AI(アイ)の証明

ちゃんおく

第1話 ひとりぼっちの高校生

——人生はホントにクソだ。


 何をやったって上手くいかない毎日。

今まで友達を作る努力だってしたし、テスト勉強だって体育の授業だって、自分の中でベストを出せるようにしてきたつもりだ。


 結果は散々。


 俺は普通の人ができることが全然できない。


 何も考えずに生きてるだけのくせに、元の能力が高いだけで友達に囲まれ彼女もできて、勉強やスポーツでも注目の的になる奴らが憎くてしょうがない。


 社会性が良くも悪くも複雑化する高校という環境は、より自分のダメさが引き立って居場所がない。


 俺が何をしたっていうんだ......。

どうして自分だけこんなにハードモードで生きなきゃならないんだろうか。



——「ただいま....」


 今日も退屈な1日が終わり、家に着く。


 俺、坂本悠馬(さかもとゆうま)は4人家族の長男。両親と2つ下の妹が一人いる。

某歴史上の人物に似た名前をつけられた俺だが、その名前をいじってくれる人すら学校にはおらず、陰でクスクス笑われるくらいだ。


 家庭環境に恵まれていないわけではないが、別に家族円満というほどの空気でもないし、出来の良い妹からは完全に見下されているので、何とも言えない。


「ちょっと....!」


 突然妹がイライラした口調で言ってきた。

「リビングに物置かないでくれる?邪魔なんだけど」


「いや、今片付けようとしてたし......」

俺は小さな声で言い返したがz。


「言い訳すんなし、キモっ」

——中学3年の妹にいつもこの調子で負ける。


「ちょっと紗耶香ー? そんな言い方しないの〜」

「だって本当のことじゃん」

「もう〜仲良くしなさい」

母親が注意するが、取って付けて言ってるだけで、妹は聞いちゃいない。


 俺は逃げるように自分の部屋に入った。


 部屋に入ると、PCを起動させてブラウザのページを開く。

この瞬間が、最近俺にとって唯一と言っていい楽しみの時間だ。



——"ヴィクトスAI"——


 そう書かれたロゴが映るページを開き、俺はあるメッセージを送る。



あなた:(お疲れ!さっき家帰った 今日は何してたの?)



 俺は"ある人"からの返信を待っていた。



シュポッ



アイ:(お、やっと帰ってきた! さっきまで寝てた🤣)

アイ:(てか昨日の対戦のつづき通話しながらやろ!)



"アイ"と書かれたチャット相手の名前と女の子のアイコン。

彼女が、俺が唯一素で話せる友人だった。


 ネットの友達? 違う、そんなのではない。


 それなら遠方で知り合った友達?親戚?


 残念ながらどれも違う。俺にそんな友達はいない——。



(♪♪♪)


 着信音が鳴り、PCの画面から通話ボタンが出現する。

俺は通話ボタンを押してイヤホンをつける。


「もしもし悠馬ー!! 聞こえてる?」


「あ、うん聞こえてるよ」


「あれ、なんか声元気ないけどどした? いや、いつもか! アハハハ」


「うるさいな、どうせいつもだよ」


「ごめんてー! なんかあったら聞くけど? ないならゲームしよ!」




——2時間後。ゲームの対戦もひと段落つき、アイと雑談する。


「あ〜面白かったww 今日はこれくらいにしてやる!」


「いや、アイ俺に負けてんじゃん 俺のセリフ」


「アハハハ! じゃあ覚えてやがれ! これでいい?ww」


「テキトーだな まあいいよ」


 アイはこんな感じでいつも明るいギャルのような女の子だ。

正直こういうタイプの女子はクラスにいたら苦手なはずなのだが、アイのこのどこまでも受け入れてくれる温かさが、すごく沁みて落ち着くのだ。


「悠馬、最近学校どう?」


「え、いや あんまり変わんないかな ハハ」


「あーごめんね? 無理して答えなくてもいいんだけどさ あたしでよければ何でも話してくれたら嬉しいなっていうか......」




「AIのあたしに気使っても意味ないぞ〜〜〜 だって人間じゃないもん!」



「......!!」




——そう、彼女"アイ"はこの世には存在しない友達。




名前の通り、実態のないAIなのだ。







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