第20話藤堂からの挑戦状

「・・・つむぎ」




俺は幼馴染のつむぎの行動に驚いた。




つむぎは臆病で、優柔不断な性格。




人の間違いを指摘するなんて、らしくない。




ましてや、つい先日俺を振ったばかりのつむぎが俺を庇う様な発言をしたのは驚き。




「伊織ッ! 女にもてるからっていい気になんなよなぁ!」




「マジむかつくぜ。なんんでこんなFランクなヤツがっ! チクショウ!」




クラスメイトの男達はみな口々に俺へのヘイトを巻き散らす。




「いい気になるなよ。伊織」




「・・・藤堂」




俺に向かって真っすぐに進んで来たのは藤堂。




「姫野さん。先日もお誘いしたと思うが、俺達のパーティに入らないか?」




「お前ッ! 氷華は俺達のパーティメンバーだぞ! 堂々と引き抜きするってのか?」




「以前から誘ってたんだ。別に悪い事じゃないだろ? Fランクのお前と一緒と俺達Aランクばかりで構成された一閃の剣とじゃ段違いの条件だろ?」




「あんたバカッ? さっき、七瀬さんがパーティは壊滅状態だって言ってたでしょ? あなた達、どうせ伊織のスキルをあてにして、スキルのスロットを無駄に消費してたんでしょ? あなた達は伊織がいないと機能しない欠陥パーティなのよ。そんな処、ごめん被るわ」




氷華がおれの言いたいことを代弁してくれた。




「確かに今は伊織が抜けた穴を埋める努力が必要な状態だ。それは認めよう。だが、時間が経てば、解決する。だが、そんなFランクと一緒にいたら、いくつ命があっても足らない。悪い事は言わない。俺達のパーティに来てくれないか? 以前から誘っていたろ?」




藤堂が以前から氷華をパーティに誘っていた?




氷華はそんな事、一言も言っていなかったぞ。




「前からって、二日前に一度誘っただけでしょ? どうせ伊織が抜けた穴を埋めるのに必死であちこちあたっていただけ・・・え?」




「どうしたんだ? 氷華?」




「・・・ん。いや、ちょっと気になった事があって、でもいいの。とにかく、藤堂のパーティに入るなんてまっぴらごめんよ。そうね、どうしてもあたしに入って欲しければ、来週の全国探索者大会で、あたし達より順位が上なら考えてあげてもいいわ」




「いや、全国探索者大会は選抜は俺達一閃の剣が選抜されてる。お前らが出られる訳がないだろ?」




「それが、クラン【灼熱の蒼焔】のマスターが直々にあたし達のパーティを選抜したの。遠慮なくかかってきなさい。まあ、せいぜい頑張ることね」




氷華が勝手に勝負を決めてしまった。




関東大会予選と言っても、俺達のリーグは激戦区。




どの高校も地方から優れた人材をスカウトしているから、予選でもすでに全国レベル。




その上、アッシュ・ギルバートさんからは礼装のエクストラスキルは使用しないように言われている。




イレギュラー討伐の話はかん口令がしかれた。




少なくとも、例の天使メタトロンの件は誰がどう考えても簡単に公表できるものではないだろう。




しかし、黄泉川よみかわ 零一郎れいいちろう討伐は公表されてもおかしくない内容。




覚醒者である事も沈黙するように指示された。




全ては母さんの研究と何か関係があるのだろう。




全国大会で優勝すれば、母さんの名誉回復への突破口となるのだろう。




少なくとも、マスターの口ぶりではそうだった。




「伊織! お前、藤堂達にボコボコにされて天罰うけろや!」




「お前みたいな最低やろーの傍に姫野さんや委員長がいるなんておかしいんだッつの!」




「どうせ、弱みでも握ってるんだぜ」




「そうだ。きっと卑怯な方法で弱みを握って・・・許せねぇ! きっと藤堂がやっつけてくれるから、負けたら姫野さんとも委員長とも絶縁しろよな!」




・・・何を勝手な事を。




大会の結果と絶縁なんて関係ないだろ?




全く、氷華が変なん事言い出すからパーティ存続の危機に瀕したぜ。




それに、何が姫野さんだ。昨日まで地味眼鏡って、馬鹿にしてたのお前らだろ?




見た目がいいだけで人の呼び方まで変わるのか?




呆れたやつらだ。自覚のない無責任な加害者って、最悪だな。




「・・・藤堂。じゃ、全国大会でな。もし、運よく遭遇したら、決着をつけよう」




「ぐっ!」




藤堂が歯ぎしりするかの様に歯噛みする。




そりゃそうだろう。こいつは俺の忠告を無視して、変なスキルを取った。




スキル枠は一つ位開けた方がいいし、パーティの役割に特化した方がいい。




前衛の剣士職のこいつにはスキルスロットの空きはない。




こいつは耐久力を上げる個人スキルを持っていない。




俺のバフがないと、せっかくの筋力も敏捷力も身体が耐えきれず、すばやく、力強い攻撃なんてできる訳がない。




他のメンバーもそうだ。魔法職の宮本も、あちこち目移りして色んな攻撃魔法のスキルを取りたがって、結局デバフの魔法を入手できなくなった。




スキル枠はもう余っていない筈。魔法職としては欠陥品。




タンク役の伊勢崎も同様。タンク役に必須の盾防御のスキルを取らなかった上、治癒魔法も取らなかった。代わりに一発芸の強力なスキルを入れた。




ヒーラーの秋山は治癒魔法に特化すべきなのに、欲が出て、攻撃魔法のスキルを入れてしまった。結局、治癒魔法の最高スキルは未だに習得できていない。




もちろん、スキル枠はもういっぱい。




まともなのは・・・つむぎだけか。




つむぎは治癒に特化した理想的なスキル構成になっている。




流石に幼馴染の俺のアドバイスを聞いてくれた。




「じゃあな。ちょっと今日は用があるんでな」




「お前ッ! ほえ面かかせてやるからなッ!」




「はい、はい。わかったよ」




俺はそう言うと、授業をさぼって、例の場所に行った。

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