第12話八王子第四C級ダンジョンラスボス戦2

「アイスバレ―――『【凍てつく吹雪】発動を確認。全てのバフ、デバフが強制消去されました』




脳内に響く精霊の声。




氷華の魔法攻撃が射出される直前に【凍てつく吹雪】が発動した。




こちらの攻撃がトリガーか。




やってくれるじゃねぇか。




とんでもねぇクソ仕様。




おそらくこのボス部屋の特殊仕様だろう。




どんなにすばやく攻撃したとしても、問答無用で先にバフ、デバフを消去する【凍てつく吹雪】が必ず先に発動する。




しかも、この攻撃のクーリングタイムは次にやってくる全体攻撃魔法【氷結の波動】の後、もう一回【凍てつく吹雪】と【氷結の波動】を受けて、ようやく一分のクーリングタイムがやって来る。




MPを温存しないとあっと言う間に枯渇する。




「アイスバレット!」




【凍てつく吹雪】が発動しても攻撃を止めない氷華。




そうか、全体攻撃魔法の【氷結の波動】がやって来るまで数秒のブランクがある。




その間は攻撃しても、しなくても同じ。




氷華の個人バフも俺のかけた支援魔法バフも消えている。




ただし、継承礼装【咎人の束縛】の個人バフ、知力、魔法攻撃力20%アップは有効。




その上、俺の継承礼装【不死の咎人】のパーティバフ魔法攻撃力、魔法防御力20%アップも有効。




つまり、ステータスお化けの氷華の魔法攻撃はバフの乗った魔法攻撃と等しい。




しかも、秒間数十発の射撃速度。




(ぎゃ、ぎぎぎゃ)




ジャック・フロストが奇声を上げる。




その声色は当惑。




何が起きているのか理解できないのだろう。




バフやデバフは消去された筈。




にも拘わらずジャック・フロストに襲い掛かる魔法は十分な脅威の威力。




「今! 伊織! 行け!」




「任された!」




俺は氷華に言われるがまま、バフなしでヤツに数撃剣を振るう。




俺には継承礼装:【不死の咎人】の筋力、耐久力20%アップの個人バフ。氷華の継承礼装【咎人の束縛】のパーティスキル筋力、耐久力20%アップが盛られている。




その上、レベル120の俺はステータスお化け。




「ジャック・フロストが一歩下がった!」




「どう? 伊織の作戦と少し違うけど、この方が合理的じゃない?」




「確かにな。結菜! 防御魔法を頼む!」




「わかりましたわ」




結菜の光属性の防御魔法が展開されると同時に俺も支援の魔法耐性と個人スキルを発動する。




流石は氷華! 俺の考えの更に上を行くヤツ。




おそらく、ついさっき思いついたな。




土壇場で力を発揮するのが氷華という女。




お前、ほんとスゲーよな。




『【氷結の波動】発動を確認しました』




襲い掛かる大寒波。




氷点下ゼロ度近く下がる攻撃魔法が俺達を襲う。




結菜の光属性の防御魔法は全ての攻撃魔法を半分にしてしまう。




その上、俺の魔法耐性バフを三重にかけておいたから、HP100を削る攻撃も三分の一に威力を落としている。




それに個人バフで魔法耐性を上げたから更に半分。




六分の一程度の威力に過ぎない。




初見でないからこそだが、かなりイージーモードな展開になる。




大寒波は三十秒は続いた。




「結菜! 防御魔法のクーリングタイムは?」




「いつでもいけますの!」




「よっしゃ! 氷華、今度は俺から行く!」




「任す!」




もう、面倒だからバフもデバフも入れないで、そのままヤツに切り込む。




『【凍てつく吹雪】発動を確認。バフ、デバフが強制消去が発動。対象バフ、デバフはありません』




当然だよな!




「構うか! 喰らえ!」




「伊織、下がって!」




「了解!」




「アイスバレット!」




俺の剣戟を数撃受けた上、数十のアイスバレットを受けるジャック・フロスト。




(ぎぎゃぎゃぎゃ!)




怒りの声を上げる。




そりゃそうだろうな。




これまで一方的に痛めつけるターンにこれだけのダメージ喰らったら、当惑もするだろう。




困惑じゃないぜ。当惑だ。コイツには何が起きているのかわからないだろ?




「シールドオブライト!」




「支援魔法展開!」




『【氷結の波動】発動を確認しました』




襲い掛かる大寒波。しかし、被害は軽微そのもの。




「結菜は待機! 氷華! 俺がダメージ与えた後、止めを頼む!」




「任された!」




すかさず支援魔法のバフ、デバフを打ち込むと個人バフを盛る。




ジャック・フロストに数十撃の剣戟をたたっこむと、ヤツのHPはおそらくもう幾ばくも無い。




「やれ! 氷華」




「アイスバレット!」




バフ、デバフの乗った氷華の真のアイスバレットを数十発受けるジャック・フロスト。




こいつらが何故人間を見ると殺しにかかって来るのはわからない。




今もってその行動パターンは解明されていない。




理不尽とも言えるこいつらの人間を狩る本能は理解不能だが、本能なのだろう。




とにかく人間を見ればとりあえず殺す。




それがダンジョン内のモンスター。




犬などの動物を放ってもモンスターは襲っては来ない。




こいつらはダンジョン内のエーテルを糧としている為、食事をする必要がない。




その為、犬などの動物をダンジョン内に放っても無傷で帰還して来る。




しかし、人間と行動を共にすると、途端に攻撃対象となり、どこまでも人間を見ればとりあえず殺すという信念に間違いはない。




こいつらの本能は理不尽と言えば理不尽だが、全てのモンスターがそうならジャック・フロストが特別理不尽な存在とは言えない。




では、何が理不尽かと言うと、この攻撃パターンと、こちらが攻撃すると、問答無用で発動するバフ、デバフ強制消去の【凍てつく吹雪】を発動できるこのボス部屋の仕様。




こいつのHPはあまり高くない。




所詮は小鬼。耐久力は大した事はない。




それが三年もの間、難攻不落を誇ったのは、その弱点を全てボス部屋の特殊仕様と自身の固有スキルで克服したから。




こちらが攻撃するとバフもデバフも強制消去という理不尽。




バフが無くなった処への全体攻撃魔法。




チート中のチート。それがジャック・フロストという小さな巨人。




(キィィィィィィィィィィィィィィィィ!)




断末魔の奇声を上げるジャック・フロスト。




残念だったな。俺達のチートはお前を上回ったんだよ。




『外部よりの強制アクセスを確認。リザルトアナウンス開始を停止。外部からの強制アクセスに基づき、何者かのフィールドへの顕現のシーケンスを実行します』




な・・・に?




俺達はあまりに予想外の展開に驚愕した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る