控える貴族や観衆たちだった。最初は何が起きているのか分からなかった民衆も、勇者とその仲間たちが一人の男を糾弾していることに気づくと、ひそひそと囁き合う。
「あれ、勇者様の仲間じゃないのか?」
「どうやら足手まといだったらしいな」
アレンは苦い息を呑む。長い間、後方支援に徹し、深夜まで薬を調合し、剣を補修し、毒消し薬を作り……献身してきた。それがすべて無視され、今日この場で身勝手な断罪が下されるとは。
「お、お願いです、せめて聞いてくれ……あの時、材料が足りなくて、幾度も魔物の棲み処に潜って――」
「うるさいと言っている!」
リオネルはそのままアレンの襟首を掴んだ手を強く振り払い、アレンの体が石段に投げ出される。頬が石に擦れ、痛みが走る。屈辱的な熱がこみあげる中、悲哀が込み上げるが、それでも歯を食いしばるしかない。
「アレン、貴様のような役立たずは、このパーティーに要らぬ!」
リオネルが城壁を背に宣言する。それはまるで、この国全てを代表した声のように響いた。
「ここに宣言する! 貴様を、勇者パーティーから追放する! 今後、我らと行動を共にすることは断じて許さない!」
その瞬間、広場は奇妙なざわめきに包まれる。観衆の中には同情の色を浮かべる者も僅かにいたが、恐らくは少数派だ。なぜなら勇者リオネルは、この国では絶対的なヒーローである。彼が「不要」と言えば、それは真実とされる。
エリスが小さく嘆息し、首を振った。「最初から無理だったのよ。錬金術師なんて地味職、私たちには不釣り合い」
ガロードは腕を組み、無視を決め込むが、その瞳には侮蔑がある。ミレーユはあくびを噛み殺しながら、「早く終わらせましょうよ、こんな茶番」と呟く。
アレンは石段に手をついて立ち上がる。周りは憧れや歓声で満ちていたはずの王都。けれど今、耳に入るのは冷笑と薄ら笑い、哀れむようなため息ばかり。
「……わかりました」
やっとの思いで搾り出した声は、掠れていた。言い返す術はない。歪んだ正義と有無を言わぬ権威によって、彼の言葉はことごとく踏み潰されている。
「即刻、この城から、そして王都から立ち去れ。貴様の居場所は、もうどこにもない。」
リオネルが詰め寄ると、護衛兵たちがアレンを取り囲む。刺激的なまでに分厚い嘲笑が空気を包む。
背中を押され、よろめくアレンを見て、何人かの観衆がクスクスと笑った。
まるで商品の不良品を廃棄するかのような扱いだった。これまで必死に支えた戦いも、流した汗も、一顧だにされない。
アレンは唇を噛み、俯く。その拳は震えていたが、涙は出ない。怒りなのか、悲哀なのか、もはや何も分からない。ただ心が冷えていく。
「……もう二度と、我々の前に姿を見せるな。二度とな。」
リオネルの最後通告を背中で受けながら、アレンは護衛兵たちに押され、王都の大通りを追い立てられた。人々は左右に避け、誰も助けようとはしない。ほんの少し前まで勇者一行の一員として誇りに思っていた立場が、今や汚泥にまみれた囚人と同様だ。
やがて王都の門が見える。その外側には誰もが避ける不毛の辺境が広がっていると聞く。アレンは振り返らなかった。振り返っても、そこには残酷な笑みと嘲笑ばかりなのは明らかだったからだ。
こうして、光輝く勇者の影で支え続けた地味職の錬金術師は、見世物のように屈辱的な追放劇を受け、王都を離れる。
しかし、この瞬間、彼を見下す者たちが知る由もなかった。辺境の地でアレンが出会う“秘宝”が、後に世界を揺るがす大きな変革を齎すことを――。
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