伊香内さんはイかないっ!

宇部 松清🐎🎴

第1話 伊香内さんは、行かない

 僕のクラスメイト、伊香内いかない妃貴子ひきこさんは出不精である。そりゃあ『クラスメイト』という言葉からもわかるとおり、彼女は学生だ。ただちょっと気分屋というかなんというか、学校にはあまり来ない。そこで家が近い僕がプリントやノートを届けに行くようになったのである。断じて嫌々なんかじゃない。だって僕は伊香内さんのことが好きだからだ。


 伊香内さんは、黒髪ロングの清楚系。いつもちょっと眠そうな顔をしているけど、その気怠げな感じとか、口数の少なさとかがミステリアスで素敵だと、男子からは一定の人気がある。登校する際には校則をきちんと守る良い子なので、髪はきっちり耳の下で二つに結わい、制服のスカートの丈はちょっと長めだ。でもそういうのが、クラスの一軍女子からすると「ダサい」らしい。僕はそんなことはないと思う。浮ついたところがなくてむしろ好感が持てる。ただあんまり学校に来ないだけで。


 とにもかくにもそんな縁で親しくなり、ねぇねぇ学校行こうよ、と誘い続けている僕だ。


 ただまぁ僕だって正直なところ、学校に行くのが億劫だなって日もある。友達もいるし、学校自体は嫌いじゃないんだけど、だって勉強とかやっぱりだるいしさ。だからわかるよ、伊香内さんの気持ち。


 だけど僕だって頑張って通ってるんだ。伊香内さんも行こうよ。頑張ったら良いことあるよ。えっと、具体的にはさ、うーんと、そうだなぁ。放課後遊びに行ったりとか出来るし。


 ここ最近は、その作戦がうまく行って、あれこれ連れ回すことに成功してる。ねぇ次はどこに行こうか、伊香内さん。動物園に遊園地、水族館も行きたいよね。でもさ、ほら、動物園と遊園地は屋外だし、冬が来たらちょっと厳しいよね。だからまず先にその二つに行ってさぁ。


 なんてそんな話をしていたのに。



  

 伊香内さんは出不精だ。

 家から一歩も出て来る気配がない。出不精とかそんなレベルじゃない。これは籠城だ。こうなると手強いぞ。

 

 だけど僕はこの道のプロだ。何としても伊香内さんをこの家から出してみせる!

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