塩味が消えた日
牛蒡飴
第1話
塩味が消えた。突然、舌が塩っ気をまるっきり無視してしまった。それは彼女のバースデイだった。その日にセッティングしたディナーはどれも粘土のように食感も悪く俺は目の前で吐いた。彼女は怯えていた。
俺はその日から食事を楽しむことができなくなった。カツカレー、ラーメン、焼肉、餃子etc。
ただの味のないものが如何に苦痛しか生まないか想像がつかないだろう。俺は塩を丸々ラーメンに入れた。味のないそれはジャリジャリの砂を連想させただ俺の体を苦しめただけだった。
病院に行ったがなんの成果も得られなかった。
与えられたくすりはただの気休めだった。
医師が俺をみる目は気持ち悪さが篭っていた。
俺はありったけの罵詈雑言を投げかけた。
その時に出た涙もただの水だった。
彼女はそんな俺を見て避けていった。
友人から彼女の気持ち悪いというありがたい言葉を承った。
俺は、絶望した。
食事だけが俺の楽しみだった。子供の時から、
ガリガリに痩せていく体が、より俺の絶望を加速させた。
しょうがなくゼリーを食べた。
生きるための最低限の抵抗だった。
そんな日が続いた時、ふと手を切った。
血がボタっと落ちてシーツに染み込む。
ふと俺はうまそうだと感じた。
俺はシーツをレロっと舐めた。
ドーパミンが頭の中で爆発した。
塩が、そこにはあった。俺は切れた手を齧った。ぎゅむと肉がしごかれると血が、いや塩味がついたレバーのような濃厚さを感じることができた。だが、痩せ細った体からはそれを堪能する量は得られなかった。
どうしたらもっと血を飲める?
答えは、めにみるまでもなく明らかだった。
「ちゃんとお別れをしたい」
俺は。
俺は。
俺は。
レバニラ、唐揚げ、ハツ、角煮、生姜焼き、リブステーキ、タン煮込み、ステーキ、すき焼き、ユッケ、ポトフ、コンソメ、ラーメン。
味付けは要らなかった。
ご馳走様でした。
塩味が消えた日 牛蒡飴 @GobouAme
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