事故紹介
どうも、読者の皆さん。自称、日本一空気の読める男、女川透です。え……どうやって空気を読む力を身に付けたかですって? 簡単ですよ、奥さん。私がやった事はただ一つ、ボッチになる事です!
ボッチになればあら不思議、何もしなくても自然と空気を読む力が身に付きます。空気が読めないと悩んでいるそこのあなた、今ならボッチになるだけで簡単に空気が読めるようになりますよ! ぜひ、一度お試しください!
実はそんな自称、日本一空気の読める男、女川透ですが、この度高校生になりました。無駄に長い校長の話という試練課された入学式を終え、今は高校で一緒になったクラスメート達が各々自己紹介をしています。
「向井光一です。………………です。よろしくお願いします」
前の席にいた男子が自己紹介を終え、ついに俺に出番が回ってくる。第一印象っていうのは大事だからな。ここは一発、気合を入れて自己紹介をしなきゃな。これから平凡な高校生活を送るためにもね。
「俺は女川透です。今日からよろしくお願いします! みんなとは仲良くなりたいなと思っているので、積極的に声をかけて欲しいなって思います。なんて、俺みたいなヤツに話しかけるヤツなんていないか! ハハッ!」
自己紹介を終えると、なぜかクラスメート達は一様に俺と目を合わせてくれない。とびっきりの営業スマイルを浮かべ、隣の席の男子を見ると、目が合うなり男子生徒は勢いよく顔を背ける。
「おい……お前何やってるんだ?」
クラスメートの様子を不思議に見ていると、担任の美人な女教師が俺に話しかけてきた。何があったのか、先生は何かにドン引きしているようだった。
「先生、顔色がよくないですよ。何かあったんですか?」
「お前の自己紹介のせいだよ! 入学早々、とんだ爆弾を落としやがって! 何を考えているんだ!?」
「いや〜、一発かましとこうと思って。何事も最初が肝心だって言うじゃないですか?」
「今、まさにその最初をお前は棒に振ったんだよ!」
「そんな、俺の自己紹介のどこに問題があったんですか! 佐藤先生!」
「問題大有りだ! あと、私は佐藤じゃない、白石だ!」
「くっ! 日本一多い苗字だから当たると思ったのに!」
「人の名前を当てずっぽうで言うんじゃない!」
「そんな事より知ってますか、先生? 佐藤さんって実は日本人の2%もいないらしいですよ」
「お前、そんな事を知っててよくギャンブルに出られたな!?」
「俺、実は案外ギャンブラーなんですよ」
「ここ1ヶ月で一番いらない情報!」
「あの……喋り疲れたんでもう黙っていいですか?」
「もう、二度と喋らないでくれ!」
白石先生はゼーゼーと肩で息をする。不思議なことにここ数分で少し老け込んだように見える。
「ハァ……とりあえず、次の子、自己紹介してくれ」
白石先生が次の生徒の自己紹介を促し、その後は特に何事もなく、クラスメート全員の自己紹介が終わる。俺? 自己紹介が終わってからは気配を完全に消してましたが何か?
自己紹介が終わると、クラスメートは各々が気になる生徒達と交流している。そうだよな……ボッチになると一緒にお昼ごはんを食べる相手にも困るもんな。
俺が自分の席でクラスメート達の精神分析を楽しんでいると、俺に近づく者がいる。近づいてきたのは何と俺のクラスメートのようである。顔を確認すると、イケメンと言われればイケメンかな? というぐらいの微妙な顔である。
微妙にイケメンなクラスメートは、目の前に立つと、話し掛けてくる。
「よう! さっきはすげぇ自己紹介だったな! 俺は
おかしい。俺に話しかけてくるクラスメートがいるなんて! 考えろ女川透……! 今の状況から導き出せる結論は……。
「お前……刺客か!」
「……何言ってんだ?」
「俺に話しかけるクラスメートなどいるはずがない。すなわち、ここから導き出せる答えはお前が俺の命を狙う刺客か、お前が俺の目の前で急にイマジナリーフレンドと話し出したかの2択しかない!」
「なわけねぇだろ! 初対面の人間を疑いすぎだろ!」
「ハッ! もしかして……イマジナリーフレンドの方が正解だったか?」
「なわけあるかぁ!」
「えっ……。じゃあお前は、ボッチの俺なんかに興味を持って話しかけてくれた奇特な人間ってことになるが……」
「その通りだよッ! 興味を持って話しかけた奇特な人間だよッ!」
「……!!!」
「そんな人生で一番の衝撃を受けたような顔をすんなよ……」
どうやら、俺に話しかけて来た有馬翔斗と名乗る男は、悲しいことに俺なんかに興味を持ってしまったようだ。なんて残念な感性をしているんだろう……。
「ふぅ……分かったよ。それで……友達料はいつ払えばいい?」
「怖ぇよ! 初対面でいきなりそんな要求しねえよ! 今までのお前の人生に何があったんだよ!」
「実は昨日……妹が……!」
「えっ……! すまん、何かあったのか?」
「いや、特に何もなかったけど」
「何もねぇのかよ! 紛らわしい言い方すんな!」
キンコンカンコーン。
有馬と話していると、不意に1限のはじまりを知らせるチャイムがなる。チャイムの音を聞き、有馬は(なぜか)疲れた様子で息を切らしながら自分の席へと帰っていく。
やっと終わったか……。俺の思い描いていたボッチライフは、特異点、有馬の出現によりプランが大きく崩れるのだった。
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