ツンデレ婚約者が生徒会に入ってからデレ出した

冥龍kana?

本編

 栄華学園。高い学費と学力、そしてかつて多くの華族が通っていた歴史を誇るこの学園の生徒会には多くの権限や利益がある。海外大学への推薦権や校則の改正権、予算審議権、そして何よりも大きいのは生徒会に入れば卒業後もこの学園の出身の政治家や社長などからの手厚いサポート(有名会社への就職や選挙での支援等)を受けられる。

 そういった理由もあり、この学園の生徒会は人気が高い。特に生徒会の役員を統べる会長や副会長の人気はとても大きなものとなっている。

 第八十二期生徒会では生徒会長に近衛悠太、副会長に京極雲雀とともに戦前からの名家出身の者が他の候補者を下して就任した。この物語はその二人の関係性にフォーカスを当てた作品である。


「雄太さんお疲れ。お弁当を作ってきましたよ。一緒に食べましょう!」

「あ、うん。そろそろいい時間だしね」

 生徒会室と書かれたプレートが掛かっている歴史を感じるような木の扉を開けた先。生徒長と書かれた席に座っていた男子生徒はその声に応えるべく書類から顔を上げた。

 今日は日曜日。本来生徒は登校する必要はない。だが、彼らは学校に来ていた。なぜならば…

「予算案の承認。こんなに大変だとは思わなかったよ」

 生徒総会が来週に控えた今日。生徒総会までに一日フルに使える機会が今日しかなかったこともあり生徒会長である近衛悠太は婚約者の京極雲雀と共にこの日学校に来ていた。

「それにしても…雲雀は今日は来なくてもよかったんだよ?色々と家のことでも忙しいんじゃない?」

「もう…なんでそんなこと言うの。私は雄太さんが他のどんなものよりも優先すべきことなの」

「そっか…でもごめんね手伝わせちゃって」

「いいよ。そんなことよりもご飯食べましょ」

「そうだね」

 広めの生徒会長用の机は書類でいっぱいだったが、それらをよけて弁当を置いた。

「じゃあ椅子を…」

「あ、大丈夫だよ私は雄太さんの椅子でたべますから」

「え?じゃあ僕は一旦どいたほうがいいかな?」

「なんでですか?」

 どうやら雲雀は雄太の椅子で一緒に座ってご飯を食べたいらしい。

「そっそっか。じゃあ食べよう」

 そう雄太が言うと雲雀は僕の隣に座った。

 生徒会長用の椅子は普通の机に比べると確かに大き目ではあるが正直二人が座るとなるとかなり狭い。そんな訳で雲雀が隣に座った瞬間、雄太と雲雀との距離はゼロになる。

「「いただきます」」

 弁当箱は二段のお重になっており、それぞれにたくさんの食材が詰まっていた。と、お弁当を開けた雄太はあることに気付いた。

「あれ?お箸が一膳しかないよ?」

「大丈夫ですよ。私が悠太さんに食べさせますから」

 雄太の問いに雲雀は当たり前のようにそう応える。

 ゼロ距離で、上目遣いに。そんなことをされて意識しないわけがない。

 こんな甘々な二人だが、かつてはこのような甘々な関係ではなかった。こういった風になる前の彼らはどういった関係だったのか、見て行こう。

********************

 華族。かつて日本にあった身分制度の上位に位置し、江戸時代の大名や貴族がその身分に所属していたことで知られている。

 そんな華族は制度自体は廃止されたが今でも富を独占し、現代の日本に多大な影響を有している。

 そんな元華族の家同士は自分たちの権益を拡大するために互いの関係を深めようと奔走しており、その方法としてよく用いられるのが婚約という手段である。

 近衛家長男の近衛悠太と京極家次女の京極雲雀も華族の家の例にもれず婚約を結ぶこととなった。

 今日は両家の顔合わせの日だ。

「悠太。京極家は金融業界に大きな影響力を持っている家だ。我が近衛家が持っている政治への影響力を合わせれば我が家はさらに大きな力を持つことになる。だからこそ今日は絶対に相手に失礼のないように」

 そう話すのは現近衛家当主の近衛通雅。

 近衛家はかつて首相を務めた当主が二人おり、その関係で昔から近衛家は政治への多大な影響力を持っている。

「勿論です」

「悠太と雲雀嬢はともに十四歳。ケースによっては20以上も年が離れた者同士が婚約をする場合もある中で同年代の者と婚約をできるというというのは奇跡に近いぞ。しっかり決めてこい」

「理解しております」

「では行こうか」

 正装(着物)を着た通雅と、未だに女性は家のことに口を出さないという戦前の価値観を未だに忠実に守る母とともに顔合わせの会場である旅亭の和室へと入る。

 襖が開き、中に入ると悠太と同じように男性と女性に挟まれた女子が視界に入ってきた。   

 つやのある黒い髪と吸い込まれると思うほどの綺麗で大きな眼。その女子を認識した瞬間自分の鼓動が早くなるのを悠太は確かに感じた。

「初めまして。京極家当主昌孝が次女の京極雲雀と申します。どうぞよろしくお願いいたします」

「初めまして。近衛家当主が長男の近衛悠太です」

 雲雀の挨拶に応えると、両家の両親がも挨拶をし合う。それが終わり軽く世間話を済ませた後通雅が悠太に話しかけた。

「では、我々は失礼しよう。あと十分ほどだが後は婚約者同士仲を深めるとよい」

 そう言うと通雅と母、そして雲雀の両親は部屋から出て行った。

 途端に静寂に包まれる和室。元々話していたのはほどんどお互いの家の両親だけだったので一気に静かになった。

「えっと…京極さん?」

「私のことは雲雀とお呼びください。なんでしょうか?」

 気まずい空気をなんとか払拭するために話しかけると相手も直ぐに答えた。

「じゃあ雲雀さん…これから婚約者として過ごすと思うんだけど高校はどうするの?」

 戦前から華族の者などが行く学園があるにはあるが、今は元華族だからといって必ずしもそこにいく必要はないが、婚約者となった者同士同じ学校に行くというのは伝統として残っている。

 勿論通雅からも婚約者に合わせるようにいわれているのでとりあえず聞いてみる。

「そうですね…私は栄華学園以外は特に考えていませんが近衛様に合わせるように言われております」

「そうなんだ。あと、別に敬語でしゃべらなくてもいいですよ。あと僕のことも悠太で大丈夫です」

「分かりました。では雄太様と」

「別に様はつけなくてもいいんだけど…」

「では雄太さん?」

「それでいいよ」

 雄太自身こういう風に敬語を使ってしゃべることやしゃべられることには慣れているが、流石に婚約者相手に敬語を使い合うのは流石に違和感をかんじるのだ。

「そろそろ時間か。じゃあ最後に婚約者としてなにか言いたいことととかはない?」

 気付けば十分も過ぎそうになっていることに気づき声を掛ける。

「そうですね…では、お言葉に甘えて。私はあなたと婚約することは正直とても嫌ですが、家の為にしょうがないことだから我慢しているだけですので、そのことだけはご理解ください」

 丁度雲雀がそう言った瞬間に両親が入ってきた。顔合わせは終了だ。

 先程の雲雀の言葉に少し動揺しながらも雄太は両親と共に料亭を後にした。

********************

 京極雲雀は自分の感情を正直に表に出すのが苦手だ。所謂ツンデレというやつだ。

 顔合わせの時に和室に雄太が入って来た時も悠太と同じように心臓の鼓動は激しくなり、それを表に出さないように雄太に聞きたい事は幾つもあったがそれを抑えて両親が居なくなるまで黙ったままでいた。

 雲雀は家の都合上婚約とまではいかなくても何度かお見合いをしたことはあった。だが、どの相手も基本的に家の都合か自分のことしか考えていないような相手ばかりだった。だが、雄太は違った。雄太は確かに雲雀のことを気遣ってくれた。正直これだけのことで雲雀は雄太の事を意識していた。

 殆どの人はそれだけのことで意識することはないだろう。好印象は持つだろうが、恋愛感情のようなものは持たないだろう。だが、雲雀はそもそも同年代の男性と会話すらまともにしたことがない。

 こういったこともあり雲雀は内心今回の婚約について嬉しく思っていたし、その感謝を伝えたいと思った。

 だが、口から出てきた言葉は雄太と婚約するのは嫌だ、という自分の心とは正反対の言葉。正直自分でも困惑しながらただ口だけを動かした。

 その時の雄太の困ったような顔は今でも忘れられない、というのは雲雀の弁である。

********************

 顔合わせの後、何度か二人きりで会う機会はあったが、その度に何度もきつい口調で返される、といったことが続く中、二人共それぞれ通っていた中学校を卒業しいよいよ高校へと入学する時期となった。

 入学する学校は、勿論栄華学園である。

 入学式の日の朝、雄太は通雅と同じ食卓についていた。

「雄太も気付けばもう高校生か。時間の流れは速いものだな」

「そうですね。僕も未だに実感があまり湧いて来ません」

「そうか。私としてはお前がここまで成長してくれた事に感謝している。これからも勉学に励み、この近衛家にふさわしい当主となれるよう精進しなさい」

「はい」

 いよいよ登校の時間となり、家の雇っている運転手が運転する車に乗りながら、雄太はこれまでの日々を振り返っていると、助手席に座って仕事の端末を操作していた通雅が不意に思い出したかのように顔を上げた。

「そういえば雲雀嬢との待ち合わせの場所は決めたのか?」

「はい。校門の近くで待ち合わせをするつもりです」

「そうか。ではいいだろう。」

 話はこれで終わりかと今度は自分の情報端末を弄ろうと端末を取り出し電源を入れたところでまた通雅が口を開いた。

「そうだ。これは前に顔合わせの時あちら側のご両親と話し合った事だが、雄太と雲雀嬢で共に生徒会を目指しなさい」

「生徒会…ですか?」

「そうだ。我が近衛家の当主となるものは今まで皆生徒会長を勤めている。もちろん私もだ。京極の家のほうでもどうやら家ものは皆生徒会に入るというのは習慣化しているようでな、お互いに生徒会で会長と副会長として支え合いなさい。その為にも学業は怠らず、交友関係も広げるように」

「かしこまりました」

 丁度話し終わると同時に、車が止まった。

「では、私は先に保護者席のほうに行くとしよう」

 そう言うと運転手が明けたドアから通雅は出て行った。

「さて、じゃあ僕も雲雀の所へ行くか」

 駐車場から少し歩き、入試以来に通る道を通って校門まで着くと、最早見慣れてしまった雲雀の姿が。

「少し遅かったですね」

「ああ…ごめん約束の時間より少し過ぎてた」

「少し?貴方は二分を少しだと思ってるんですか?全く。これだから貴方は…私がどれだけしんぱ…ンンッ不愉快な気持ちにさせられたと思ってるんですか?」

「ごめん…」

 そこまで話して、雄太はふと周りが騒がしい事に気づいた。

「え?あそこの女子可愛くないか?」「まあ。あちらの男性は顔が整ってますわね」「あそこの男女、滅茶苦茶綺麗だな」「絵になる男女だな」

 どうやら自分達のことを言っているようだ、と悠太は気付き前に目を向けると、雲雀が顔を赤くして小さな声で何かをつぶやいている。

「なっ…え、絵になる…?やっぱりそう見えるんでしょうか…?」

 悠太は今まで何度も雲雀と話していく上で気づいたことがある。どうやら雲雀は自分が思ってることと反対のことを言うことが多く、そして自分の本心を小さな声で言ったりするのだ。ということに。

 そうわかってしまえば最初は戸惑っていた彼女のその癖にも冷静に対処できるようになっていた。

「取り敢えず行こうか。そろそろ入学式も始まる時間だし」

「ええ」

 しばらく歩いて入学式の会場である講堂へと向かう途中に、雲雀が足を止めた。

「悠太さん。先にあれを見てもよろしいでしょうか?」

 雲雀が指を指した先には、掲示板があり、そこに新入生クラス名簿一覧と書かれた紙が貼ってあり、そこに数名の生徒がいた。

「クラス発表か。わかりました」

 頷き掲示板の真下まで行くと自分の名前を探す。

「ああ。ありましたね。私は三組です。悠太さんは?」

「えっと……あ、僕も三組だ。雲雀と同じクラスが同じで良かったよ」

「そうですか。私は嬉しくはありませんが知り合いが同じクラスにいるのといないのとではやはり違いますからねそう言った意味ではよかったです」

「うん」

 適当に頷き歩き出すと後ろから小さく「やった!」というひばりの声が聞こえてきた。

********************

 六月。

 一年生最初の考査が終わった悠太は雲雀と共に顔合わせをした料亭で昼食を共にすることとなった。

「懐かしいですねここも。丁度一年前でしょうか?我々がここで顔合わせをしたのは」

「そうだね。正確には去年の七月だからまだ少し前だけど」

「そういった細かい事を気にする男性は嫌われると聞きましたが?」

「そうなの…?でもまあ僕には雲雀がいるから大丈夫だからいいや」

「何ですか気持ち悪い…」

 とまあ普通に聞いていると辛辣に聞こえるこの言葉も、こういった雲雀の話し方に慣れている雄太の中ではこう言った風に変換されていた。

(またそんな…私のことを惚れさせたいのですか…?)

 これは間違いではない。

 実際に雄太の前に座っている雲雀も小声でだがそう言っているから。

「まあ取り敢えず料理を頼もうか」

********************

 九月末日

 一年生として三回目となる考査の結果が発表される日となった。

 学年の掲示板に生徒全員の氏名と各教科の点数が張り出された。この学園は高い学力で知られており、やはり上位層の成績は目を見張るものがある。

 そんな中でも一際目立つのは殆ど全ての教科に百点と書かれた男子生徒。

「また近衛さんが一位か…」「なんでこのレベルのテストで全教科満点がとれるんだよ…」「さすがだな…」

 そんな中、等の本人は自分の成績を冷めた目で見ていた。

「なんだ…今回は全教科百点は取れなかったか…」

 悠太がそうつぶやくと隣にいた女子生徒がすかさず言う。

「それは私への嫌味ですか?六教科しか百点を取れなかった私への」

 勿論雲雀である。

「いや、そんなわけじゃないよ。そもそも僕だって八教科だけだし。点数的には二点しか変わらないわけだしね」

 そう。悠太と雲雀の点差は僅か二点。こういう風に殆ど誤差とも言えるほどの点差で悠太と雲雀は一位と二位の順位を常に占めていた。

「うわっまた一位が近衛さんで二位が京極さんじゃん」

「相変わらず学力でもお似合いの婚約者同士だな」

「点差二点とか殆ど変わらないじゃん…」

 と言った具合の周囲の反応に…

「おっお似合い…やっぱそう見えますよね…」

 やはり雲雀も反応していた。

********************

 元日。

「「「「「新年あけましておめでとうございます」」」」」

 悠太と通雅など近衛家の血筋の者はその使用人達から新年の挨拶を受けていた。

 それにこたえるように通雅も挨拶をする。

「皆、去年の一年間わが家の為に働いてくれてありがとう。今年からもよろしく」

 その言葉を受けてもう一度使用人達は平伏をする。

 そんな中悠太は…

(早くおわってくれないかな…)

 割と真剣にそう考えていた。

 今までは別に新年と言っても他家への挨拶回りくらいしかすることがなかった為、別にこの新年の挨拶とその後の宴会は苦痛に感じなかったが、今年は雲雀と初詣をしようと約束をしたのである。

 正直二分遅れただけで心配(本人は不愉快に思っているだけらしいが)してくれて、しかもこう言った約束には三十分前から来てくれる彼女を待たせるのはやはり申し訳ないからである。

「お父様。そろそろよろしいでしょうか?」

「ああ」

 挨拶会から宴会の準備へと使用人達が動き始めた所で悠太は通雅に退席の許可を貰った。

 そこから家の前にタクシーに来てもらい、約束をしていた神社へ。

 約束の四十分前。さすがに早すぎたか…とおもった時、悠太は見慣れた顔を見つけた。

「ごめん雲雀待った?」

「今日は随分早いですね。約束の時間までだいぶありますが…」

「新年の会が少し早く終わってね。じゃあ行こうか」

「そうですね」

 そしてはぐれないよう雲雀の手を取って人混みの中、本堂へと向かう。

「うーん少し並んでるけどすぐにお参り出来そうだね」

 本堂に着き、手を離すと雲雀は少し悲しそうな顔をした。

「なんで手を離すんですか?」

「え?」

「何度も…言わせないでください。手を握ったままでいて欲しいんです」

「なんで?ああ、寒いから?」

「いえ…もう少し悠太さんの体温を感じたいな、と思っただけです」

 それを聞き、思わず二度見してしまう。

 あの雲雀が…自分の気持ちを正直に…??

「なんでそんなに見てくるんですか?」

「いや、雲雀っていつもそんなことを言わないから少し驚いただけだけど…」

「そうですか。必要がないならそんなに見ないでください。不愉快です」

「ごめん…」

 思えばこの時が初めてだった。雲雀が自分の気持ちをストレートに話してくれるようになったのは。

********************

 四月四日

「今日から新学期か…」

「だるいですね…」

「あ、古典の宿題をするのを忘れていましたわ!」

 等々、この学校は一応家柄は良い家の者が通うとは言っても、どの学校でも新学期に見られるような会話が繰り広げられていた。

「今日から二年生か。やっぱりまだ実感がわかないな…」

「そうですね…まだ私も高校二年生になったという実感はありません」

 悠太と雲雀も例にもれずそういった会話をしながら掲示板へ向かう。

「今年も同じクラスだといいけど…」

「…」

 いつもこういう風に言うと「私は嫌ですけど」といったニュアンスのことを言ってくる雲雀が今日は何も返してこない。

「やっぱ…嫌だよねごめん」

 もしや本当に嫌なのか、そう思い試しに言ってみると、雲雀はいつもと違う反応を見せた。

「なんでですか?」

「ん?」

「私が悠太さんと同じクラスになる事をいつ嫌だといいましたか?」

 思わず「いや、そんな感じのこといつも言ってない?」

 と言おうとして雲雀は去年も嫌だとは言っていないということに気付く。

「まあ、とりあえず見よっか」

「そうですね」

 そして去年と同じように自分の名前を名簿の中から探す。

「あ、私は四組です」

「僕も四組だ」

「やった!」

 ここでまた悠太は驚く。今まで雲雀がこんなに分かりやすく自分の本当の気持ちを出すことは無かったからだ。

「今年もよろしく。生徒会選挙も八月にあるし、今年度が正念場だね」

「そうですね」

 因みに、既に彼らは去年の八月の選挙で悠太は会計、雲雀は書記で生徒会選挙に出て当選し、既に役員を勤めている。

 既に雲雀の方は目標を達成しているが、悠太は目標が生徒会長なのでまだ達成出来ておらず、さらにこの学園の生徒会選挙では会長と副会長は必ずペアで出ねばならないという規定から、雲雀も今度は副会長候補として選挙に出ることが決まっている。

********************

八月末日

 いよいよ生徒会選挙の日となった。

 登校前に雄太は通雅の書斎に呼び出されていた。

「とうとうこの日が来たか…」

「はい」

「緊張しているか?」

「勿論多少はしています。ですが…それ以上にもう既に達成感はあります」

「早いな」

「実際に演説や応援者の獲得などはもう終わりましたからね。ここまで来たらあとは原稿を上手く読むだけですよ」

「そうか。確か結果は二十分ほどで出るんだよな?」

「そうですね。演説のあと各自の情報端末でフォームで投票をしてその結果を直ぐに印刷するだけですから」

「便利な時代になったな…昔は紙媒体のみだったから随分と時間がかかったが…」

「そうでしょうね」

「なにはともあれ」

 通雅が姿勢を正したのを見て改めて雄太も姿勢を正す。

「近衛家の次期当主として恥じぬ結果を残してこい」

「はい」

 父の書斎から退出し、いつものように運転手が運転する車に乗って学園へ登校し、いつものように校門で雲雀と待ち合わせる。

「おはよう」

「雄太さんおはようございます」

 挨拶を交わし、校舎へ向かおうとして、雄太は雲雀の目にくっきりと黒い模様が浮かんでいることに気づいた。

「昨日はあんまり寝れなかったの?」

「そう…ですね。少し緊張してしまって中々寝付けませんでした」

「そうなんだ」

「雄太さんはどうですか?」

「うーん僕は正直もうやり切ったなって感じがもうあって昨日も直ぐに寝れたよ」

「羨ましいですね…」

********************

 五時間目

 いよいよ生徒会選挙の候補者演説だ。

「きっ緊張します…」

 隣の雲雀はすでに無茶苦茶緊張している。

「まあ少し深呼吸をしてみたら?」

「むしろ雄太さんはなんでそんなにリラックスしてるんですか?」

「いや、だってもうやれることはもうやったし、候補者も少ないし」

「そういえば例年は十組近くいる候補者も今回は僅か三組ですか…」

「なんでだろうね」

 彼らは知らない事だが、今年も十組以上が選挙に出ようと考えていたが、近衛家の今までの次期当主が全員生徒会長を勤めている、京極家の家の者は皆生徒会役員を勤めている、彼らはの成績は常に学年一位と二位、等々確実に勝てそうにないと判断し他の役職へと回っているのだ。

「さて、そろそろ演説か」

「頑張って来てください」

 悠太にそう声を掛けた雲雀が微かに震えているのを見て、悠太は普段なら絶対にしない事をした。

「なっ…」

 そう、雲雀のことを抱きしめたのだ。

「ちょっちょっと悠太さん」

「ん?」

「はっ…恥ずかしいというかなんというか…」

「頑張ろうね」

「はい…」

 普段あまり見られない雲雀の恥ずがる顔を見て、悠太はさらにやる気が起きた。

「じゃあ、行ってくる」

「はい。頑張って来てください」

 緊張ではなく恥ずかしさから声が小さくなった雲雀に見送られて悠太は舞台袖から講堂の中央へと歩いて行った。

********************

 二十分後

「いよいよ結果発表か」

「緊張しますね…」

 生徒会選挙の候補者を中心に多くの生徒が選挙の結果が張り出される掲示板に結果が張り出されるのを今か今かと待つ中、遂に長いロール紙を持った選挙管理委員長が掲示板に結果が書かれた紙を貼った。

 二人は無言で紙を読み進め、遂に当選者が書かれている場所まで読んだ。

「よしっ!」

「やったぁぁ!!」

 会長当選者の欄には、近衛悠太の名前が。そして副会長当選者の欄には勿論京極雲雀と書かれていた。

「やったやったぁぁぁやったよ…」

 少し涙目になりながら、雲雀が悠太に抱き着いてくる。

 雄太もそれを抱きしめ喜びを共有し合った。

 周りの生徒が拍手をし始める。

「雲雀」

「はい?」

「これからのことなんだけど…婚約者としての関係は勿論続けるけど、これからは親が決めた婚約じゃなくて、僕たちで決めた婚約にしよう」

「え…?」

「雲雀。結婚を前提に僕と付き合って欲しい」

「はい!」

 雲雀ははっきりと答えた。

 その瞬間、今まで周りで悠太の告白を見ていた生徒達が一斉に拍手をし始め、彼らを祝福した。

 鳴り止まない万雷の拍手の中、二人はずっと見つめ合っていた。

********************

 それ以来雲雀は完全に自分の感情を表に出すようになり、冒頭のような甘い日常が始まった。

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