星に願いを

楓衣

1段

「お母さん、大丈夫……? ご飯食べないの?」

「うん、大丈夫よ。今は空を見ようと思って色々と調査をしてるの。だからご飯食べてる時間はないの。」

「そら……?」

「空はね、私達には届かない場所にあるって言われてるの。だから見えもしないし、触れもしないの。でも、お母さんはね、絶対に空を見たいの。天井のあるこの場所には飽きちゃったのよ。」

「……お母さん、私も空見たい! なんで見えないんだろうね」

「それをどうにかするために、お母さん頑張ってるのよ。さ、陽燈はるひ。寝ましょう。もう寝る時間だからね。」

「うん、じゃあおやすみなさい! お母さん、いつか一緒に空、見ようね!」


あれから何年の月日が流れたのかな。今日は、あの会話から数日で、あっけなく逝った母の命日だ。命日と言っても、葬式などはする暇も、部屋の広さもない。空は、きっとお母さんがいたこの部屋よりもきっと大きいんだろうな。


私の住んでいる世界は、地球という惑星の、地下深くにある。どうやら地上の人間たちは、地下にはマグマやらマントルやら、そういうものがあるという迷信を抱いているらしい。でも実際はマグマもマントルも存在しない。地底にも、地上の人間と同じ、私のような人間は住んでいて、大きな国が築かれている。ただ、私たちは常に平面の世界を生きている。地球は球体だが、地底ここは常に2Dなのだ。だから、必ず行き止まりがある。

その、行き止まりの先に、地上とつながる階段があるらしい。そして、その階段を登り切った先には、地上の世界―いわゆる空―が見えるらしい。ただ、その階段は誰が作ったかも、本当に地上につながっているのかも、わからない。

だから私は、この階段を登ることにした。私の望みと、お母さんの願いを叶えに。

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星に願いを 楓衣 @himaring1111

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