第21話幼馴染、つむぎの後悔2

「・・・つむぎ」




「え?」




俺はつむぎの後を・・・いや、つむぎがいそうな処に出向いた。




やはり校舎の屋上の冷却水塔の横に一人座り込んでいた。




別によりを戻したいとか、そう言う訳じゃない。




一応礼を言いたかったし、このまま授業をさぼるのもどうかと思って、連れ戻しに来た。




「・・・どうして? どうして私なんかを探しに来たの?」




「お礼を言いたかった。母さんの事も、俺の事も庇ってくれた。だから」




「私が何をしたのか・・・忘れたの?」




「忘れられないよ」




つむぎは黙り込んだ。しばらく沈黙が支配。でも、しばらくすると、口を開いた。




「私、如月君が足手まとい・・・て、・・・いつ死ぬかわからないから気が散ってしようがないって・・・同じなの・・・同じなの、藤堂君と」




「それはもうどうでもいい。今は母さんの事で庇ってくれた事に感謝している」




「なんでよッ! なんでそんな簡単に許せるの? 私、如月君を一方的に振って・・・藤堂君と・・・そう藤堂君と・・・私、浮気したのよ? こんなクズに情けをかけるの?」




「別に許した訳じゃない。ただ、母さんの事は信じてくれていたんだっ・・・て思って」




「如月君のお母様はいい人よ。世間で言われている様な人じゃない。私だって、それ位わかる。・・・伊織・・・あ」




つむぎはずっと如月君って他人行儀に呼んでいた。違和感しか覚えない。不思議なものだ。あれだけこっぴどく振られても、幼馴染の頃の癖で、俺もつむぎって呼び捨てにしてるし、如月君って呼ばれると、違和感しか。




「私ね、伊織とは違う世界の人間だって思ったの。Aランクの私とFランクの伊織じゃ、住む世界が違うって! どう? こんな事を聞いてもそんな顔して私の顔見れる? 私って、卑怯で、ずるくて、人を見下す最低のクズよ。・・・そんなクズに・・・優しい言葉なんてかけないでよォ。むしろ罵倒してよ! その方が罪悪感が消えるんだから!」




そう、つむぎはずるいところも卑怯な処も人を見下す事もあった。




子供の頃は無垢で天使の様な性格だった。




でも、綺麗に成長したつむぎは段々変わって行った。人を見下し、ずるく、卑怯な事を覚えて行った。でも、そこを含めても、俺はつむぎが好きだった。




「つむぎは俺の母さんがあの羽生真白だって知っていたのか?」




「中学生の時にネットの記事を偶然見つけて・・・驚いた」




「でも、信じてくれた?」




「そりゃ信じるわよ! お母様、とてもいい方よ。古いニュースなんて信じられない! 逆にあの事件は何かがおかしいって、そういう意見の人もたくさんいた。私はそっちの意見の方が信じる事ができた!」




「・・・つむぎ。俺の母さんを信じてくれたのなら、俺にとってつむぎは十分恩人なんだ。例え、彼氏彼女の関係は終わっても、それは大事にしたい」




「・・・彼氏・・・彼女・・・お、終わ・・・ああああああ!」




何故かつむぎは泣き出した。




「くぉおおおおおおのッ! バァーーーーーーカァ!!!!!!!」




大声を上げて、俺に飛び蹴りをくらわしてきたのは氷華だった。




「何すんだ? てっ言うか、お前、パンツ見えてるぞ? 意外と可愛いの履いてるんだな」




「バカバカバカァ!!!! バーカ!」




何だよ。この語彙力の無い侮辱の仕方?




「あなたねえ。七瀬さんがどんな気持ちで伊織を庇ったのか、わからないの?」




「そりゃ。正義感だろ? あんなの普通の人なら誰だっておかしいって思う」




「あんたわぁああああ そんな訳、あるかァ! どこに目をつけトンじゃ!」




「言葉悪いな・・・氷華」




氷華は何故かゼイゼイと肩で息をしていた。




「伊織君って、デリカシーがないのですわ」




氷華に続いて、委員長の結菜まで現れた。




「何故わからないのですの。七瀬さんは伊織君を振った事も、伊織君を下に見た事も後悔しているのですわ。そんな事も伝わってこないのですの? あの場にいたまともな人は皆そう思ったのですわ」




「後悔?」




「そうなのですわ。七瀬さん・・・あなた、伊織君を振った事にとても後悔してるんでしょう?」




結奈にそう言われると、つむぎは首を縦に少し頷いたかの様に見えた。




「そうよ。私は伊織の事を下に見て、自分には吊り合わない男の子だって、そう思ったの。自分はAランクで住む世界が違うって、そんな、そんな最低なクズだったのよ」




「だったでしょ? それに住む世界が違うって、藤堂君から囁かれたんでしょ? あたしも藤堂にそう言ってパーティに誘われたわよ。あのクソクズがぁ!」




「それだけじゃないのですわ。宮本さんに問い詰めたら、あの動画を拡散したのは伊織君の為だって、藤堂君がそう言っていたそうなのですわ。七瀬さん、そうなんでしょ?」




「・・・」




つむぎは黙り込んだ。多分、自分に釈明する権利が無いとか、そんな事思っているんだろな。




そういうヤツなんだ。ずるくて卑怯な処もあるけど、正義感や自己嫌悪なんてものも知ってる・・・そういう普通の女の子。




「ねえ。伊織・・・私があなたの告白を聞いた時、こんな事を思ってたの。やっと告白したかってね。中学生の頃から男の子達の私を見る目とか、色々変わって来たの。それでわかったんだ。この人達って、私の事好きになっちゃうんだぁ・・・てね。そして、伊織もやっぱりそうなんだなぁって、みんなちょろいなぁって、さ。私、そんなクズよ。伊織なら一生私を甘やかしてくれる、大事にしてくれるって、そんな打算で告白をOKしたのよ。どう? がっかりした? 私って、最低でしょう? それでも私にそんな優しい言葉がかけられる?」




「・・・知ってたよ」




「え?」




「つむぎの事はなんでもわかる。つむぎが綺麗になって、男達をいい様に扱っている事も、都合がいい様に使っている事も、自分を好きになった男を下に見ていることもね」




「う・・・そ」




つむぎは涙を流し始めた。




「私、知らない。そんな男の子、知らなかった。みんな見た目が綺麗だって、心も綺麗な人だって、中身はこんなに醜いのに、それをわかっていて? そんな人がいるなんて、知らなかったわよ!」




「俺はそれを含めて、全部好きだった。誰だって悪い処や、欠点位あるさ。知っていてもつむぎの事が好きだった」




「伊織は・・・ず、ずるい・・・! ずるいよ・・・!」




「・・・」




「なんで全部わかっていて、私のこと嫌いにならなかったの? 私は嫌いだよ! こんな中身がクズな女!! どうして! どうして伊織がこんな! なんで私の知らない男の子がここにいるのよ!! なんで他の男の子みたいに私の外面だけで好きにならないの! 私、こんな男の子! 知らなかったわよ!」




つむぎは泣き崩れた。




「まあ、七瀬さんの気持ちもわかるけどね」




「それは自分が超絶美少女だっていう自慢がいいたいのですの?」




「なんで委員長が絡んでくんのよ。それより、七瀬、伊織の言葉を聞いてどう思った? 男を蔑んできたけど、相手の側になって気持ちもわかったんじゃないの?」




「う、うん。私はバカだった。ご、ごめんなさい。い、伊織・・・わ、私」




俺の幼馴染の女の子はもっと素敵な女の子に生まれ変われると思う。




「でも、わかっているの。今の伊織は氷華さんが好きなんだよね?」




「は?」




「ちょ!」




「違いますの! 伊織君は、伊織君は!」




つむぎが突然、謎の発言をし始める。




「私のことを許して欲しいなんて虫が良すぎるね。今までありがとう。私、変われると思う。そして迷惑だと思うけど、これだけは言わせて……『好きでした』」




「・・・」




なんかとてもいい場面に思えるが、後ろでは氷華と結菜がグーパンで殴りあいの大喧嘩を始めて何もかもが台無しだった。

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