女川君は女性運が悪い〜俺は普通の高校生なのにいつも女性に絡まれている。もう放っといてくれないかな〜
片野丙郎
プロローグ
「女川君、実はずっと前から好きでした。付き合ってください!」
俺の目の前には、頭を下げ、制服に身を包み、俺に告白する女子生徒がいた。その姿は後ろに髪をまとめ、スポーティーな出で立ちである。この子は……俺のクラスメートだっただろうか?
しっかりと記憶をしていなかった俺は、朧気な記憶を頼りに目の前の女子生徒と自分の記憶を整合する。記憶を探っている間にも、目の前の女子生徒は頬をうっすらと朱色に染め、上目遣いで俺の返事を待つ。
今日は中学の卒業式であった。少し離れたところからは、いまだに生徒たちの雑踏が鳴り響き、それが止むのにはもう少々の時間がかかるだろうことが分かる。俺もまた集団から離れたところで雑談をしているその他Aの一人であるはずだった。しかし、なんの因果か体育館の裏に呼び出され、ノコノコと来てしまったのだった。
突然の事態だ。普通のヤツならここで慌てふためくのだろう。しかし、この女運の無さには右に出る者がいない男、
今、されている告白もまたか……といった感じだし。ここから起こるであろうことも全て理解しているし、俺がすべきこともわかっている。彼女への返答は既に決まっている。備えは怠らないのが俺の主義だ。
だから、俺はあらかじめ用意していたセリフを女子生徒に告げる。
「ごめんなさい、実は他に好きな人がいるんだ。だから君とは付き合えない」
「……!」
俺の返答に体をビクッとさせた女子生徒は、やがて下げていた頭を上げる。顔を上げた女子生徒の瞳からは涙が流れていた。
「わっ、わかりました。……今日は……ありがとう……ございました」
女子生徒は口を押さえながら、足早にその場から立ち去る。流れる涙が空中に散り、キラキラと光りながら地面に落ちていく。
しかし、これで何回目だろう。人生の中で7回目である。
もはや誰と戦っているのか分からないが、謎の勝利感を得たことに満足し、帰路に着く。周囲はまだ、卒業生で溢れ返っており、離れていても皆楽しそうに談笑しているのが分かる。俺はというと、その中に混じる事もなく、モブAとして卒業生達の間を抜けていく。
雑踏の中を抜けながら、自宅への道を進んでいると、はじめて嘘告された時の記憶が脳裏から蘇る。時間にして、6、7年ほど前だが、俺にとっては流れた歳月よりも遠い、遠い記憶である。
「私、透のことが好き。だから、私と付き合って」
小学生。入学してから2年目だったか、3年目だったか。俺は近所で、小さい頃から遊んでいた女の子に告白された。いわゆる幼馴染というヤツである。近所であったこともあり、その女の子とは四六時中、一緒にいた。
一緒に出かけ、一緒に遊び、一緒に笑いあった。女の子と一緒にいることは最早、日常と化し、俺自身もそれを楽しんでいたと思う。
「俺も、ーーのことが好きだ」
思えば、その時の俺にはまだ幾分か、恋愛感情というものが備わっていた気がする。幼馴染の言動の一つ一つに一喜一憂し、何よりそれに対して恥ずかしくはあるも嫌とは思っていなかった。
幼馴染の女の子からの告白に俺は、同じ感情を返すことで答えた。いや、同じ感情だと思っていたというのが正しいのかもしれない。
しかし、実際は幼馴染の感情は俺と一緒なんかでは無く、ただの勘違いであったわけだが……。
今となってはその時の俺が何を思って、何を考えていたのか。何一つ分からない。
幼少の頃の告白の記憶、今の俺には何一つ理解できないが、俺に告白してきた時の赤みを帯びた幼馴染の表情だけが印象的に俺の頭にずっと残っていた。
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