第三話 可愛くなったね、お兄

三話にして早くも謝罪があります。

……登場人物の名前間違えてましたぁ!!

正しくはこれですぅ!!

不幸ふこう 運無うな見夢みゆめ 運無うな

南風みなかぜ 観夢みむ見夢みゆめ 百合ゆり

理由としましては……第一話と第二話は仮のデータを投稿していましたので、登場人物の名前が異なっていたんです……すいません。でもこれからはきっちり名前あってるデータのはずなんで!勘弁してください!(土下座)

――――――――――――――――――――


 運無が起きてから三十分後の事だった。


「ん……ん〜……」


 お兄が踏んだトラップに巻き込まれた後、意識が戻ってきた私はゆっくりと目を覚ます。


「ここ、は……っ!」


 トラップの先には見知らぬ景色。危険だと察知した私はすぐさま立ち上がって周囲を警戒する。

 今のところ特に何も無さそうな事を確認したのだが、ふと別の所に視線を向けると、遠くに飛んでいる白い物体が見つかった。目を凝らして良く見てみると、どうやら一緒に転移に巻き込まれていたドローンのようだった。


【モンハウ?】

【モンハウはこんな綺麗じゃねぇだろ】

【神殿みを感じる】


 圧倒的視力でさらに目を凝らすと、ドローンはホバリングを続けており、律儀に配信のコメントを映し続けているのが見える。

 私はひとまず配信を再開しようと、手元にあったコントローラーを操作してドローンを近くに引き寄せた。


「あ〜、あ〜。聞こえる?」

【ばっちり】

【無事でなにより】

【聞こえてる】


 どうやら配信機器自体に問題は無いことに、私はほっと胸を撫で下ろす。


「良かったです。みんなはここが何処かって分かる?」

【神々しい事しか分からん】

【凄く……綺麗です】

「うんうん。さっぱり分からないね!」


 結構危機的状況の筈なのだが、このごに及んでも巫山戯ている視聴者の肝の太さに皮肉を込めて感心する。

 この様子だとどうやら本当に何も無さそうで良かった。さて次は――


「それじゃあ何だけど……お兄を見掛けなかった?」

【いや、何も】

【遠くになんかみえたよな】

【人間っぽいものが遠くに見えた】

【お兄はいないが人間はいた】


 お兄は近くにいないけど人間がいる?それってお兄じゃないの?


「えっと、人間ってお兄じゃないの?」

【いや違う】

【女の子だった】

【別人だと思う】


 こんな所に女の子?


【何か金髪美少女だったよな】

【あとブカブカの服着てたな】

「ブカブカの服?なにそれ」

【そそ。あ、これお兄が着てた服じゃね?】

【ライブ見返したら確かに同じ服だわ】

【まじだ】


 質問をすればするほど、不可解な答えが返ってくる。

 人間で、お兄の服を着た女の子。この時点で私の脳のキャパシティは限界を迎えていた。


「どこに向かったかって分かる?」

【後ろにあるでっかいやつ】

【なんだろう……祭壇とか?】


 そう言われて後ろを振り向くと、確かに遥か遠くに祭壇らしきものが見える。

 視界に祭壇を捉えたその瞬間、私は走っていた。お兄がもし何か良くないことに巻き込まれているかと思うと、居ても立っても居られなかった。


「……あ、ドローン」


 ドローンをすっかり忘れていた事に気づいたので、手元のコントローラーを操作して私を追従するようにして、また走り始める。

 走って、走って、走り続けて、私は祭壇の前にたどり着き、純白の階段を昇る。


「お兄!無事!?」


 祭壇の頂上にたどり着いた私は、真っ先にその言葉を叫んでいた。


「ゆっ!?」

【あら可愛い】

【kawaii】

【尊い】


 目の前には剣を引きずっていた幼い女の子が、短い悲鳴を叫んで固まっていた。

 彼女が固まっている間、私は彼女の容姿をくまなく見つめる。

 すると彼女は多少自身の体型に合わせているものの、お兄が着ていた服と全く同じ服を着ていることが分かった。

 コメントで言っていた女の子というのは、間違いなく彼女の事だろう。


「……百合?」

【???】

【どういう事だ?】


 彼女は暫くして落ち着いた後、あどけない声で私の名前を発する。瞬間、私の脳にある何かの糸が捩じ切れた音がしたのだが、残った理性で今目の前に何が起きているかを考える。


 ダンジョン攻略の上での豆知識なのだが、中難易度以上のダンジョンでは、稀に『多重トラップ』という、複数のトラップがピタゴラスイッチのように組み合わさったトラップが存在する。

 諸説は色々あるらしいのだが、一つ言えるのが、その多重トラップというのは総じて私達攻略者に甚大な被害をもたらすらしい。

 ここまで前置きを述べた上で私は何が言いたいのか。

 今のお兄には『転移』と『性転換』、この二つが組み合わさった多重トラップに引っかかった、という事だ。


「百合!俺だ!運無だ!」

「うん。やっぱりね」

【あ〜そういうことね完全に理解したわ】

【↑嘘つけ】


 そして今、その二重トラップによりお兄が可愛い女の子になっている。正直被害が女の子になるだけで助かった。というか寧ろ感謝している。

 私は適当な返事を返し、目の前の可愛いお兄を舐め回すように見つめる。


「ふひっ……可愛くなったね、お兄」

【あっ……(察し)】

「かわっ!?」


 上がってしまいそうな口角を冷静に抑える。

 私は言葉を紡ぐ。


「でもなぁ……お兄の名前を言ったとて、本当にお兄かどうかは百合は分かんないなぁ……?」

【おい、口角】

【あ〜あ、百合です】

【バジリスクタイム】


 うちの視聴者はもう私が何をするかどうか察しているようだ。

 その様子を見た私はコメント欄から目を離し、ゆっくりと歩を進めてお兄へ近づく。


「み、百合?どうしたんだ?」

「いやぁ〜?本当にお兄かどうか分かんないからちょっと確かめさせてもらうね……」


 お兄は引きつった顔をして後退あとずさっているが、私はそれを気にせずにさらにお兄へと近寄る。

 やがて肌と肌が触れ合うような距離感まで接近したあと、私はお兄に手を伸ばし――


「はい。捕まえた」

「むっ!?」


 

 女の子になったお兄の頬はもちもちで、ずっと揉んでいたくなる程に心地よい。


にょ、ひふちょ、観夢!?」


 気づけば私はお兄の無事を安堵する事を忘れて、ただひたすらに可愛くなったお兄の頬をむにむにする事に専念していた。

 そして同時にこのような状況を生んでくれたダンジョンに感謝の祈りを捧げる。ありがとうダンジョン。お兄を可愛くしてくれて。


「お兄、私ね。ずっと可愛い妹か弟が欲しかったんだ」

ひゅうになひほいっへ急に何を言って

「お兄は私っていう超絶最強妹美少女がいるけど、私にはそういう超絶最強美少女のはいないの。分かる?」


 私はお兄の目をまじまじと見つめる。見つめるだけでどこかに連れて行かれそうな、魔性の魅力がある銀の瞳だった。


ははひはわははん話が分からん

「そっかぁ、分からないんだったらその可愛い可愛い体に直接教えてあげるね……」


 私の中に辛うじて残っていた理性の糸がプツプツと連続で切られていく。

 お兄の顔を掴んで目を閉じ、自分の唇を突き出す。


いや、ほんほうひわはらなっ……やめいや、本当に分からなっ……やめ――」

【あああああああああああ】

【まぁずいですよ!?】


 お兄は目の前の事が理解できていないのか、碌に抵抗もしていない。このまま唇と唇が重なり、結婚式場の鐘が脳内で鳴り響く……はずだった。


ゴゴゴゴゴ……――


 突如としてダンジョンが揺れ動き、私とお兄のkiss熱いベーゼが中断される。


「っち……」

「な、なにが起こって……」


 私は折角の大事なシーンを中断されたことに憤りを募らせるのだが、対してお兄は周りをよく見て今ダンジョンに何が起こっているのかを把握しようとしていた。

 お兄のその姿を見て、私は怒りを押し殺して周囲の状況の把握に徹する。


ドン……ドン……ドン……


【何か近づいてね?】

【百合を中断した罪は重いゾ】

【ヤバい予感】


 ずっしりとした音と共に、ライブステージの重低音のような振動が全身に伝わってくる。

 私は即座に自身のロングソード獲物を構え、敵が来そうなルート全てに全神経を尖らせる。理性がけてお兄にkissを迫る私は、もういなかった。

 何処から来るのか、どのような姿の敵なのか、私は常に周囲を警戒しながら、その時を待つ。


ドン……ドン……ドン……!


 辺りの緊張感が高まり、重低音が最大まで高まり、もう敵はすぐそこまで迫っている錯覚に陥る。しかし、未だに敵は姿を現さない。


 何処から来る。右か、左か、前か、後ろか――


「……百合!上だ!」

「上――」


 そう言葉に発して上を見上げた時には、既に敵の姿が現れていた。


ドゴォォン!!!!


 激しい崩落音を立てて、祭壇の前にあった廊下の天井が煙を出しながら大きく崩れる。

 美しい模様を施された天井や床は無惨にも砕け去り、そこは既に瓦礫の山が積み重なる廃墟となってしまっていた。


Target confirmationターゲット確認。. 〙


 やがて薄灰色の煙が晴れた頃。白と金のシンプルな装飾が施された、巨大な聖鎧せいがいのゴーレムが現れる。

 その身長は2mを優に超え、顔全面を覆う兜からは眼のような小さな赤い光が、まるで私達を見つめるようにその輝きを放っていた。


「どうすれば……」


 お兄は性転換したばっかで多分戦力にならない。私は実力そこそこだし、相手は超絶デカいし硬そう。

 これ、勝ち目あるかな――

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