第33話ちょっとやり過ぎた

藤堂は自分の力を過信してか、ニヤニヤ笑っている。




侮られているのが見え見えで腹が立つ。




ならな。




「おらよっと」




軽く投げを放つ。




ズガァ――――――




藤堂が派手に飛んだ。




まあ、こいつは俺も古武道やっている事を知らないからな。




油断すればこうなる。




講道館柔術の黒帯・・・三段か______ でも、負ける気はしないな。




幸いここは体育館倉庫。誰かが通りかかることなんてまずない。




女の子を乱暴するにはいい場所かもしれんがな。




______誰も俺を止められないということでもあるな。




______従って。




「さあ、始めようか・・・このクズ」




俺はニッと笑うと藤堂に挑んだ。




「ちょっと油断したか。だがいい気になるな。地上でも俺の古武道は最強だ」




投げの後、クルリと身体を捻り、受け身もなく着地する藤堂。




さすが講道館柔術。俺の次元流同様、あらゆる戦闘場面を想定している。




「藤堂。お前、氷華に何しようとした?」




「決まってんだろ。犯すつもりだったのさ。口封じにな。お前、本当にちょうどいい処に来たな! わざわざ自分から来てくれるなんて傑作だ! お前、氷華に惚れてんだろ? 今、その氷華をこの場で犯してやる。指でも咥えて黙って見ていろ! そして、とびっきり情けない怨嗟の声をあげろ!! ダンジョンのパーティの時のようにな!! あの情けない顔をもう一度見せろ。ははっはっ!! おかしすぎて、笑いが止まらねぇ!?」




「へぇ? 俺の氷華をどうするんだって?」




そう言うと、俺は素早く藤堂の懐に入る。




「な! に!?」




藤堂の右腕は俺の手によって、押さえられていた。




「貴様、ダンジョン産の魔道具でも手に入れたか? だがなぁ、たかがFランクの低スペックのお前が、支援職のお前がぁ、期待の新星、一閃の剣 のリーダーの俺の腕を組み伏せる事ができるとでも思ったのか? 俺はあの藤堂だぞ!!」




そう言い終わった瞬間、




「や、やめて、やだ、やめ――――い、いだい゛……ちぐしょう、おまえっ! あぐっ、いだい゛よぉ……あぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」




情けない声をあげるな、藤堂。




「もう一度聞く、俺の氷華をどうしようとしてたんだ?」




「そ、そんな馬鹿な!? 俺の講道館柔術三段だぞ? 三段なんだぞ!? 一閃の剣 のリーダーなんだぞ! こんな馬鹿な事がある訳がない! そうだ! お前、金にモノを言わせて魔道具でズルをしているのだろう? そうだろう?」




ため息が出そうだ・・・何故この種の人間はただ自分が弱いだけだという事がわからない? ダンジョン産の魔道具なんて買える高校生がいるか。例え、魔道具だったとしても、地上では大して効果を発揮しない。何より質問に位答えて欲しい。




「お前は氷華を乱暴するつもりだったんだな?」




「ひっ、ひっ、ひぃぃぃぃぃいぃぃ!」




藤堂は失禁をしていた。ぼたぼたと汚らわしい小水が漏れ出る。




「伊織、その通りよ。こいつら例の事件の真相をべらべらとあたしに喋ったから、口封じにあたしを・・・」




氷華が事実を教えてくれた。俺はもう我慢する事ができなかった。




「・・・氷華が汚れるだろう!」




次の瞬間、藤堂の体は突然宙に舞った!




ズカン!! と凄まじい音と共に、藤堂の身体がねじれて後に吹っ飛んだ。跳び箱の破片を巻き散らし、盛大に破壊音がした。




俺、こんな力あったっけ? とても人が起こした現象とは思えない。俺がただ、藤堂を振り払っただけの行為で、コイツの身体は跳び箱置き場に叩きつけられた。




木の破片と埃が舞い上がり、火山の噴火の様な様相。




そして制裁を始めた。俺は藤堂の顔面に拳をめり込ませた。




「ひっ……!? ひぐっ、ふぐっ……!」




「これは氷華の分」




俺は更に藤堂を殴った。怒りに我を忘れ、藤堂の顔面から血しぶきを巻きあげながら。




藤堂の端正に整っていた顔は、見るも無残な姿になっていた。




ボコボコの顔面は見るに堪えない様相になった。




「や、止めてぇ、しゃめてくださいぃぃ」




藤堂が涙を流して地面をのた打ち回るその姿は、人を見下し、上位の存在であることに何の疑問も持たず、傲慢をただ誇示していたモノとは思えなものだ。




「・・・これは俺の分」




ドカン!! とまた凄まじい音と共に、藤堂の身体は再び後に吹っ飛んだ。




涎や汚らしい体液を撒き散らしながら、藤堂は再び床に叩きつけられた。




「よ、よくも未来のS級探索者である俺を殴り飛ばすなんて・・・Fクラスごときがぁ! 凡人風情がぁ・・・!!」




藤堂は涙や血で顔を濡らし、鬼の様な形相だが、ついさっきまでの余裕のある力に満ちた様なものでは無く、プルプルと膝が笑っているのが見てとれた。まるで震えている小鹿のような情けなさだ。




「伊織・・・もう止めて・・・このままだと伊織の方が傷害の罪を・・・」




氷華が俺を止める。




その時、声が聞こえた。




「お前達! 何をしている!」




どうやら事態に気が付いた先生が来たよう。




その機会を藤堂は見逃さなかった。




「お、、先生・・・如月が一方的に俺に暴力を! こいつを捕えてください・・・暴力を振るう犯罪者だ!」




「如月は犯罪者などではない」




「な、何故です?」




先生は藤堂を忌々し気に見ると、




「お前のような卑怯者には呆れる、さっきからのやり取りはクラスの共有メッセージアプリにアップされている。伊織君は正当防衛だ! この恥さらし!」




「先生、俺を信じないのか? 俺はAランクで、剣の一閃のリーダーだぞ?」




先生はスマホを取り出すと。




『決まってんだろ。犯すつもりだったのさ。口封じにな。お前、本当にちょうどいい処に来たな! わざわざ自分から来てくれるなんて傑作だ! お前、氷華に惚れてんだろ? 今、その氷華をこの場で犯してやる。指でも咥えて黙って見ていろ! 』




氷華と藤堂達のやり取りが流れて来た。




「おまえ、気でもふれたか?」




「俺はAランクだぞ! 気がふれているのはお前の方だ! 探索者になれないおっさんの嫉妬かよ!」




「Aランクだろうが、エリート探索者だろうが、お前のやった事は犯罪。看過できるか!」




忌々しく言い放つ先生。




「委員長に呼ばれて、来てみてば、言われた通りの有様だ。会話の内容からすると例の殺人事件の犯人もお前のようだな。警察にも連絡するから覚悟しておけ!」




「馬鹿な! 俺は未来のS級探索者だぞ? こんな処で終わっていい人間じゃない! そんな事はあり得ない!」




顔を左右にふり、呆れる先生、氷華もううんざりの表情。




「如月。正当防衛にしても、やりすぎ。それなりの処分は覚悟しておけ・・・まあ、俺はお前を庇うがな」




先生が次々やって来た。どうやらこの騒動はここで幕引き。




「良かったのですわ。早くしないと、伊織君がやりすぎそうだったのですわ」




結奈もやって来た。




どうやら結奈が先生を呼んでくれたらしい。




俺は我に返り、少々やり過ぎた事を反省した。

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