第13話ラスボスの後の真のラスボス

『外部よりの強制アクセスを確認。リザルトアナウンス開始を停止。外部からの強制アクセスに基づき、何者かのフィールドへの顕現のシーケンスを実行します』




突然の精霊の声に驚く俺達。




そして、何者かがここ八王子第四C級ダンジョン第二十五層。




ラスボスの部屋に何かが顕現した。




「やはり不快。下界には二度と降りたくないものだな。どうにも臭い」




それは真っ白な彫刻の様に端正な男性の顔の何か。




明らかに人間じゃない。




その顔は文字通り、彫刻の様に表情がなく能面の様にただあるだけ。




喋っているのに唇は動いていない。




背中がゾクゾクする。それ程冷たい声。それ程本能的に恐怖を感じる対象。




真っ白な姿、背には翼、頭には輝く輪を備えた男。




声はどこまでも冷たく、端正に整った顔が恐怖をあおる。




「お、お前は誰だ?」




俺は恐怖に打ち勝ち、会話を試みた。




イレギュラーか?




「話す権利を与えた覚えはない。誰が許可した、こぞう」




「・・・ッ!」




何こいつ。サイコさん?




能面の様な顔をこちらに向けて凍える様な冷たい目。




こいつが俺達を同等の存在と思っていないのは明らか。




いや、同等どころか下位の存在。




人間にとっての虫以下が如く。そう思わせる声。




「私を誰だと心得る。このダンジョン世界を創造されたアリエル様直属のドミニオン、メタトロン様であるぞ」




て、天使か? この姿。実在するものなのか?




いや、それより俺達の知っている天使という存在との乖離があまりに大きすぎる。




「あんた、何しに来たの?」




氷華が意を決して話かける。そうだ、こいつの目的は一体?




「そんなものは決まっている。私が仕様変更したばかりの小鬼を討伐した。少なくとも数十人は死んで、私に愉悦を与えた筈のモノをこうもあっさりと討伐するなど、これを罪と言わずしてなんと言えよう。ゆえに、懲罰を下しにやって来たのだ。このメタトロン自ら懲罰を下しにやって来た事、感謝するのだな、小娘」




何なんだこのサイコ野郎は?




自分は絶対的に正しく、ただ気分が悪いだけで罰を与えに来た。




自分絶対至上主義と言うヤツか?




やはりいかれたイレギュラーか?




「あなた・・・あたしたちを、何だと思ってんの!」




「我らに娯楽を提供する駒だ。それ以外のなにがある?」




「なっ・・・!?」




氷華も結菜も愕然とした表情をしている。




人間をおもちゃの如く言い放った。




その衝撃は計り知れない。




「さて、こんな臭い処からさっさと去りたいのだが・・・その前に、私の不興をかった貴様らを処分しないとな」




無表情でそう言って、こちらに顔を向けるメタトロン。




「・・・いや」




しかし、何やらメタトロンは考え直した様子。




「そうだな。本来ならなぶり殺して楽しむところなのだが・・・我らの仲間にした方が有益に使えるな。どうだ、お前ら、私の傀儡となり、私に・・・天使に仕える事を許す。聖なる力も祝福も与えてやる。幸福は約束されたモノになるぞ?」




そう言って勧誘してくるメタトロン。




いや、決まっているよな。




こんなサイコ野郎の軍門に入る?




天使だと?




嘘つけ、こんなサイコな野郎が天使な訳がねぇ。




仮に天使という存在がこういったモノなら、そうだな。




「くたばっちまえ、このクソ野郎」




「そうか。ならば死ね」




交渉決裂。こいつの配下になったらまともな人生を送れるとは思えない。




それ位ならいっそ。




戦って命を拾う方に懸ける!




「伊織、かっこいいぞ!」




「伊織さん。素敵ですわ」




氷華も結菜も同意見。




・・・ならば。




やってやろうじゃないか。




天使討伐ってやつを。




「全員バフ展開! 臨戦態勢!」




「任された!」




「もちろんですわ」




「馬鹿か? 私が・・・天使であるこのメタトロンが直接お前らと戦うとでもと思ったのか?」




直接戦わない? 何かを召喚するのか?




「何これ?」




「く、空間が変わりましたの」




メタトロンが手を天にかざすと、途端に青くほのかに輝く空間が一転した。




奥には赤くゆらめく炎。全天に広い空間と輝く太陽。




そして空にも地上も覆いつくす数百の・・・天使か?




全身白く、無表情の顔。頭上には輪、背には翼。




天使の特長を持つそれは、禍々しい姿をしていた。




「それらは私の配下。お前らが屈服した後、特別にこの者共の一員に加えてやろう。そうだな・・・条件として十匹倒せたら考えてやろうじゃないか」




興味なさげに一方的に言うと、メタトロンは奥の炎の柱の方に移動して行った。




「何て数だ」




「伊織。あたしの【百花繚乱】でも倒しきれないよ」




「俺の【次元波動爆縮アブソリュートゼロ】でも無理だ」




「あれは元人間なのですの?」




理解できない存在が目の前に現れた。




戦わずともその戦力はわかる。天使と言いながら、感じるのは禍々しい力。




「氷華。とりあえずエクストラスキル解禁!」




「任された!」




「俺はその後、直に切り込む!」




とにかく天使達の軍勢を何とかしない事にはメタトロンと雌雄を決する事も叶わない。




「【魔力集中】発動! アイスバレット!」




氷華のアイスバレットが知力、魔法攻撃力百倍で数百は打ち出される。




たちまち数十の天使達が天から落下した。




「【斬撃】発動! 行く!」




地上にいた天使と切り結び、数十の天使を葬る。




だが、数百の軍勢の前には焼石に水。




「あたしが広範囲攻撃魔法のスキルをとっていれば」




氷華はこのダンジョンで入手できた筈の攻撃魔法のスキルを全部破棄した。




中には範囲攻撃魔法もあった。




取らなかったのは氷系の攻撃魔法がなかったから。




氷華は自身の名を体現するかの様に氷系の魔法にこだわっていた。




スキル所有枠には制限がある。故に炎や風の広範囲魔法を諦めた。




【魔力集中】と同時に広範囲魔法を放てば、あるいは勝機があったかもしれない。




威力の低い広範囲魔法も氷華のエキストラスキルを使えば威力は百倍になっていた筈。




「広範囲魔法が必要ですの?」




そんな緊張感の漂う中、一人呑気な声で呼びかける人物がいた。

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