おとぎばなし

こま

おとぎばなし

 しんしんと雪が降るある寒い冬のこと、

 ある家では子どもとおばあちゃんがこたつに入りながらお話をしていました。


「ねね、おばあちゃん、読み聞かせして!」


「うーん、読み聞かせはできないけどねえ、そうさねえ......一つお話でもしようかね」


「えっやった!おばあちゃん、はやくはやく!」


 おばあちゃんはよっこらせ、と言いながら

 ホットミルクを食卓から取って来て、

 安楽椅子に腰掛けた。


「さてと......ああそうだ、お話だね、じゃあ始めようか」



 ――――――――――――――――――――



 むかしむかし、あるところに一人の男の子がいました。その男の子は、とっても真面目で、いつも辞書を持ち歩いていました。


 幼稚園ではかけっこで一番を取ったり、おうたで先生にほめられたり、また小学生になっても、漢字テストで満点を取ったり。それでいて真面目で、謙虚で優しい男の子だったので、子どもたちの間では常に注目の的でした。


 さて、そんな男の子は、中学生になっても人気者でした。部活に勉強、学校行事、さらには生徒会にまで入り、彼の日々は目まぐるしく動いていました。そんなふうに忙しくしていたある日、彼は同じクラスの女子から恋の手紙を受け取りました。


 その時、彼は初めてこの世に"恋"というヘンテコなものがあることを知りました。そしてその日、その時から彼の見える世界はガラッと変わってしまいました。


 "恋"って何だろう。そう考えているうちに、だんだんと彼女のことが気になり始めたのでした。恋愛というものを知らないから、君のことをまだ知らないから。と言って告白を断るものの、その女子はめげずにまた告白してきます。来る日も、来る日も。雨の日だって、雪の日だって。


 そうするうちに、彼はその女子のことを少しずつ、少しずつ知りたいと思うようになり始めました。やがて二人は少しずつ話すようになり、彼女が彼に一目惚れしたこと、彼を追いかけて生徒会に入ったことなど、二人で話しているうちに、彼女についていろんなことを知り、それと同時に彼はだんだんと彼女の人柄に惹かれていきました。


 そして告白回数が百回を超えたその日、ついに彼が告白を受け入れ、付き合うようになりました。付き合った理由を聞くといつも、「話している時の太陽みたいな笑顔かな」と照れくさそうに答えてくれるのでした。


 それから高校、大学、社会人になっても、二人はいつも一緒に楽しく過ごしたのでした。その男の子は今でも、結婚記念に買った鏡台の前での、女の子のお日様みたいな笑顔を覚えているそうな......



 ――――――――――――――――――――



「ま、こんなもんかね」


「へー! すごいおもしろかった!ねえねえ、もう一回もう一回!」


「はいはい、また明日話そうかね。ほれ、もう寝る時間だよ、寝る準備しようか」


「ちぇ、はーいっ」


 タタタタタ......と歯を磨くために洗面所へ

 走っていく孫の声を聞きながら、

 彼女は鏡台の前の椅子に腰掛けた。


「久しぶりに学生時代を思い出したよ、じいさんや」


 女の子は笑った。

 あの日と変わらぬ、太陽のような笑顔で。

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