リベルタス
@TJY
第1話 戦線
『第一師団本部よりフロントファング大隊。北北東に多数のエネルギー反応あり。直ちに対応せよ。』
フロストファング大隊コントロールルームに、北方を統括する地上軍第一師団本部から通信が入った。
第一師団の運用する超広域レーダーに複数のエネルギー反応が確認されたため,詳細な調査をし、必要に応じ対処をしろとのことだった。
「フロントファング了解」
「自立型エーテルレーダー稼働、調査開始。」
すぐさま、戦地に張り巡らされている自立型エーテル探知網を使い詳細な調査を開始する。
〈多数のエネルギー体を探知、BF210、BP20、BS30、合計260機確認〉
コントロールエリア中央のメインホログラムに敵機を表すマーカーが次々と出現していく。
『コントロールより第一戦隊。エリアS30Aに敵機確認。直ちに出動せよ』
電脳を通して待機番をしていた第一戦隊に指令が入る。第一戦隊は待機室から飛び出し、基地局第一格納庫へ向かい、急いでオペレーションモービルに乗り込んだ。
「全員乗り込んだな!」
隊長のメイソンがそういうと、あたりを見渡して全員いることを確認し、
「よし! 出発!」と叫ぶ。
するとモービルが少し浮上し、格納庫の重厚な扉の前まで移動していく。
「ちっ、また俺らが待機の時に出動かよ。ついてねぇな」
隊員の一人、ルーカスがシートに腕と足を組んで機嫌が悪そうに座っている。
「全く、いつも文句ばっかり・・・」
ルーカスの隣に座っていたライリーがため息をつき、あきれたような口調で呟く。
「うっせえなぁ、聞こえてんだよ」
「だって聞こえるように言ってるんですもの」
「何だとこのアマ」
「ちょっと2人とも、こんな時に喧嘩しないでよ〜」
2人の言い争いを向かいに座っていたライアンが必死に宥める。
扉の前でいったん止まると、〈機体番号G35、搭乗員第一戦隊32名。発進を許可する。〉
という無機質な音声が流れ、格納庫の重厚な扉が開き始めた。
一瞬にして基地のある市街区を抜け、街の明かりが遠のき、徐々に暗くなっていく。フロントガラスから見える外の景色は、どこまで行っても敵機によって破壊され、崩壊した巨大高層ビル群の残骸だけ。キノコのような形や針のように上に一直線に伸びているものなどさまざまな建造物の残骸があり、その大きさが侵略前の技術力を物語っていた。その誰もいない極寒の暗闇を、たった一つの光の点が、残骸の間を縫うように進んでいく。
少しして、メイソンが立ち上がるとみんなの注意をひきつけた。
「よし、そろそろ今回のミッションを確認する。いつもと同様にミッションは敵機の迎撃。数は260。ファーストポイントに着いたらあまり深入りせず戦線の維持を優先しろ。また、エリアS30Aは過去に激しい戦闘があり、足場が脆く瓦礫で視界が悪い。周囲をよく警戒しながら進行する」
「「了解」」
作戦会議が終わると、ちょうどコックピットから、間もなく到着するという無線が入った。それを合図に、各員準備に入る。
〈武装権限アンロック、
機械音声が流れ、エーテル情報を加工したAR映像に切り替わる。それでも視界は薄暗く、見通しが悪い、せいぜい懐中電灯よりも少しましな程度だ。視点を視界の端にやると、作戦地帯のマップと友軍敵軍の情報、コアのエーテル残量、身体情報などの各種情報が映し出されていた。
〈シリアルナンバー認証完了。フロントファング大隊第一戦隊隊長、メイソン・スチール中尉〉
無機質な音声は、続けて周辺機器のセットアップ進捗を淡々と告げる。
〈
戦闘服は、インナーとアウターで構成されており、インナーは外骨格型身体強化スーツ《ESS》・攻守一体型汎用ナノテクノロジースーツ《NS》の二層構造になっている。
アウターは黒基調のコートで、300℃からマイナス200℃まで温調可能であり、ステルス性能にも優れているというなかなかに優秀なコートだ。背中には、第一師団の紋章であり、北の
各員の戦闘準備が完了したころ、コックピットにいるオペレータから目的地到着の無線が入った。
『了解。出撃する』
そう無線に告げると、車体後にあるモービルのハッチがゆっくりと上がっていき、内部と外部の気温差で風が吹き荒れ、コートがなびく。完全にハッチが開き終わると、メイソンが先頭を切って飛び出した。
隊員たちも後に続き、ファーストポイントに向かってものすごいスピードで駆け抜けていく。
『隊長改めアルファ・リーダーよりアルファ分隊各位。敵の射線と伏兵機に注意しながら前進する。背後に敵機を残さないよう扇状に広がり、殲滅しながら行くぞ』
『『了解』』
少し進んだところで、建物内外から複数の赤い筋が体まで伸びる。もちろん実際にはそんなものはなく、プロセッサーが戦闘補助のために出してくれているものだ。直後、赤線を寸分の狂いなくなぞりながら、青白いレーザーが走った。とっさに右腕を正面に構え、ナノスーツをリフレクターに変形させて防ぐ。すると、ほとばしった火花が後方の闇に吸い込まれていった。左端に一瞬視線をやると、敵機を示す赤いマーカーが前方の建物に2つ表示されている。
後ろにいる隊員に無線で合図を出し、指令を送る。
『潜伏機エンゲージまで100メートル、50メートル・・・』
全員ナノスーツで武器を形づくり、陣形をとって戦闘態勢に入る。
20メートルまで近づいたところで、建物に隠れて見えていなかった敵機を視界にとらえた。
姿を見せたのは、一般的な
アートマは、魂のような風貌であり、細かい物質の霧がコアを中心として蠢いている。中心にあるコアはエーテルの貯蔵及び中央演算を行う心臓部である。
アートマはアルファ分隊の攻撃にたまらず防御態勢に入ろうと、前方に霧を集めだした。
その時、横から防御が薄くなった側部に赤い閃光がアートマのコアめがけて伸びる。
パキッ、という音が鳴り、霧が散っていくと、ひび割れたコアが地面に転がった。メイソンはコアを拾い上げ、コートのポケットにスッとしまうと、メイソンは笑顔で隣の建物に手を振る。
その先には、巨大なスナイパーライフルを持った、グレイスが立っていた。
「キャプテン、手を振ったって見えないでしょ・・・」
ライアンが苦い笑みを浮かべてそういった。
何度か同じようなことを繰り返し、ようやく目標のポイントAに到着した。
比較的高い廃ビルの屋上へ行き、マップに目をやると、アートマの本隊はすぐ近くまで迫ってきていた。
「おぉおぉ、いつにもまして敵がうじゃうじゃいやがる」
メイソンは真剣な顔で前方をじっと見ていた。
確かに、今回は敵の数がいつもより多い。少し心配だな。うーんどうしたもんか。
数秒間じっとしていたが、考えがまとまったのか、振り向いてしゃべり始めた。
「みんな聞いてくれ。予想より敵の進攻速度が速い、これよりアルファ・ベータ班、ガンマ・デルタ班を合体させて16人体制で行動する。異論はないな」
全員の顔を見て、異論がなさそうなことを確認すると、行動開始の合図を出す。
幸い、敵機の密度はそれほど高くなかったため、建物や瓦礫をうまく利用し、効率よく確実に各機撃破していく。しかし、20~30機ほど撃破したところで、少し前から感じていた違和感が確信に変わった。
「おかしい。いつもなら撤退しているころ合いなのに、全く勢いがなくならない」
いつも無口なグレイスが珍しく自分からそう口にした。しかし、誰も何も言わず、暗い顔をしている。どうやら全員違和感を感じていたらしい。
「やっぱりそうだよね。僕もうエーテルが持ちそうにないんだけど」
「ねえリーダー、いったん戻ったほうがいいんじゃない?」
みんなの表情が少し強張る。
「いや、このまま少し様子を見る。念のため、エーテル残量には気を付けておいてくれ」
そんな話をしていると、突然ガンマ分隊全員のシグナルがロストし、そこに未確認のエネルギー反応が出現した。
「おい、何がおきた!ガンマの奴らが急に消えたぞ」
目を見開き、ルーカスが叫んだ。
突然の出来事に動揺していると、モービルにいるオペレータから通信が入る。
『オペレータから戦隊各位。緊急事態発生。巨大な未確認エネルギー反応出現。推定レベルはレッドレベル。現在デルタ分隊方面に高速接移動中。アルファ分隊及びベータ分隊はガンマ分隊速やかに合流し迎撃、撃破しろ————健闘を祈る』
全員無線を聴き、数秒間固まっていた。
「そんな、うそでしょ」
ライリーが恐怖のあまり、脱力ししゃがみ込む。ライリー以外の隊員も、恐怖と驚きで顔をゆがめていた。
敵機の危険度レベルはエーテル濃度で部類される。その中でもレットレベルは通常、宇宙空間にいる敵機から観測されるエーテル濃度で、地上にいるアートマとは明らかに別次元の存在であった。そのため、いままで接敵して生き返った者は一人もいない。そこに向かえと言うことは死ねと言われているのと同義だった。
「隊長。どうするの?」
相変わらず、グレイスは無表情で淡々と問いかける。
その問いに一瞬少したじろいぎ、メイソンは恐る恐る言葉を紡いだ。
「・・・・・みんなごめん、おれはこれから明らかに無謀な命令をする。生きて帰れる可能性はほとんどないだろう」
「謝るなよキャプテン。俺たちは何があっても、どこまでもキャプテンについていくって決めたんだ」
「そうよ、逃げたってどうせ殺されるだけだし。それに確実に死ぬって決まったわけじゃないわ」
「そうだぜ、やっと張り合いのあるやつが出てきたってだけだ」
明らかにみんなの表情は暗く、ぎこちないが、仲間の仇を打ちたい思いと、メイソンへの忠誠心で、目は死んでいなかった。
「お前ら・・・」
メイソンは目をつむり深く息を吸い、眉間にしわを寄せた。
『アルファ・リーダーより分隊各位。これより未確認機の迎撃を行う!デルタ分隊は一旦ポイントⅭまで後退、アルファ分隊及びベータ分隊はポイントFで合流し次第ポイントCに向かう、一時も遅れるな!』
『『了解』』
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