ぴのこの恩返し
しゅんさ
序章:出会い
山奥の薄暗い森の中を、猟師のがらどんどんが藪を掻き分けて進む。肩に担ぐのはもはや骨董品と言ってもよい村田銃である。がらどんどんの祖父はこの銃で熊を狩った。そしてがらどんどんの父もこの銃で熊を狩った。たからがらどんどんもこの銃で熊を狩るのだ。がらどんどんが急坂を身一つで登っていると、その身の後ろ、来たほうから微かな声が耳に届いた。なんだ、何があったのか、振り返るがらどんどん。250mは離れた先だろうか、がらどんどんの確かな視力は走る女の姿を捉えた。そして、その女を追う奇怪な影、チュパカブラの姿を捉えた。この戸洞神山(とうどうかやま)はたまにこうして異界とつながり奇天烈な事態が起こることがあるのだ。
走るのに根が尽きたのか、女はいま倒れて木の根元を背にしてチュパカブラに対峙していた。がらどんどんは冷静に肩から猟銃を下ろし、その狙いを定める。
猟銃及び空気銃の所持に関する法令において、人に向けて銃を向けることは絶対の禁止である。たとえ人が獣に襲われているからと行って銃を向けてはいけない。当たったらどうするのだ。だからがらどんどんのこの行動は、ともすれば自身の銃砲所持許可を撤去されるかもしれないやってはいけない行為である。警察はとても怖いからみんなはやめるように。
では当のがらどんどんがどう思っていたかと言うと、「当たったら当たったで、まぁええか」といういい加減な気持ちで引き金を引いていた。山は自由だ。銃声が響き、弾丸は寸分の狂いもなくチュパカブラの眉間を貫いた。自分と歴戦の村田銃、250mなんぞ外すわけがないのだ。怪物は地面に倒れ、女は九死に一生を得たことに、そしてがらどんどんがいることに気がついた。手を上げて、無事を知らせてきた。
がらどんどんも、知らぬ顔で場を離れるわけにもいかないので、女の元へと坂道を降りていった。
「……撃つ前にもうちょい考えてはくれなかったのかい?」女は生肌の見える肩を見せてきた。そこには赤い筋がついていた。
「儂の弾か?走ってるときに引っかけたんじゃないか?」知らぬ顔でとぼけておいた。
女性は肩を抱えながら毒づいた。
「まぁ、助けられたんだ。文句を言ってても仕方ねぇな、ありがとよ」と女はぶっきらぼうに答えた。
がらどんどんは冷たく、肩をすくめる仕草で返した。
女性はジッと彼を睨みつけた後、ふっと笑って言った。
「アンタ、面白いね。助けてくれたお礼をするよ……家まで連れてってくれるかい?」
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