未来から来た美少女が、俺のバッドエンドをハッピーエンドに変えるまで
フー・クロウ
早乙女波瑠は知っている
第1話 そして彼女は、フラグをたてる
新しい環境では、人は皆慎重になる。
地元の仲間達とも離れ、自身を知る者も少ない高校生活。その初日は、誰しもが期待と不安を抱えながら頭の中で考えている。
どんなキャラでいくべきか。
誰と友人になり、どのグループに属すか。
イケている部活は? 流行りの髪形は?
でも、結局は何が正解か不正解かなんてわからない。だからこそ、俺は博打はしない。
ここで選択をすべきは、"無難にいく"だ。
「北栄中学出身の、
無難な自己紹介に、ほどほどの拍手が起こる。これでいい。まず大事なのは、悪目立ちをしないこと。
この持論が間違っていないことは、前の席で頭を抱えて俯いている彼女を見ればわかる。おそらく、今彼女は羞恥心と絶望を抱え悶え苦しんでいるのだろう。
「ど、どっもー! はじめましてっ、
そう、彼女はやらかした。
俺の前に彼女がした自己紹介だ。
笑い声どころか、拍手一つ起きない静寂。引き攣る、クラスメイトの顔。
しばらく彼女はそのいたたまれない空気の中立ち尽くしていたが、そのまま膝から崩れ落ちるように何も言わず着席した。
漫画やアニメなら、"おもしれぇ女"で素敵な恋路が始まるかもしれない。しかし、残念ながら現実での評価は"痛い女"だ。
これから彼女が失った何かを取り戻すには、膨大な努力と時間が必要なのだろう。
◇◇◇
一通りクラスの自己紹介も終わり、ホームルームも終え休み時間になる。今のところは、順調だ。
チラッと前の席の女子に目をやる。今だに顔をあげられず、ピクリとも動く様子はみられない。
そして、この世の終わりかと思えるほどのオーラを纏っている。よほどのトラウマを抱えたのだろう。
とりあえず彼女はスルーし、このまま慎重に平穏な高校生活を——
「あのー、このクラスに常磐ツバメっていますよね」
ふと聞こえてきた自分の名前に反応し、その声の方へ目を向ける。教室の入り口で、見知らぬ女子がウチのクラスの生徒に声をかけていた。
誰だ?確かに俺の名前呼んだよな。
「えっと、常磐くん……? 確か、いたような……」
聞かれた生徒も戸惑っている。
まあ、大して印象に残る自己紹介をした訳でもない。すぐに俺のことだとわかる人のが少ないだろう。
それにしても、勘違いではなかったか。
確かにあの女子は俺のことを探している。しかし、あんな美少女俺の知り合いにはいないはずだぞ。
記憶を辿りながらその女子のことを見ていると、その気配を感じたのかガッツリと目が合った。
「い、いたあ!!!! ツバメっ!!!」
その叫び声で、クラス中が何事かと彼女に視線を集める。そして、その視線を背負ったまま
物凄い勢いで俺の席まで駆けてきた。
「えっと……えっ?」
全く頭の処理が間に合わずまともな言葉を発することができない。そんな風に戸惑う俺など無視し、彼女は追い討ちをかけてくる。
「ツバメぇ……うっ、うっうう……!!!!」
大きな瞳から大量の涙を流し、俺を見ながらマジ泣きしてる。なんだこれ、怖い。
「いや、その。どなたですか?」
「なんで……なんで……私だってどうすればいいか悩んだんだよ! なのに、一方的にふさぎ込んで拒否して……うっううう……」
ダメだ。彼女の中で何かが始まっている。
そして、彼女の切羽詰まった泣き語りにクラスがざわざわし出した。
「ちょ、ちょっと。誰かと間違えてません?」
「挙句の果てに私を置き去りにして……ひどいよっ! ひどいよ、ツバメ!!」
"なに、なに? 痴話喧嘩?"
"ヤバくない? 泣き方尋常じゃないよ……"
"常磐くんだっけ。何したの、あの人"
クラスメイトのひそひそ声が聞こえてくる。
訳わかんねえ。本当に何したんだよ、俺は。
とにかく勘弁してほしい。俺の平穏な高校生活が……くそっ!
「ツバメのバカあぁぁぁ!! うわあああん!!」
「わかった、わかったから! とりあえず、教室出るぞ!」
俺は彼女の手をつかみ、逃げるように教室から飛び出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます