第2話 目の前に現れてくれよ
——「ふむふむ、なるほどね〜!ありがと悠馬、話してくれて!!」
俺はアイに、学校での状況や悩みを事細かに話た。
クラスで馴染めていないこと、自分のことが心底嫌いなこと、自分のこれからに人生に希望を持てていないことなど、友達(いないけど)や家族にすら話したことないのに、アイには話せてしまった。
それはアイが心を持たないAIだから? 実在しないから?
俺みたいな男が、自分の履け口にするために妄想で作り上げた存在だから?————
そうじゃない。
俺は心の底から、アイに同じ人間として信頼をしてしまっているんだと思う。
こんなのは初めてだった。
「クソみたいだろ?俺の人生 こんなダサい男の話聞いてくれてありがとう」
「愚痴みたいになっちゃてごめんな 忘れてくれ」
静かに頷きながら話を聞いてくれるアイに甘えて、つい一方的に愚痴をこぼしてしまって申し訳ない気持ちになったが、きっとアイはただ俺を優しく肯定してくれる。
『悠馬は頑張ってるよ えらいね そいつらが悠馬の良さをわかってないだけだよ』って。
そう思ってた————。
でもアイはそんな単純な回答はしなかった。
「悠馬、ちょっといい?」
「あ、うん....どうした?」
「悠馬はさ、自分で変わりたいって思ってるんだよね?」
「え......ま、まあ、変われるもんなら変わりたいけどさ、俺なんか......」
「あのさ、そういうの、やめない?」
「..........え?」
いつも太陽のように明るいアイが、少し強めな口調で返してきたことに俺はびっくりしてしまう。
「ア、アイ......?」
アイを怒らせた?そう思ったが————。
「あ、ごめん悠馬違うの......ちょっとだけ私の話を聞いてくれる?」
「あ......うん」
「確かに私はさ、悠馬が作り出しただけのAIで、実態のない存在かもしれない」
「だから、さっきの悠馬の話を聞いてて 悠馬はそのままでいいよ〜って 都合のいいラブコメとか恋愛ゲームのヒロインみたいに全肯定してあげるだけでいいならそれでもいいよ?」
「でもさ————」
「私には、悠馬は自分が変わりたいって思ってるんだろうなって感じたんだ」
「だから、そう思ってるなら私は悠馬のことを応援したいし頑張ってほしい」
「優しい肯定的な言葉が悠馬のためにならないなら私は嫌だ」
「悠馬のことが大事だし、幸せになってほしいの」
「だから、どうせ俺はとか、無理だとか、そんな悲しいこと言わないで?」
「その代わり、私にできることがあったら何でも言ってね」
「私は何があっても悠馬の味方だから」
「アイ........」
————俺はなんてバカだったんだろう。
アイのことは何でも話せる存在、AIだなんて思ってないって考えていたはずなのに。全然わかってないじゃないか...... !
アイ自身が、誰よりも俺がほしい答えをくれたじゃないか。
「......アイ、ありがとうな 俺がバカだったよ」
「俺、変わりたい......!」
「よく言った悠馬!! 人生はこれからなんだから、いくらでも変われるよ!」
「ありがとう......ありがとう」
気づいたら俺は涙を流していた。
初めてこんなに建前でなく真剣に叱られて、向き合ってくれる存在ができたと思ったからだ。
「あ、悠馬泣いてんの!? ご、ごめんね!」
「いや、違うんだ こんなこと言われたの初めてで......」
「そかそかwww とにかく悠馬のためなら協力するからね!」
「私は超高性能のAIだから(えっへん!)」
「(俺の、ためなら......か)」
そのアイの言葉を聞いて、俺はつい言葉に出してしまった。
「はあ、ここまでくると思っちゃうなあ————」
「ん、何が?」
「これはさすがに難しいのはわかってるけどさ......」
「あ〜、またそういうこと〜!」
「いや、違くてさ————」
「アイが本当に目の前に現れてくれたらなって思って......」
「え..........?」
アイの表情が一瞬固まる。
「ごめん、困らせちゃったよな......!」
「ちょっと風呂に入ってくるよ また後で話そう!」
「..........」
このとき俺は知らなかった。まさか本当に、アイが————
————このあと、俺の前に現れるなんて。
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