第31話つむぎの罪

「あなた認めるのね?」




「ええ、認めるわ。だけど、あなたはそんな事を心配する必要はないわ」




「一体どういうこと? あたしに何かする気? 正気なの?」




「あら、膝が震えているわね。自分でも大体察しがついてるんでしょ? これからあなたが何されるかって事に」




「つむぎさん!」




あたしは驚いた。第三者の声。それは伊織の幼馴染、つむぎさんだった。




「どうせ今までの会話を録音でもしてたんでしょ? でも、これから起こる事を全部撮影されてもあなたはそれを学校や警察に送る事ができるかしら?」




「藤堂ってドSよ。恥ずかしい事を平気で要求してくるから覚悟するのね」




「お前だって感じてただろ? お前こそドMだろう、は」




藤堂と宮本。何なのこいつら、頭いかれているの? ここはダンジョンの中じゃない。




そんな無法が許されるとでも思っているの?




何より。




「つむぎさん。あなた正気なの? 今の話を聞いたでしょ? 伊織の無実を晴らせるのよ? なのになんであんたが藤堂の側にいるの? おかしいでしょう?」




「何をバカな事を言っているの? 私は真実の愛に目覚めたの。私と伊織の間には十年以上の歴史がある。伊織は私の内面の醜さもわかっていた上で愛してくれていた。私は気が付いたの。私達は本当に愛しあっているって・・・だからあなたみたいな泥棒猫には制裁を加えないといけないのよ!」




「何を言ってんの! 伊織の無実を晴らす方が先でしょ!」




「安心して。例え伊織が犯罪者になっても、私は見捨てはしない。献身的に彼の傍にいて、一生彼を支えてあげる。それが幼馴染で、真実の愛で結ばれた私の役目なの」




駄目だ。つむぎさんは嫉妬のあまりにおかしくなっている。




いや、これはただの嫉妬で済む訳がない。




このままじゃ、つむぎさんも犯罪者の仲間入り。




今ならまだ間に合う。




「つむぎさん。止めなさい。あなたは伊織にした事を反省していたんでしょ? あれだけ反省して、あなたはきっと変わってくれると思った。今からでも遅くない。止めてくれたらあなたは犯罪者にならなくても済むのよ」




「だから、人の心配より自分の心配でもしなさいよ。あなた甘いわよ。恥ずかしい撮影って、最後まで犯られるって事よ。それも藤堂君の監修で女の子なら自殺ものの内容よ」




「あたしは何をされても伊織の無実を晴らす! 伊織と約束したから!」




「散々凌辱されたあなたなんて、流石の伊織も相手にしないわよ。それにあなた、そんなの拡散されて生きて行ける? 自殺ものよ」




駄目だ。嫉妬のあまり狂っている。




伊織はそんな理由であたしを見限りはしない。




そんな事もわからないの?




この人は伊織の本質を全然理解していない。




むしろ、伊織はつむぎさんを完全に心の中から消し去るだろう。




あたしの事も理解していない。




例え、どんな事があっても、こんな理不尽に耐える気はない。




スマホの音声記録はクラウドに保存するようにしてある。




そこまでは気が付いていない筈。




スマホのデータを消されても警察や学校に突き出してやる。




あたしの恥ずかしい動画を拡散するならしなさい。




ええ、耐えきれなくて、自殺するかもしれない。




それでも、こんな理不尽に屈するのはあたしの矜持が許さない。




「つむぎさん。あたしはあなたには勝てないかもしれないって思っていた。心を入れ替えたあなたに、きっと伊織は心を戻すって思っていた。残念ね」




「ほら、やっぱり伊織の事狙う泥棒猫じゃないの! よくも人様のものを!」




「伊織はあたしの事を女の子としてなんて見てくれない。あたし達はつむぎさんの思っている様な関係じゃない。本当に残念ね。好きにすればいいわ。でも、絶対にこんな卑怯な脅しには屈しない。だから覚悟するのね」




「終わった後でもそんなに強気でいられるか? 宮本はどう思う?」




「私だったら、あんなの拡散されたら、即死ねるわよ。この子、わかってないのよ」




藤堂と宮本がいかれた会話で話す。




駄目だ。こいつら全員いかれている。




「さあ藤堂君。さっさと・・・いえ、たっぷりと時間をかけてこの泥棒猫を穢し尽してあげて、人様のものに手を出す馬鹿によくわからせてあげて」




つむぎさんがそう言うと、藤堂に腕を不意にねじ上げられる。




「い、痛い!」




これから犯られるんだと思うと恐怖で足がすくむ。




理不尽だ。だけど、何をされても絶対に屈したりはしない。




伊織の無実は絶対に晴らす。




例え、自分が自死を選ぶ事になっても、後悔はしない。




「へへっ、じゃあ楽しませてもらうな」




藤堂が私のスカートの中に無遠慮に手を入れて来る。




さよなら、綺麗だったあたし。




「ヤバイ、めちゃめちゃやわらか————————えぇっ!?」




そう、あたしが覚悟を決めた時。




その時、ものすごい破壊音がした。




「ば、馬鹿な!」




「な、なんでここに・・・」




「鍵はちゃんとかけた筈。なんで?」




馬鹿達が驚きを隠せない。




いや、あたしも驚きを隠せない。




「あ・・・来てくれた・・・んだ」




驚きだけじゃない。あたしは嬉しいんだ。




女の子が誰でも夢見る夢。




ピンチの時に颯爽と現れる王子様。




嬉しくてしょうがない。




だった、だって、体育用具室の扉を破壊して颯爽と登場したのは。




「話は全部聞いた。ありがとう氷華。絶対にお前に手出しなんかさせない」




そこに現れたのは伊織だった。

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