六識探偵異形
@miyks
6月29日①
お母さんの血がべっとりついたランドセルを抱きしめながら、鯉をながめていた。
川で血を洗い流そうかなと思ったけど、鯉はきれいな川でしか息ができないと聞いたことがあったのでやめとこう、お母さんの血はわたしと同じように汚れているから。
このランドセルはお母さんを殺したひとがくれたもので、わたしはそのひとに手を引かれこの古い城下町にやってきた。
珍しい髪の色をしていて、わたしを初めて抱きしめてくれたし、そのひとの腕の中はすごく安心するから嫌いじゃなかったんだけど、わたしが寝てるあいだにどこかに行ってしまった。
あんなに一緒にいたいって言ってくれたのに。
「嘘つき……」
鯉をながめるのも飽きたので髪の毛をくるくるさせて遊んでいると、空気がぴきぴきと割れて友達のもくずがでてきた。わたしの友達はいつもこうやって会いに来る。
もずくはお母さんみたいにわたしが喋れないことをなじらないけど、あのひとみたいに抱きしめてはくれないからすこし物足りない。今日は機嫌があまり良くないようで、6つある目から涙を流していてる。
あのひとの瞳の方が綺麗だなとか考えていたせいか、人が近づいてきたことに気が付かなかった。
「ねえ」
慌ててもずくを帰して振り返ると、膝の上まで丈のあるブーツを履いている背の高い女の人と目が合った。
淡い灰色の髪の毛を肩まで伸ばし、首には高級そうなカメラがかけてある。
あわあわしているわたしを見た彼女は、くすりと笑うとわたしの隣に腰掛け、顔を覗き込んできた。
「ねーーえ」
顔が、近い。お母さんが月並みだと言っていた表現が頭によぎる。
あれだ、まつ毛が長いんだ。
「今の異形あなたが元のとこにかえしたの?」
違うといえば帰ってくれるのだろうか。
「ねーーーえ、聞いてるの?」
うつむいているわたしに追撃をやめない彼女にわたしは観念して口を開くことにした。
「う、うるさい……人間」
彼女はぽかんとしている。
当然だ、わたしが伝えたかった言葉は一つも伝わらなかっただろうから。
震えている足に力を入れて立ち上がり、彼女に背を向け歩き出した。あの人が戻ってくることを期待してたけど、もういいや。
わたしが何を言っても理解してくれず、蔑むような視線を浴びせてきたお母さんを思い出す。もうこれ以上、人に失望されたくない。
「ちょっと!話はまだ終わってないよ!」
うるさい。
「ねぇってば!」
うるさい。うるさい。
「私は
うるさ……
「やっと止まってくれた!」
何で今、わたしの言葉に――
「ん?どしたの?」
「何で…」
「うん?」
「何でわたしの言葉がわかるの…?」
「何でって……あぁ、君もあの子達と一緒なんだね。ふふふふ、聞いて驚くな!私は君たちの言葉が分かるんだよ!」
――鯉が大きく跳ねた、気がした。
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